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妖言屋さんと幽霊のお願い
第二話 ひょっとして……
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五時間目の授業が終了し、教師が退室すると教室はがやがやと騒がしくなる。
愛言は帰り支度をしながら耳を澄ませてみたが、聞こえるのははっきりとした生者のものばかりで授業中に聞こえた声を拾うことは出来なかった。
(あの声、やっぱり霊よね。でも姿を確認することは出来なかった。意図的に姿を消しているのか、霊感のある人間にも見えないほど弱っているのか──あの声の調子からしたら後者の可能性が高いわね)
愛言は生業上妖怪や幽霊をはっきりと見ることが出来る。霊視や見鬼と呼ばれる能力が強い愛言は今まで姿が見えないということがなく、今回の件は初ケースだった。
(何とかこっちからアプローチしようとしてみたけど、反応なかったし)
授業中に幽霊や妖の声を聞いたり、話しかけられることは珍しいことではなく、その時は小さくジェスチャーをしたり、ノートを使って筆談をしたりと工夫をしていた。今回もその手段を使ってみたが、霊からの返事はなかった。
(それに、待戸くんのことも気になるし)
愛言は斜め前の待戸を見た。
リュックに教科書やノートを詰め込んでいた待戸はチャックを閉めると、リュックを机の上に置いて教室を出て行った。
(これは、話を出来るチャンス!)
愛言は待戸を追って教室を飛び出す。
校舎端のあまり使用されてない人気の少ない階段を降りていった。
一階の廊下に出ると辺りは急に薄暗くなる。
蛍光灯が切れている上に窓の外に何本もの楓の木が植えられているため、日が当たらないからだ。
待戸が立ち止まり、愛言は声をかけようとしたが、待戸が溢した言葉にタイミングを見失ってしまう。
「待と──」
「あー、くそ。久しぶりにやらかした」
顔を押さえて溜め息を漏らす待戸に愛言は思わず様子を伺おうと身を潜めた。
「あれってやっぱ……いや、無視だ無視。そういや君枝って……」
何やらぶつぶつと行っている待戸を影から眺めつつ、小さく君枝と自分の姓が聞こえ、徐々に予想が確信に変わる。
「待戸く──っ!」
今度こそ声をかけようとした時、再びあの声が廊下に響いた。
「き……るの? ……ねがい……けて……」
周囲が静かなためか先程よりは声を拾いやすいが、それでもやはりはっきりとは聞き取れない。
(何だろう? 助けを求めてるの? でも何を言っているのかわからない。どうしよう、こんなの初めて)
愛言は戸惑い、せめて声の主の位置を確認しようとしたが、その時、待戸が大声で怒鳴った。
「ああ、聞こえてるよ! なんなんだよ! お願いって、届けてって! それだけじゃわかんねーよ! 分かりやすく言えっ!」
苛立ちを含んだ声が空気を揺らす。愛言は驚き、思わず後ずさる。またしても声をかけにくくなった愛言が愛言を見ていると、その頭上に靄のようなものが現れた。
「あっ!」
愛言が声を上げ、待戸が振り向く。
「君枝」
「や、やぁ!」
呼ばれて引きつった笑顔で返事をする愛言はちらりと靄を見つめながら待戸に訊ねた。
「あのね、待戸くん。ひょっとして──聞こえてる?」
ぴくりと眉を動かした待戸は息を吐いて、どこか納得した顔で訊き返して来た。
「お前もか?」
愛言は帰り支度をしながら耳を澄ませてみたが、聞こえるのははっきりとした生者のものばかりで授業中に聞こえた声を拾うことは出来なかった。
(あの声、やっぱり霊よね。でも姿を確認することは出来なかった。意図的に姿を消しているのか、霊感のある人間にも見えないほど弱っているのか──あの声の調子からしたら後者の可能性が高いわね)
愛言は生業上妖怪や幽霊をはっきりと見ることが出来る。霊視や見鬼と呼ばれる能力が強い愛言は今まで姿が見えないということがなく、今回の件は初ケースだった。
(何とかこっちからアプローチしようとしてみたけど、反応なかったし)
授業中に幽霊や妖の声を聞いたり、話しかけられることは珍しいことではなく、その時は小さくジェスチャーをしたり、ノートを使って筆談をしたりと工夫をしていた。今回もその手段を使ってみたが、霊からの返事はなかった。
(それに、待戸くんのことも気になるし)
愛言は斜め前の待戸を見た。
リュックに教科書やノートを詰め込んでいた待戸はチャックを閉めると、リュックを机の上に置いて教室を出て行った。
(これは、話を出来るチャンス!)
愛言は待戸を追って教室を飛び出す。
校舎端のあまり使用されてない人気の少ない階段を降りていった。
一階の廊下に出ると辺りは急に薄暗くなる。
蛍光灯が切れている上に窓の外に何本もの楓の木が植えられているため、日が当たらないからだ。
待戸が立ち止まり、愛言は声をかけようとしたが、待戸が溢した言葉にタイミングを見失ってしまう。
「待と──」
「あー、くそ。久しぶりにやらかした」
顔を押さえて溜め息を漏らす待戸に愛言は思わず様子を伺おうと身を潜めた。
「あれってやっぱ……いや、無視だ無視。そういや君枝って……」
何やらぶつぶつと行っている待戸を影から眺めつつ、小さく君枝と自分の姓が聞こえ、徐々に予想が確信に変わる。
「待戸く──っ!」
今度こそ声をかけようとした時、再びあの声が廊下に響いた。
「き……るの? ……ねがい……けて……」
周囲が静かなためか先程よりは声を拾いやすいが、それでもやはりはっきりとは聞き取れない。
(何だろう? 助けを求めてるの? でも何を言っているのかわからない。どうしよう、こんなの初めて)
愛言は戸惑い、せめて声の主の位置を確認しようとしたが、その時、待戸が大声で怒鳴った。
「ああ、聞こえてるよ! なんなんだよ! お願いって、届けてって! それだけじゃわかんねーよ! 分かりやすく言えっ!」
苛立ちを含んだ声が空気を揺らす。愛言は驚き、思わず後ずさる。またしても声をかけにくくなった愛言が愛言を見ていると、その頭上に靄のようなものが現れた。
「あっ!」
愛言が声を上げ、待戸が振り向く。
「君枝」
「や、やぁ!」
呼ばれて引きつった笑顔で返事をする愛言はちらりと靄を見つめながら待戸に訊ねた。
「あのね、待戸くん。ひょっとして──聞こえてる?」
ぴくりと眉を動かした待戸は息を吐いて、どこか納得した顔で訊き返して来た。
「お前もか?」
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