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【6】味濃い目
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「うん・・・・・・?」
大分衝撃を受けたのか、シューノイン公爵は固まった表情で首を傾げた。
首を反らして天井を眺め、長く貯えた立派な白髭を撫でながら、譫言のように「そうか。・・・・・・そうか」と言葉を繰り返す。
「あー、つまり、だ。パーゼスとカティスがやらかしたと?」
漸く「そうか」以外の言葉を発したシューノイン公爵が、レアナの話を端的に纏める。
レアナはそれに力強く何度も頷いた。
「ええ、ええ! そうですとも! 公爵家の人間としてあるまじき所業です。さぁ、お義父様、この堕落者達に叱るべきご沙汰を!」
「ちょっと、パーゼスちゃんが悪いみたいな言い方しないでくれる!? お義父様、パーゼスちゃんは自分で相手を見つけただけですわ。自分に相応しい相手を自分で見つけるなんて、しっかり者だと思いません? ここはパーゼスちゃんの意志を尊重して、婚約者をティティアからカティスに変えてあげましょう。そちらで勝手な事を騒ぎ立てている人の言葉なんて、聡明なシューノイン公爵であらせられるお義父様は聞きませんよね」
「お義父様、子の不始末は親の不始末。元を正せば、そちらの人が母親として至らなかったせいですわ。ここは息子だけでなく、母親にも責任を取らせるべきかと」
この様に、両者一歩も引かず。
義父にお伺いを立てているようで、自分の意見を通す事しか考えていない。
梅雨の雨の様に止まない言葉に、シューノイン公爵は困惑を通り越して、半ば諦観の顔をしている。
「ねぇ、レノルド」
「何だ?」
「おじい様、完全に伯母様達が喋るの止めるまで聞き流して待つ態勢に入っちゃったけど、どれ位で真面な話が始まると思う?」
「さぁ? まぁ、そこまで長くは続かないだろ。おじい様はともかく、おばあ様は進展のない話を延々聞いてくれる程甘くはない」
実際、レノルドの言った通りになった。
「いい加減にしなさい。貴女達」
決して声を張っている訳ではないのに、鼓膜に刺さるような鋭さのあるそれに、レアナとナタリアは揃ってびくりと体を竦ませた。
「親族の者だけとはいえ、相手はお客様。そして、貴女達は本家の嫁でしょう? だと言うのに、何です? 身内の恥を晒して、みっともないとは思わないのですか?」
「ですが、それは──!」
「この件については後で話します。旦那様もそれでよろしいですね?」
「うむ。まぁ、何故かアーノルドもいないしな。そうだ、アーノルド。ティティア、アーノルドとレイシティアはどうしたんだ?」
シューノイン公爵が気づいた様に、辺りをみわたす。
アーノルドとレイシティアというのは、ティティアの両親の名前だ。
ティティアがいるのに、一緒に来ている筈の息子夫婦がいない事に気づいたらしい。
「お父様達はここへ来る途中、職場の上司の方とお会いして、お話されてます。なので、宴に少し遅れるかもしれないとの言伝を預かっております」
「そうか、分かった」
当初の目的である伝言の役目を果たせたティティアは安堵した。
パーゼスとカティスの件が全く気にならない訳ではないが、これから宴だと言うのに、今この場であれこれ掘り起こすのは避けるべきという大人を判断を下した。だというのに。
「まぁ! 一族の宴に遅れて来るなんて、お兄様は随分と暢気でいらっしゃるのね!」
「「げっ!」」
唐突に背後からした声に、ティティアとレノルドは揃って顔を顰める。
((またくどい位濃いのが来た・・・・・・))
シューノイン公爵家の集いには、決まってアクの強い女性が三人揃う。
二人は言わずもがなのレアナとナタリアである。そして、最後の一人は。
「お母様!」
カティスがそう呼ぶ。
