迷宮城塞都市の怪物傭兵

人鳥

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第1部 クラン抗争編

第12話 寝坊の主役ーくっせぇ女

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「くぁ~……。おはよう、エンマ。悪い、二度寝してた」
「おはようおにいさん。お客さんが来てるわ」
「みたいだな」

 執務室へ昼時になって漸く現れたナキが眠そうに欠伸をした後、エンマに悪びれも無く謝罪を口にする。
 そして、エンマの隣へ腰かけつつ紗雪とマイへ視線を向ける。
 眼を細めて紗雪とマイを天辺から足先まで興味無さ気に見下ろした後、視線を外す。
 観察される中、視線を合わせにいったが統べなく無視された紗雪とマイは彼の眼を見て瞬時に自分達に対する明確な拒絶を感じ取っただろう。
 朗らかな空気が一転、重く気まずい空気が室内に流れる。

 初対面の二人は自分達が歓迎されていないことに簡単に察し、無意識だろうか、僅かに姿勢を正す。
 また、ナキの勘の良さをよく知るエンマは彼のこの対応に早くも冷や汗を垂らす。

 気付かれた・・・・・――、とナキの異常な勘の良さを知るエンマの胸が緊張で高鳴る。
 空気を払うべく、既に立ち上がっていた二人は軽く会釈し、自己紹介を始めようとする――が。

「初めまして、私はマイヤーナといいます。こちらは――」
「自己紹介は結構です。申し訳ありませんがお帰りください」

 マイの紹介をピシャリと遮り、座ったままだが二人に深々と頭を下げる。
 徹底的に拒絶する気満々であった。

「あの、おにいさん。折角来て頂いたんですから、せめてお話だけでも――」
「必要無い。エンマお前、この人達とグルになって依頼なんか受けさせようとしてるだろ……」

 得意気にナキが笑い、エンマの頬を片手で下から挟みこむと、むにーっと口を尖らせる。
 ナキは既に気付き、二人を知っているのだから。
 エンマがこの二人と協力関係にあることも。
 昨日街中でモンスターに襲われていた件……厄介事の最中であることは当然ながら、目の前の二人が相当な実力者で、どこぞの"組織"月光蝶に所属していることを。

「折角来てくれた所悪いんですけど、帰って貰えます? うちには子供もいるんですよ」

 子供――エンマの頭にポンと手を置き、ける。

「子供をあんたら大人の事情に巻き込むつもりですか?」
「そんな、エンマさんを巻き込む意図はこちらにはありません! まずはアタシ達の話を聞いてください!」
「意図は無くても関われば、家族に危険が及ぶ可能性があるでしょうが。帰ってください、勇士なら、自分達で何とかするのも仕事でしょう」
「――そこをなんとか、まずは話だけでも!」
「無理です。他人より身内を優先します。帰ってください」
 
 兎に角、話を聞いてもらうべくマイが懇願し、それを口調だけでなく、態度でも冷たく拒絶し続けるナキ。
 それだけ彼女達、否、有名なクランに関わるリスクを危惧しているのだろう。
 取り付く島もないとはこのことだ。
 とはいえ、話を進めるには何とか聞いて貰うしか無い。
 
 そこで無理にでも話を聞いて貰おうと紗雪が手を前に伸ばし、ナキの目の前、空中に半透明のスクリーンが何枚も出現させる。
 スクリーンの全てが依頼内容にかかわる画像や文書が記載されたものだ。
 見慣れない物で興味を引いて、そのまま説明に担ぎ込もうという魂胆だ。
 突然現れ、視界に映るそれらを前に、狙い通りと言うべきか、ナキの纏う拒絶の雰囲気が無散した。

「まず、これを――」

 マイに続いて紗雪が説明をしようとする――が、
 爆発的にテンションがぶち上がったナキとエンマの大声が紗雪を遮る。

「へぁ!? うおお!? なんだこれ!?」
「お、おにいさん! う、浮いて、浮いてる! これが次元漂流者異世界人の方々の言う、未来! 未来っていうのよね!! どうなっているの!? 」
「見ろエンマ! 触れるぞ! ガラスみたいだ!!」
「凄い! すり抜けるんじゃなくて触れるなんて! なんで浮いてるんだろ!? わー!」
「紙みたいな薄さだぞ!? どうやって浮いてんだ!? ってかなんで触れるんだ! マジかよ! すげーな! かっけぇなおい!」

