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陸編
38.戦いに備えよ!
しおりを挟むセレアに連れられ王宮のエレザの執務室へと入っていった。ここは有事の際は作戦会議室となるように物が取り揃えてあるようで、所狭しと地図や何かの情報が書かれたものが置いてある。
その部屋に入ると、すでにエレザは地図を用意し上がってきた書類を手にしながら何やら書き込んでいた。
「陛下をお連れいたしました」
「ご苦労、リメリア、陛下もわざわざご足労頂きありがとうございます」
「それで何が分かった?」
「リメリア、話せ」
「ハッ!近衛師団内調査の末、残念なことに内通者がいたことを突き止めました。さらにその呼応した人数およそ2千とのこと」
「どういうことだ?」
「ハッ!私の管理ミスでこんな……」
「もう一度言ってみろ!!」
エレザは怒りに耐え切れなくなってしまったのか、持っていた報告書の束をセレアに投げつけた。
「私の監督不届きでこのようなことになってしまいました、返す言葉もございません」
戦場では凛々しい姿のセレアはこの状況では親に叱られる少女のようにシュンと縮こまってしまっている。
「腑抜けが、お前というものがあってなぜこうなる!?恥を知れ!」
「まぁ、落ち着いて、怒りがこみあげてくるのは解るけどこのままここで怒鳴り散らしても何も変わらないし現に悪いのはセレアじゃなくて帝国軍なのだから、この言い方はよくないかもしれないけど、いったんそのことは置いておいて、いまある情報を全て教えてほしい、そうしないと実行部隊は何もできないよ?」
これ以上のエレザのヒートアップを抑えるためここでいったんストップをかける
「し、失礼しました。陛下の御前でこのようなことを……気を取り直して今上がっている情報を述べると、帝国軍の特務部隊と反旗を翻した近衛師団の一部は現在リレイの情報通りエルシダートから約20㎞の距離に堂々と陣を張っており、その陣の旗は王国軍のものが使われており現地警備部隊もまさか帝国軍が隠れていたとは思っていなかった様子、偵察に向かった情報部からの情報によると敵は総勢2500名余りがいる模様、しかし女王陛下の姿はそこには見受けられず、そことは別の場所に移されている模様、以上が現在わかっている情報です」
「わかった。後の細かい位置とかはこれから俺が指揮する部隊にやってもらうから、それ以外無いようならすぐさま部隊を出撃させるよ」
「「お願い致します陛下と我らに栄光あれ!!」」
俺が部屋を出た後まだなにやらあったようで怒鳴り声がきこてくるが、俺は再び警備隊の訓練所へと向かっていく。
訓練場につくと、俺からピリピリとした空気が伝わったのか全員が再び整列していた。
「諸君いよいよ出撃だ。短い時間の間だけではあったが能力のおかげもあって、いくらか動かし方はわかってはいると思う、心配もあると思うが君たちはこの後もうまくいってくれると俺は信じている。そしてこの後だが城外で待機している戦車部隊に先行してもらい最初に偵察を行ってもらう。その指揮官にリレイとユリーシャ、ベル、シルヴィアを充てるその中で連隊長はベルが務めろ、すでに敵情偵察に出ている一部の“メランオピス”隊は後で戦車連隊と合同で任務に当たるように、そして後発部隊はヘリボーン部隊のコールサイン“アエトス”の出発予定は3時間後だ。以上ここまで意義があるものは?……ないな?よし!戦車連隊は出撃、“アエトス”隊は戦闘準備!」
聞き終わると全員が無言で敬礼をした後、一目散に目的の場所へと走り出していく。
部隊の概要を整理すると
1. 混成戦車連隊が先行し敵情を偵察
2. リメアが隔離されている小屋を“メランオピス”隊が捜索&強襲
3. 小屋の強襲の開始前に陽動として戦車隊が攻撃開始
4. リメアと王女を回収したのち帰投
5. 戦車連隊の撃ち漏らしを残っていた“メランオピス”隊で殲滅
この順で進めていく、そして“メランオピス”隊内に急造した今作戦の要(かなめ)、ヘリボーン部隊“アエトス”(鷲の意)の陣容は以下の通り
指揮官 レナ大尉 搭乗機コールサイン“SS(ダブルシエラ)”(UH-60)
コールサイン“S(シエラ)” UH-60隊 S1~S10 地上戦闘員 110名
