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陸編
31.パンツァ―フォー!!
しおりを挟む敵は依然としてこちらの前方に陣取ったまま動きを見せなかった。
「第二・三及び機械化歩兵大隊は指示あるまで待機」
俺は連隊全体に命令を指示すると、自身の部隊に対していよいよ攻撃命令を発令した。
「連隊長より第一戦車大隊大隊長、これより敵陣に向けて前進を開始せよ」
「こちら大隊長、了解」
通信を聞いた一拍置いてベルは行動を始めた
「大隊長から第一戦車大隊各車、戦闘開始!先頭に続いて全車前へ~!」
ベルの搭乗する10式が先行し俺の搭乗する10式はその二番手につく、その後ろに綺麗に戦車が一列に並び、最初は敵を左に見ながら斜めに進んでゆく。
敵との距離が3000mに入ってきた頃に、今度は左に回頭し敵を右手に見ながら進む、ここまで来ても敵は動く様子を全く見せない。
「大隊長から第一戦車大隊各車、これより砲撃を開始する……目標前方歩兵上空、弾種榴弾、大隊集中行進射、撃て! 」
ドドドドドドドドドドドッ!ドドドドドドドドドドドッッ!
周囲に砲撃によるすさまじい衝撃を発しながら、第一戦車大隊所属の戦車が進みながら一斉に中心の敵歩兵の少し上に向けて主砲の44口径120㎜砲が火を噴いた。
砲撃してから、数瞬後に敵歩兵の真上で爆発が起きた。
「……命中!撃ち方待て!」
この敵の頭上に砲撃する方法は、曳火砲撃と言って、砲弾を空中炸裂させ砲弾の破片を水平より下方への広範囲にわたって飛散させ、地上に展開している歩兵部隊を殺傷させることができる。特に今回のように歩兵が多数展開している状況にはもってこいだ。
「連隊長より大隊長、爆発確認、全車右に回頭し次弾撃ち方はじめ!」
「大隊長了解、目標変わらず、各個射撃せよ!」
今度は敵を左に見ながら、一方的に砲撃を加えていく。
目の前では、爆心地から少し離れたところに位置していた。盾を装備していた歩兵たちが爆風と破片によって吹き飛ばされ、爆心地中心部では、もはや人間の姿形すらない状況であろう。
そんなこともつゆ知らず、次々に砲弾の雨を降らせていく。
さすがの敵も、大きく蛇行しながらではあるがこちらに向かってくる脅威に対して進撃を開始した。
中央に展開していた歩兵は文字通り消滅してしまったので両翼に展開した。まだ戦闘能力が残っている歩兵がこちらに動き出した。
「連隊長より、第二・第三大隊長へ、進撃を開始せよ。なお第二大隊は右翼方向へ、第三大隊は左翼方向へ向かえ」
「第二大隊リレイ了解、panzer vor!!」
「第三大隊ユリーシャ了解、各車 Go ahead!!」
俺は動き出した敵に対して即座に反応し、後方に待機していた第二・三大隊に指示を飛ばす。
「連隊長より、第一大隊へ、すぐさま後退し元の位置に戻れ!」
「大隊長了解!大隊各車、目標右後方敵歩兵、弾種榴弾、大隊集中後退行進射、撃てッ!」
一列に並んで射撃していた10式戦車は、砲塔を敵に向けたままその場でいったん止まり、くるりと車体の向き後ろに変えてすぐさま最大速度で後進しながら射撃を開始する。
最高速で敵右翼側に向かったレオポルト2A6の第二戦車大隊は、後退する10式と交差するように進む。
「連隊長から第二大隊長へ、敵に対して平行に車列を組み一旦停止して一斉射せよ」
「第二大隊長了解!私たちを放置したことを後悔するんだね! 全車停車、榴弾で一斉射!Feuer!」
ドドドドドドドドッッ!ドドドドッッ!