 時折この世界に流れ着く次元漂流者が度々残してきた書物漫画にあるような現実に二人の興奮は止まらない。
 ナキのテンションの変化が激し過ぎて紗雪とマイの別物を見るような目がこの部屋唯一の男に突き刺さる。

「これ欲っしい! めっちゃ欲し――」
「……落ち着いて。受けるかどうかは一旦置いて、まずは話だけでも……代わりに色々見せるから」

 紗雪とマイが送る刺すような視線に気付かないのか、ナキのテンションが静まらない。
 これでは話にならない、と紗雪が言葉を掛け、水を差す。
 
 「あー、失礼……」

 憮然とした態度が一転、恥部を見られたようなどこか居心地の悪そうなナキを他所に、スクリーンを掻き分け、敵主力である幹部連中を映した映像がナキの前に表示させる。
 
「こほん、まず、これを見て欲しい」
「……何人か新聞で見た事がありますね。有名な屑共だ」

 恥ずかしい所を見られたからか、それとも紗雪の出す奇怪な代物への興味がそうさせたのか、少し態度が軟化したナキがスクリーンを見て言葉を返す。
 どこぞの国で暴れて大量の犠牲者が出ただの、危険なモンスターを迷宮から持ち出して街で放って悪用しただの。
 そういうろくでもない事件の犯人として新聞で報道されているのをナキは見た覚えがあった。

「……正確にはわからないけど、少なくとも一ヵ月以上前に彼等はこの都市に侵入している。狙いは私」
「ほぉ……。それはこういうのが原因?」
 
 ナキが目の前の"空想科学"を指差す。
 街中に点在する"監視カメラ"や都市住民に広められた"防犯グッズ"なる魔道具アイテムも、異世界人の齎した"銃"と呼ばれる妙な玩具のような骨董品も。
 紗雪が創造した監視カメラは元あった世界の物をこれまた異なる世界の技術と組み合わせた超進化版ではあるが……この世界には元来存在しなかった、到達していなかった、他所から持ち込まれた技術の"結晶"は全て目の前の少女がこの都市に広めた物だ。
 都市中で良く見るそれらを容易に上回る"未知"。
 これを知れば狙われるのも当然だろう、とナキは一人納得した。

「……理解が早くて助かる。私の"能力"【深淵より記たる泉ブラックボックス】はこういうのを簡単に作れちゃうちょっと凄いの」

 こういうの、と言った後どこからともなくポンポンと紗雪の制作物を取り出す。
 産廃に似た形の物やスクリーンを含めた物は、そのどれもが二人の見た事の無いものばかり。
 まぁ凄い、マイさんこれは何?、と再度テンションの上がるエンマを尻目にナキが考えを巡らせ、指で顎をさする。

「――"能力・・"、ねぇ……」

 強調された単語に紗雪は反応せず、静かに二人の視線がかち合う。
 
 視線を交え腹を探り合う二人を無視し、エンマが興味を持った物を手に取り始める。
 
 沈黙と歓声という対極が室内で繰り広げられる。
 少しの間があり、隠し切れない呆れを顔に出しナキが口を開く。
 協力する、という話がどこへ行ったのか……隣のエンマが暴走し始める。
 
「……ま、そこはいいです。面白い物を見せて貰ったので話は最後まで聞きますが、受ける気は無いのでそこは悪しからず」
「こ、この硝子の付いたアイテムは何なんですか!?」

 徹底する拒絶に紗雪はつい、溜息を一つ零す。
 盛り上がるエンマに釣られてか、面倒は紗雪に任せ始めたのか、ついでにマイも暴走する。

「……ごめん、お願いしているのに今のは失礼で不誠実だった」
「これは右目に掛けると相手の生命力の総量を量れる機械? とか言う魔道具っぽいやつね! 勇士は目視で大体わかるから使ってるの見たことないわ!」

