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妖言屋さんと幽霊のお願い
プロローグ 妖言屋さんの日常
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八畳ほどの和室にぽりぽりと小気味いい音と少し高い少年のような声が響く。
「全く、最近の若者ときたら、ポイ捨て禁止のポスターや立ち入り禁止の柵があるっていうのに、空き缶捨てるわ、柵越えて川辺を荒らすは、やってやんないね!」
声を発しているのは赤ん坊ほどの大きさしかない河童だった。座布団の上に胡座をかき、眉間に皺を寄せながら出されたまるごとの胡瓜をぽりぽりとかじっている。
「それはやぁねぇ。今度町会長さんに相談してみようかしら?」
河童に応じたのは薄紅色の浴衣に身を包んだ少女。こちらは斜め切りにした胡瓜の浅漬けを指で摘まんでぽりぽりやっている。
「ああ、そうしてくれ。本当はぼくが出てって脅かしてやりたいけど、生憎とそういうのには向いてないんだよ」
「ふふっ、可愛いものね。泳くんは」
「可愛い言うな」
ころころ笑う少女と不機嫌そうな顔をする少年の姿をした河童。二人はそれぞれ胡瓜をぽりぽりしながら河童が愚痴り、少女が訊くというやり取りを繰り返していた。
「ああ、それからたまにお供えしてくれる子がいるんだよ。ちっちゃい女の子。だけど、その子のお供えがいつもお菓子なんだよ」
「お菓子かぁ、泳くんは食べられないもんねぇ」
「うん、たまに胡瓜をお供えしてくれることもあるんだけど、河童巻きだったり、塩が降ってあったりでさぁ」
河童──泳が残念そうに言う。
「私、河童さんが河童巻き食べられないって知った時驚いたなぁ」
「基本、この世のものは生の胡瓜しか食べられないからね」
そう言いながら河童は男らしい仕草で胡瓜をぽりっと食べた。
「お供え自体は嬉しいんだけどねぇ」
「最近はすっかり減っちゃったからね」
「本当、愛言ぐらいだよ。ちゃんと生の胡瓜お供えしてくれるのは」
それから二人は暫く話をして、皿の胡瓜がなくなる頃、泳が立ち上がった。
「じゃあ、そろそろお暇するよ。頭の皿も乾いてきたし」
「うん、また胡瓜持ってくねー」
縁側からぴょこんと飛び下りた泳は水掻きのついた手を振りながら塀を飛び越えて行った。
泳を見送った後、空の皿を片付けようとすると、天井からぴょこりと何かが飛び出してきた。
現れたのは緩やかにカーブした金髪と碧眼の愛らしい少女だった。その姿は半透明で足元は煙のように酷く曖昧だ。その身は白装束に包まれており、頭には三角巾がつけられている。
愛言は彼女の姿を認めるとにこりと微笑んだ。
「あら、浮遊霊のエミリさん。こんにちは」
「こんにちは。あのぅ、今お話いいですか?」
エミリと呼ばれた霊はおずおずと訊ねた。
「大丈夫よ。そこに座って。あ、ちょっとこのお皿片付けて来るから待っててね」
「はい」
エミリはふよふよとさっきまで泳が座っていた座布団に正座した。しかし、その体は微妙に浮いている。
「小雪~、エミリさん来たから彼岸饅頭お出しして~」
「はーい。あ、極楽茶もお出ししますか?」
愛言が客間から出て、台所に向かって大声で言うと銀色の髪をした少女が顔を出して愛言に訊いた。
「うん、お願い」
愛言は台所に入り、流し台に皿を置くと客人の話を訊きに客間へと戻って行った。
こんな風に、妖言屋の一日は過ぎていくのであった。
「全く、最近の若者ときたら、ポイ捨て禁止のポスターや立ち入り禁止の柵があるっていうのに、空き缶捨てるわ、柵越えて川辺を荒らすは、やってやんないね!」
声を発しているのは赤ん坊ほどの大きさしかない河童だった。座布団の上に胡座をかき、眉間に皺を寄せながら出されたまるごとの胡瓜をぽりぽりとかじっている。
「それはやぁねぇ。今度町会長さんに相談してみようかしら?」
河童に応じたのは薄紅色の浴衣に身を包んだ少女。こちらは斜め切りにした胡瓜の浅漬けを指で摘まんでぽりぽりやっている。
「ああ、そうしてくれ。本当はぼくが出てって脅かしてやりたいけど、生憎とそういうのには向いてないんだよ」
「ふふっ、可愛いものね。泳くんは」
「可愛い言うな」
ころころ笑う少女と不機嫌そうな顔をする少年の姿をした河童。二人はそれぞれ胡瓜をぽりぽりしながら河童が愚痴り、少女が訊くというやり取りを繰り返していた。
「ああ、それからたまにお供えしてくれる子がいるんだよ。ちっちゃい女の子。だけど、その子のお供えがいつもお菓子なんだよ」
「お菓子かぁ、泳くんは食べられないもんねぇ」
「うん、たまに胡瓜をお供えしてくれることもあるんだけど、河童巻きだったり、塩が降ってあったりでさぁ」
河童──泳が残念そうに言う。
「私、河童さんが河童巻き食べられないって知った時驚いたなぁ」
「基本、この世のものは生の胡瓜しか食べられないからね」
そう言いながら河童は男らしい仕草で胡瓜をぽりっと食べた。
「お供え自体は嬉しいんだけどねぇ」
「最近はすっかり減っちゃったからね」
「本当、愛言ぐらいだよ。ちゃんと生の胡瓜お供えしてくれるのは」
それから二人は暫く話をして、皿の胡瓜がなくなる頃、泳が立ち上がった。
「じゃあ、そろそろお暇するよ。頭の皿も乾いてきたし」
「うん、また胡瓜持ってくねー」
縁側からぴょこんと飛び下りた泳は水掻きのついた手を振りながら塀を飛び越えて行った。
泳を見送った後、空の皿を片付けようとすると、天井からぴょこりと何かが飛び出してきた。
現れたのは緩やかにカーブした金髪と碧眼の愛らしい少女だった。その姿は半透明で足元は煙のように酷く曖昧だ。その身は白装束に包まれており、頭には三角巾がつけられている。
愛言は彼女の姿を認めるとにこりと微笑んだ。
「あら、浮遊霊のエミリさん。こんにちは」
「こんにちは。あのぅ、今お話いいですか?」
エミリと呼ばれた霊はおずおずと訊ねた。
「大丈夫よ。そこに座って。あ、ちょっとこのお皿片付けて来るから待っててね」
「はい」
エミリはふよふよとさっきまで泳が座っていた座布団に正座した。しかし、その体は微妙に浮いている。
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「はーい。あ、極楽茶もお出ししますか?」
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「うん、お願い」
愛言は台所に入り、流し台に皿を置くと客人の話を訊きに客間へと戻って行った。
こんな風に、妖言屋の一日は過ぎていくのであった。
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