横にズラリと並んだ60門もの55口径120㎜砲が一斉に弾を放つ。
その砲撃に敵は、違うところから急に現れたことに驚き、さらに攻撃してきたので完全に浮足立ってしまった。
その後も第二大隊は次々に弾を撃ち込み、しまいには煙幕で敵の所在がわからなくなるほどであった。
左翼に回ったユリーシャ率いる第三大隊は、M1A2エイブラムスに積んでいる車載機銃を含めた火器を総動員して無数の砲弾の雨を敵の頭上に降らせ壊滅させていった。
「よし!最後の仕上げだ!連隊長より第四機械化歩兵大隊、敵中心地に進行し残党を叩け!」
「第四大隊長了解!全車突撃!前へ~!」
最後まで待機していた89式装甲戦闘車隊を前進させ、もとの部隊がどれなのかわからなくなってバラバラに散ってしまった歩兵を“処理”させる。
第四大隊は火器による交戦距離になると90口径35㎜機関砲や車載機銃・M2重機関銃を撃ちまくり、奥から突撃してきた騎兵隊に対して痛撃を加える。
敵地中心部に到達すると、乗車歩兵を降車させ、各歩兵に持たせていたHK416 によって殲滅戦と捕虜回収を始める。
第四大隊が敵中心地に着くころには、敵の大規模な組織的な抵抗はなりをひそめ、散発的に戦闘が起こるだけの状態になっていて、残るは敵の本隊のみとなっていた。
キールは嬉々として戦場に向かったものの、途中からいやな胸騒ぎがしていた。
というのも、先ほどまで後ろに確認できていた、ディアナ直属の部隊の旗が見えなくなりまるで気配が感じられないからだ。
さらに、伝令が命がけでもたらした情報も、この世界では何とも信じられないようなもので、“光の矢”が飛んできて部隊が壊滅何ぞ聞いたこともなかった。
敵の現れるであろう進行上の草原に部隊を左右に大きく展開させ、前の歩兵には身長の1.5倍はあろうかというような盾を持たせ、自身の手前には騎兵隊を展開させた。
(こうすれば敵もそう易々と破ってこれまい)
キールは今までと違ってかなり安易な考えをしてしまっていた。
今回キールが喜んで戦場に向かっていったのは、目先の功労をもらうためではなく、この戦いにどさくさに紛れて“彼女”を奪うためであった。
以前より、士官学校などでリレイに知り合っていたキールは、クールだが抜群のプロポーションを持つリレイに、いつしか恋をするようになっていた。
そんな彼はリレイに自分の存在感を示すようにどんどん上に上がっていった。
しかし、その上に面白いように上がっていく自分を見て、リレイはあまりいい印象持っていなかったので話しかけてもいつも突き放されて、顔さえ合わせてくれなくなってしまっていた。
ただ、今回はリレイはこちらに仇なす存在になったのでこれを好機と思い、すぐさまここで恩情を与えてやるのを条件に懐柔してやろうかと思っていた。
(これで、あの娘を俺のものにできる!どんな集団だかしれないが、必ず討ちとって見せる!)
その場でしばらく待つと左前方から、土煙を上げながら猛烈な勢いで進んでくるものが見得てきた。
しばらくするとその集団は人間ではなく長い筒のようなものを先端に付けた箱のようなものだった。
それを見て、幕僚たちと、大きく左右に蛇行しながらこちらに向かってくる共に動く箱を「あれは新作のおもちゃのショーに違いない」と笑っていた。
しかし、そんな余裕をもっていられるのはほんの数瞬で終わった。
敵は筒のようなものの先端から火を噴かせ、こちらに向かって何かを撃ち込み始めた。最初はそれこそクラッカーを鳴らしただけだろうとだけ思っていたが、前方の歩兵たちの上空で爆発が起き、その度重なる爆風で歩兵隊が崩れ始めてきたのを見て、さすがのキールも敵の“攻撃”だと悟った。
その判断の遅さが仇となり、左右に敵が回り込みすでにこちらは中央に丸め込まれてしまっていた。
ついには歩兵隊が壊滅し、騎兵隊も決死の突撃を行うが前から来た新手に、それこそ報告で聞いていた無数の“光の矢”を受けあっさりと消えていった。
キールのもとには次々に隊の壊滅・消滅を知らせる報が届いていた
(クソ!なんだ、何だってんだ!)
キールは初めての敗戦に混乱し頭を抱え、苦悶の表情で下を見続けていた。
そんな使えなくなった上司に対して、部下たちは撤退を進言してきた
それでも引こうとしないキールに、あきれ果てた幕僚たちは、ついには椅子ごと数人の部下でキールを持ち上げさせ、そのまま残るわずかな手勢で撤退し始めた。
これによって帝国軍によるハミルトン侵攻作戦は完全に崩壊した。
撤退していく敵本隊を見つめながら俺は追撃命令を出そうとしたが、今回はこれで終わらせようとした。
この作戦はあくまでも帝国軍を王国領から追い出すことであって、壊滅させることではなかった、できることならここでやっておこうとは思っていた部分もあったが、敵のあまりに無様な敗走の仕方を見ていてみじめになってしまい思いとどめた。
リレイとユリーシャは荒い息を吐きながら必死に追撃命令を求めてきたが、彼女たちもその周りにいる隊員も初戦の為これ以上戦わせるわけにはいかないと説明したら、何か言いたそうな顔をしていたがすぐに静かにしてくれた。
この作戦でこちらの損害は、降車戦闘時での矢による軽傷者以外は死者も出ず、見事な完全勝利であった。
さらにこの戦闘で得た知識を蓄えていき完全な戦力になっていけば、このあと編成していく部隊への礎になってくれるだろう。
そんな、一方的ではあるがこちらにとっては最新兵器と最新戦術をもちいた作戦は成功をおさめ、安心した俺たちはゆっくりとハミルトンへと帰っていった。
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