 と、男へ小さく謝罪を口にし、誠実に全て話すことにした紗雪が言葉を続ける。

「……貴方が察した通り、私の力は能力では無く、七体いる内のどれかも分からない『宇内の始原獣エルダー・ワン』から授けられた"加護"。これが原因で私は常に身柄を裏社会に狙われてる。そして、今クランうちは事情があって戦力不足で、私の護衛が欲しくて……」
「じゃあこれは!? 筒?みたいですけど……」
「護衛? 最上級勇士都市最強クラスの貴方に?」
「確か、手に嵌めるとそこから空気の弾が撃てる機械だったかしら……? パンチ出して作る拳圧の方が強いから要らないって言ってたわよ!」
「……うん。少なくとも迷宮にいる主力メンバーが地上に戻ってくるまで」
「……傭兵にそんなこと頼むなんて何考えてんですか。荒事は実力派クランに頼むべきでしょうが」
「要らないものばっかりなのね! じゃあこれは!?」 
「それは料理に使う用のお菓子を砕く機械ね! 手で潰せばいいしそもそもお菓子が料理に必要になることが殆ど無いからずっと埃被ってるわね!」

「「…………」」

 真面目に話す二人と要らないことを話す二人。
 ナキが静かに立ち上がり、顔を寄せ合って話す二人の肩に手を掛ける。

「えーっと……エンマとマイヤーナさん、だっけ? ちょっとこっち来よっか」



「身内が失礼しました」

 二人を別室へ締め出したナキが座椅子に座った後、気まずそうに軽く頭を下げる。
 がっつりシリアス目の雰囲気を出してたのに、空気を読まない奴等に全てをぶち壊された二人は照れが隠し切れず、僅かに頬を赤くする。

「……い、いやこっちこそ申し訳ない」

 どっちがより恥ずかしい思いをしたのか、ともし聞かれることがあれば今回は間違いなく紗雪だろう。
 エンマはまだ子供だが、マイはしっかり成人済み――それも十年前から大人に混じって勇士をやっていた分、年齢以上の人生経験の厚みを持つ彼女が子供とハメを外しまくった姿を見せたのだ。
 しかも、二人は一応クランの代表として来たのにだ。
 親友の醜態には、流石の紗雪も羞恥心を感じ得ないだろう。

 ごほん、と咳をして紗雪が空気を改め二通の封筒を手渡す。

「……これを。一通はうちの副マスターである大船から、もう一通は私達も内容どころか差出人も知らない副マスターの"友人"から。依頼を断る前に、どうかこれに目を通して欲しい」
「……」

 無言で受け取った二通の封筒に無言で目を通す。
 大船からの手紙には、クランの現状と護衛の必要性や紗雪という人材の重要性、そして依頼らしく報酬に関しても書かれていた。
 
(……報酬は金と高額アイテム、それと"非合法依頼受諾及び、殺人罪含め他十件の罪の帳消し、並びに関連事件の向こう一切の調査終了"、ね。流石にあの大船三雄おっさんにはバレてたか……)
 
 彼女の重要性も、なぜ手が足りないかも理解はした。

 癪な話だが、家族が平和に暮らす為には月光蝶の働きが不可欠。
 受けなけばここに来るまでに見た平和な風景が汚されるかもしれず、さらに目の前の彼女は悲惨な目に合うぞ、それでもいいのか、と。要は半分脅しも兼ねている訳だ。
 今のナキからすれば「ふざけやがって」という憎まれ口の一つも許される気分だろう。
 
 クランという組織はこの都市ではかなり優遇される。都市から多種の支援を受け、功績を上げる度によりそれが増える。
 ある程度名が知れたクランならそこらの貴族よりも影響力は強く、「六大クラン」にもなれば恐らく都市内でもトップの権力を持っているだろう。
 六大クランに所属する勇士、その上澄み連中は一騎当千。
 「怪物(モンスター)を虐殺する、血生臭い闘争心に染まった化物」の集団が持つ"力"に逆らえるものはこの都市でも多くはない。
 そんな連中が、脅しを掛けて来ている訳だ。心境としては複雑というものだろう。
 
 気分を改めようともう一つのヤケに分厚い封筒を開く。
 入っている手紙の枚数は約二十枚超、筆跡はとても見覚えがあるもので、内容は子供が駄々をこねる様を録音して文字にした、としか思えない内容だった。
 中には"お願い"という単語だけがみっちりと書かれた紙が入っているのを見つけた時は、友としては流石に冗談であって欲しかった。

