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海編
50.デスニア帝国海軍第三艦隊
しおりを挟む時はさかのぼり、ところも変わってデスニア帝国西海岸に位置する都市エレザント。
ここは首都のディシアに次ぐ帝国第二の都市で帝国海軍最大の基地エレザント港や町の中心部にはその見た目から別名“紅石城(こうせきじょう)”と呼ばれるエレザント城がある、それに隣接する形で貿易港と漁港がありそのおかげで多彩な品物や食品・鉱物資源などの輸入されたものや国内で生産されこれから輸出されるものがここに集まるおかげでいろいろな産業が成長し経済状況もデスニア帝国内で最も豊かな場所になっている、そのため町も非常に大きく発展しこの都市圏だけで小国一個分ぐらい人口を擁する。
このエレザント港を拠点にその周辺海域と帝国西部沖を活動範囲としている帝国海軍第三艦隊は帝国海軍内でも1、2を争うほどの練度と強さを誇り、コンダート王国海軍に対して連戦連勝である。
もともとコンダート王国海軍が沿岸警備を主目的だったのに対して帝国海軍は外洋や他の大陸などでの“戦闘”を主眼に置かれた艦隊でこうなることは明白であった。
海軍内では王国に対しての海上からの攻撃はもうすでに必要なしとの見解を出しているのだが、この艦隊を指揮する海軍大将オイレンベルガ・ジークフリートは完全に根絶やしにするまでは手は抜けないと考えており次なる作戦行動を策定していた。
このジークフリートは若くして海軍大将に上り詰めた軍人で、本来であればエリートコースや有力貴族であっても20年近くかかるのだが、ここまで彼が上り詰めてきたのは対王国戦での戦功と優れた手腕を発揮したのでその実力を評価され宝である。
そんなジークフリートがそう感じるのは王国では最大のキーレ港はいまだ健在でそこからの再起をはかられると厄介であったからである、ただ最新の情報によるとこのキーレ港にはすでに主力戦闘艦艇は残っておらず小型警備艇が数十隻あるのみとのことだった。
それでも用心深いジークフリートは120隻を擁する大艦隊によって出撃しキーレ港を攻撃したのち確保し、そこを橋頭保として上陸作戦を決行し王国海軍を完全に消滅させようという作戦を立てていた。
この計画を早期に実行し成功させれば、帝国軍の戦闘は王国内陸部のみを攻撃するだけとなるので、この作戦は帝国にとってかなりの重要度を持つこととなる。
そのため攻撃決行日の一か月前には出港し目的地に艦隊を向けていた。
途中王国の哨戒艇隊をバーグ沖にて発見したが戦うにしても時間の無駄になりそうなので無視して航行を続けていた。
3週間と2日目の朝にはキーレ港まであと数日あれば到達する距離についていた。
ここまで目立った戦闘もなく脅威となるものもほぼ皆無であった艦隊はここを一方的に攻撃してしまえば自分たちの勝ちだと当然のように思っていた。
ただその思いは監視任務にあたっていた艦隊の一番左端に位置していた船からの報告の後、いとも完全に消え去ってしまった。
「報告!監視任務にあたっていた船より敵艦発見との報告が入りました」
「何隻だ?」
「報告によると2隻とのこと、ただし見たこともない艦影で敵艦の中心からはすでに煙のようなものが出ているとのこと」
「手負い艦か?よし丁度良い手慣らしになりそうだ、帆を全開にしろ!距離的に明日の朝には攻撃範囲に接近するだろう」
「「「了解」」」
この時のジークフリートは兵と同じくこの作戦は少し楽観的な考えでいた。
しかもこの時受けた報告では黒く大きな艦であるとのことであったがすでに火災も発生して煙を出していて損害が出ているためすぐにでも撃破可能と判断し、この艦隊の速度から言って明日の朝には攻撃開始可能だと思っていた。
「報告!敵艦がものすごい速度でこちらに接近中!」
「何だと?!本気か?」
「はッ!間違いなくこちらに考えられない速度で向かってきています!」
その報告を聞いたジークフリートは完全にパニックを起こしていた、それもそのはずで帝国海軍が保有する軍艦はすべて風を帆によって受け止めその力で航行する帆船なので、スピードを出せたとしても頑張って10ノットが限度で普段はそれ以下の3ノットぐらいだ、それを今接近してきている二隻の船はそれを軽く超える速さで向かってきていたので、今までの常識を逸したことに考えが追い付いていない状況だ。
「とりあえず艦隊を集結させてこの船を囲むようにしろ!万が一に備えて砲撃用意もしておけ!」
こんな状況でもここまでの経験が生きてくるのか、最低限の指示をすぐに飛ばしていた。
その直後艦隊を取り囲む外側の船の周辺に巨大な水柱が何本も上がっていた。
「何が起きている!?」
「わかりません!いったい何がッ……」
その水柱が上がってから間を置かずにすぐにまた”それ”が飛んできた。
ズガンッッッ!!
その音とともに艦隊外縁部の船数隻が吹き飛んでいった。
「閣下!これは敵からの攻撃に違いありません!」
「そんなことあるかここから相当な距離があるぞ!」
この攻撃を受け完全に浮足立った帝国海軍は大した対抗策もとれなかった。
しかも距離的に艦隊の全船に装備している大砲の射程外でもあるので反撃もかなわなかった。
そんなことを考えているうちに周りの船は次々に爆発や粉砕されながら沈み、船が密集していたところでは火薬庫などに引火して大規模な火災も起きていた。
この状況にもかかわらずただ傍観することしかできないジークフリートだったが、何とかこの窮地を脱してこの情報を持ち帰るべく撤退命令を出していた。
それを受けた残存艦は徐々に右に舵を切り始めていた。
ただ速度があまり出ない上に密集してしまっているので身動きがとりにくいのでなかなかそれもうまくいかなかった。
そうやってまごついているうちに120隻もあった残存艦は瞬く間に20隻までに減らしていた。
20隻まで減ったところでようやく敵の攻撃もやみ、船が少なったこともあって撤退にようやく移ることができた。
「閣下この後はいかがなさいますか?」
「こんな一方的な敗退は初めてだな、致し方ないがこのまま帝国に帰り敵は隠し玉を持っていたと報告せねばならん、すぐに帰投する」
「御意」
その砲撃がやんだのはほんの束の間で、またしても急接近してきた王国海軍の船は攻撃を仕掛けてきた。
ジークフリートがここで驚いたのは船の中央部に出ていた煙は火災が原因の煙ではなく煙突のようなものから立ち上るものであった、しかも敵艦をよく見るとそのほとんどを金属で作られているのか全体的に灰色に見えた、そして極め付きは艦の前方と後方にはとてつもなく大きな砲門がついていたことであった。
その恐ろしくでかい大砲によってこちらが攻撃されるのを知ったジークフリートは愕然とし戦意を完全に喪失していた。
敵艦からは先ほどより激しい砲撃を受け、最終的には艦隊旗艦を含めた3隻のみとなってしまっていた。
完全な敗北と逃走も不可能と悟ったジークフリートは軍艦旗を降ろさせ降伏を宣言した。
降伏の意を理解した敵艦は砲撃をやめ、こちらにまた接近を開始していた。
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