コールサイン“C(チャーリー)”CH-47隊 C1~C10 地上戦闘員 550名
地上戦闘員総勢 660名
残りの部隊は戦車連隊とともに随伴兵として3の作戦に従事することになっている。
さらに、後方待機部隊として近衛師団が参加する。師団内では仲間であった者たちから離反者が出たことに抑えようのない怒りで埋め尽くされており、今は師団全体が殺気立っている。
そしてもちろん俺も現場指揮官として“メランオピス”隊とともに行動するのだが、ここで俺は(本来すべきではないと思うが)試験運用と実用試験もかねてWaltherP99とHK416Cを使うことにする。
HK416Cはエレザやミレイユが愛用しているHK416のサブコンパクトタイプでストックを伸ばしても約690㎜(通常(14.5in)タイプは伸長時890㎜)と短く本作戦に向いている。
WaltherP99はP38で有名なドイツのCarl(カール) Walther(ヴァルター(ワルサー))社で開発されたもので、今の銃業界で多いポリマーフレームを採用し、作動機構をストライカー方式と呼ばれる銃後端のハンマー(撃鉄)を持たず代わりにファイアリングピン(撃針と言って薬莢の発火させる部分(雷管)をたたく部品)で直接弾薬を撃発させるものになっている。この銃の特徴として、ハンマーがある銃などはハンマーが起きている状況を見れば撃発可能かがすぐわかるが、P99には弾薬が薬室内に入っていることが分かるように備えられたローディングインジケーターと銃後部に目視や指で分かるようにコッキングインジケーターと呼ばれるものが備えられスライド後端からピンが飛び出してくる。そしてほかのストライカー方式にはないデコキックングラッチがあり安全に銃内部にあるファイアリングピンを安全な位置に戻すことができる。そしてP99はバリエーションによって異なるトリガー(引き金)の動きがあり、AS(アンチストレス)とQA(クイックアクション)、DAO(ダブルアクションオンリー)に分けられる。今回使用するのはASタイプで初弾発射時はシングル/ダブルアクションで動作し、初弾装填時には引金の動く幅がダブルアクション状態で作動はシングルアクション状態になる。この状態のことを“ロングストロークシングルアクション”と呼ぶ、この引き金の引く幅が大きくなることによって不意の物音や、極度の緊張状態のときに指が思わず動き、暴発させるのを防ぐ効果がある。
何故この期に及んで新しいものを出してきたかと言われれば、今後この国の軍隊や法執行機関などにおいて使用する銃器を今のうちに選定しておきたいのも理由の一つだ。もう一つあるのかと聞かれれば、そのことに対して「男のロマン」とでもいうかもしれない(だってそうでしょう?)
俺は召喚が終わりひと段落した後、P99とHK416Cを地下のシューティングレンジに持っていき他の隊員と交じって、ゼロイン(ゼロ点規正とも言い狙った位置に着弾するように照準器を調節すること)をしながら訓練に励んでいた。
訓練分の弾が尽き出立の用意も終わり、セーフティゾーンで翼を授けてくれる飲み物を飲みながら休んでいると、レナが真剣な目をしながらやってきた。
「ご報告申し上げます。先ほど先行していた戦車連隊より通信があり敵の位置を完全に把握できたのこと、現在わが方の部隊は敵部隊付近で待機中」
固定無線機や携帯無線機などの通信機器も“メランオピス”隊に配備しており、隊内の後方支援隊と戦車連隊との通信に役立っている
「ご苦労、いよいよだな。すぐに出撃!」
「了解!」
“アエトス”に対して出撃命令が発令され、俺がレナと一緒に地上に出るころには既に日も落ちあたり一面真っ暗であったが、ヘリが衝突防止用のライトやヘッドライトをつけていたのでそこだけ明るかった、そして全機に兵員が乗り込み俺らが乗ればいつでも飛べる状態になっていた。
その中の指揮官搭乗機として用意した(他のとあまり変わらないが)UH-60にレナとともに乗り込む、乗り込んだことを確認した後一斉にヘリは上空へと飛び立っていった――
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