(あの犬、何してんだ……)

 駄々を捏ねれば言う事聞いてくれるんだろ垂れ目パンダ、と言外に思われているような気がしてならないが、一旦ふざけた文章を飛ばして読み進め本題に目を通す。 

(ちゃんと仕事はしてる訳だ……)

 速読とも呼べる速さで手紙を読み終えたナキが目線を上げる。
 あの戦友銀の獣人がこうまで助力を求めているのだ。
 恐らく、自分が把握していない自分達にとって重要な何かを掴んでいるのだろう。
 ならば、自分の意地より彼女の思惑を優先するべきだろうか――ナキの思考に揺らぎが生じる。
 
 「依頼の返事は一旦保留、じゃ駄目ですよね……?」
 「……早めに……出来れば今返事が欲しい」

 眉間を抑えるナキと俯く紗雪。 
 再度、静かな空気が二人の間に流れる。

 「――今は、無理です」
 「…………」

 少しの間、俯いて動かなかった紗雪が気落ちしつつも立ち上がり、背を向けて歩き出した時、ナキがその小さな背中へ言葉を続ける。

 「夕方、そちらのクランハウスに顔を出します」
 「――!!!」

 バッ、と勢い良く振り返る紗雪。
 ナキは続ける。

 「良い返事が出来るとは限りません。只、これから話さないといけない奴がいるんで、それで決めます」
 「……大丈夫。私達が切った火蓋で勝手に追い込まれて、貴方達を火中に巻き込んで、身勝手なことを言ってる……。でも、私達に手を貸して欲しい……」

 紗雪の言葉に返事はしなかった。
 返事が出る前に彼女の表情が気になったからだ。
 
 (え、演技うさん臭ぇ……臭過ぎる……目が物を言いすぎだろこれ! もうちょっと隠せよ!)
 
 事務所に来てからも終始無表情だった紗雪が当然見せ始めたしおらしい態度と儚い笑顔で申し訳なさそうに願い出る、幼げで人形染みた可憐さを持つ少女のこの様を見る者が見れば、親切心やら父性やらが沸いて前向きに捉えそうなものだがナキは違う。
 表情変化が疎すぎる彼女だが、目や態度は分かりやすいほど表に出てくることをこの短い対談の中でナキはしっかりと見抜いていた。
 あ、この子、俺を当てにしてるんじゃなくてその付録か何かが欲しいんだろうな――と、紗雪の欲望溢れる瞳を見て、ナキはそう判断した。
 
 (理想を求める子供行動力の塊のお守りか……この子の世話は骨が折れそうだな)
 

 紗雪は演じる。
 悪い奴等に狙われる哀れな小娘の己を。
 彼がいれば手に入る自由を手にし、敵を倒してこの都市の安寧を続ける為に。
 我ながら良い演技をしていると思うが、鋭い目でこちらを見る目の前の男は騙されてくれない……ように見えるが気のせいだろう。自分の演技は完璧なはずだ。
 しかし、三雄が認めるだけあってそこらのヤワな男では無いということだろう。
 
 この男……ナキは初めて会った時から自身へ向けるこの不快な目線がどこまでも紗雪の勘に逆撫でていた。
 
『動けるならあそこで動けなくなっている子供の保護をお願いしていいですか?』

 昨日、マイに掛けられた言葉を思い出して、頭に上る血を必死で抑える。
 いや手助けしてくれた事は感謝しているのだ、本当に。
 思う所はあったが、彼の事を聞くまではこんな悪感情は一切無かったのだ。
 月光蝶(自分達)の不手際で彼を巻き込むことに言い表せない程の感謝と謝罪の気持ちも持っている。
 
 だが、あの日、目の前の男はマイ越しに紗雪を"子供"と、二十二歳になる立派な女性(※当社比)たる己に対してそう呼んだのだ。
 正直言って、不満が収まらない。
 ここに来てからも紗雪を見る目は幼な子を見るような目で見降ろしてくることも、
 あの三雄にその実力を認められ手放しで褒めらていたことも、
 紗雪とマイ(最上級勇士)二人で駄目なのに、彼一人いれば自由すら認めると三雄が言ったことが、
 叔父三雄が認めるほどの力を持っている男が何故傭兵なんぞをしているのか……もっと他の職に就いていればもっと社会の役に立つだろうことが。
 紗雪に不信感と苛立ちを与えていた。
 