そう、軽やかな嫌みと共に出てきたのは、ティティア達からは叔母に当たるカティスの母親であった。
大分衝撃を受けたのか、シューノイン公爵は固まった表情で首を傾げた。
首を反らして天井を眺め、長く貯えた立派な白髭を撫でながら、譫言のように「そうか。・・・・・・そうか」と言葉を繰り返す。
「あー、つまり、だ。パーゼスとカティスがやらかしたと?」
漸く「そうか」以外の言葉を発したシューノイン公爵が、レアナの話を端的に纏める。
レアナはそれに力強く何度も頷いた。
「ええ、ええ! そうですとも! 公爵家の人間としてあるまじき所業です。さぁ、お義父様、この堕落者達に叱るべきご沙汰を!」
「ちょっと、パーゼスちゃんが悪いみたいな言い方しないでくれる!? お義父様、パーゼスちゃんは自分で相手を見つけただけですわ。自分に相応しい相手を自分で見つけるなんて、しっかり者だと思いません? ここはパーゼスちゃんの意志を尊重して、婚約者をティティアからカティスに変えてあげましょう。そちらで勝手な事を騒ぎ立てている人の言葉なんて、聡明なシューノイン公爵であらせられるお義父様は聞きませんよね」
「お義父様、子の不始末は親の不始末。元を正せば、そちらの人が母親として至らなかったせいですわ。ここは息子だけでなく、母親にも責任を取らせるべきかと」
この様に、両者一歩も引かず。
義父にお伺いを立てているようで、自分の意見を通す事しか考えていない。
梅雨の雨の様に止まない言葉に、シューノイン公爵は困惑を通り越して、半ば諦観の顔をしている。
「ねぇ、レノルド」
「何だ?」
「おじい様、完全に伯母様達が喋るの止めるまで聞き流して待つ態勢に入っちゃったけど、どれ位で真面な話が始まると思う?」
「さぁ? まぁ、そこまで長くは続かないだろ。おじい様はともかく、おばあ様は進展のない話を延々聞いてくれる程甘くはない」
実際、レノルドの言った通りになった。
「いい加減にしなさい。貴女達」
決して声を張っている訳ではないのに、鼓膜に刺さるような鋭さのあるそれに、レアナとナタリアは揃ってびくりと体を竦ませた。
「親族の者だけとはいえ、相手はお客様。そして、貴女達は本家の嫁でしょう? だと言うのに、何です? 身内の恥を晒して、みっともないとは思わないのですか?」
「ですが、それは──!」
「この件については後で話します。旦那様もそれでよろしいですね?」
「うむ。まぁ、何故かアーノルドもいないしな。そうだ、アーノルド。ティティア、アーノルドとレイシティアはどうしたんだ?」
シューノイン公爵が気づいた様に、辺りをみわたす。
アーノルドとレイシティアというのは、ティティアの両親の名前だ。
ティティアがいるのに、一緒に来ている筈の息子夫婦がいない事に気づいたらしい。
「お父様達はここへ来る途中、職場の上司の方とお会いして、お話されてます。なので、宴に少し遅れるかもしれないとの言伝を預かっております」
「そうか、分かった」
当初の目的である伝言の役目を果たせたティティアは安堵した。
パーゼスとカティスの件が全く気にならない訳ではないが、これから宴だと言うのに、今この場であれこれ掘り起こすのは避けるべきという大人を判断を下した。だというのに。
「まぁ! 一族の宴に遅れて来るなんて、お兄様は随分と暢気でいらっしゃるのね!」
「「げっ!」」
唐突に背後からした声に、ティティアとレノルドは揃って顔を顰める。
((またくどい位濃いのが来た・・・・・・))
シューノイン公爵家の集いには、決まってアクの強い女性が三人揃う。
二人は言わずもがなのレアナとナタリアである。そして、最後の一人は。
「お母様!」
カティスがそう呼ぶ。
そう、軽やかな嫌みと共に出てきたのは、ティティア達からは叔母に当たるカティスの母親であった。
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