 気に入らない――紗雪はそれ程までに認められていながら力の行使強者の義務を全うしていない大畔ナキを疎ましく感じている。
 紗雪も理解はしている。
 これは醜い嫉妬であり、突然出て来た親切な余所者に下らないやっかみを抱いていることを。
 
 (でも、やっぱりこの目が気に入らない……! 私は二十二歳だぞ! 来年には豊満になる乙女だぞ!)
 
 感謝と申し訳なさと怒りと嫉妬で気持ちが落ち着かないが、それでもどうせなら利用してやる。
 その為ならバレていたとしても、いやバレてはいないが、演技の一つぐらい通して見せるのだ。

◆ 
 
 通話を終えた共鳴石を懐へしまい、執務室の隠し貯蔵庫から酒瓶と日持ちする肴をいくつかを巾着型の鞄に詰めたナキが事務所を出て鍵を閉めて歩き出す。
 エンマは既に帰らせた後だった。

 賑やかな屋台道、子供達が木の棒を振り回し、暇な勇士が買い食いして仲間内で馬鹿話に花を咲かせる。
 道が清潔に保たれて子供達が日中、安心して外で遊べ笑顔がある街並み。
 数年前まではありえなかった風景。
 これを彼女たちが作ったのだ、と強く認識させられて最後に見せた表情が想起する。
 彼女達がいなければ、今でも薬物中毒者がそこらにいて、少し脇道に逸れると善人悪人問わず死体が転がる、クソみたいな風景だっただろう。
 依頼を受けたい気持ちがあるが、どうしても心に残ったしこりが邪魔をする。
 あれ程距離を置いたクランに今頃になって力を貸す、ということへの嫌悪感がどうしても消えてくれない。
 だが力にもなってやりたい、というジレンマが既に出ている答えを認められないのだろう。

 だから、元凶に責任を取らせることをナキは決意したのだ。

 検問を抜け、都市の巨大門をくぐったナキはそのまま平原を歩き、広大な平原の中に鬱蒼と広がる森へと向かう。
 進むほど険しくなる獣道を通り、目的地に着いたナキは手頃な切り株に座って暖かい日差しと隙間から様子を伺うモンスター達の視線を受けながら"相棒"を待つ。
 持ってきた酒と肴をいつも机代わりにしている大きな底の浅い切り株へ並べていると遂に待ち人が草木の中から顔を出した。

 「すまない。待たせたな」
 「――来たな、ベルカ」

 銀の毛並みに狼の耳と尾を生やした着物を着た獣人族の女性。
 口から犬歯を覗かせて美しさと野性味ある笑顔を向ける長年のナキの相棒。
 前日に紗雪達の元にナキを向かわせ、三雄に手紙を渡した張本人――名をベルカ。
 
 獣人族の古い言葉で「偉大な牙ベルカ」を意味する名を持つ彼女はギチギチに膨らんだ鞄を肩に掛け、それはもう冷や汗びっしょりでナキの前に出頭した。
 

―――――――――――――――――――――――――――
 
 傭兵=探偵みたいな感じで基本的に浮気や素行調査、失せ物探しがメイン業務です(要するに勇士がやらないくそ簡単な雑用ぐらいしか仕事が無い)
 多少認められた傭兵は荷物持ちや雑用係として迷宮探索に連れていかれることはあります。
 この世界の傭兵は才能が無い(能力が有用なものでは無い)、度胸が無い(痛いのも怖いのも嫌、反勇士に恨まれるのも嫌)、努力したくない(勇士になって弱い敵を倒して最低限楽して生きたい)から強い人達に寄生してお零れで金になる素材を安全に持ち帰れて、ワンチャン強い能力新しく目覚めることを願う勇士志望が就く場合が殆どです(夢はあるのにやる気は無いフリーターが近いかも)
 なので、職業は傭兵です!って言うと結構白い目で見られます。傭兵を嫌う勇士も一定数います。
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