6 / 14
6,王子は不機嫌な瞳で令嬢を見つめてる
しおりを挟む
まさか、こんな道端でソウと出会うとは思ってもいなかった。ソウとサキも想定外という顔をしている。
突然婚約破棄をされても微笑んでいたカタリだったが、この偶然には驚きを露にした。
だが、すぐに笑顔を取り繕い、挨拶をした。
「ソウ様、それにサキさん。ごきげんよう。二人でお出掛けですか?」
「・・・・・・ああ」
ソウは不機嫌そうに短く答えると、むすっと口を引き結び、厳しい面持ちになった。
隣のトーマを見てみると、何故か彼の瞬きの間隔が短くなっており、明らかに何かに驚いている様子だ。
「トーマさん?」
名前を呼ぶと、トーマははっとして、慌てて姿勢を正した。
「あ、あの、その、ソウ王子ですよね? 第二王子の──!」
「そうだが。お前は?」
緊張気味に確認するトーマに、ソウは肯定する。
一応、ソウは帽子と眼鏡で変装をしていたが、近くで見ればソウだと分かる程度だったため、長い付き合いのカタリが気づくのは当然だが、隣国のトーマが気づいたのは意外だった。
「あ、失礼しました! 俺──いえ、私はトーマ・スケルトンと申します! お会い出来て光栄です!」
「そうか。悪いが、今はプライベートでな。堅苦しいことはしたくないんだ」
サキとのデート中にカタリと会ったことが余程嫌だったのか、ソウはじとりとした視線をカタリへと送ってくる。
「トーマさん、よくソウ殿下のことをご存知でしたね」
「ええ、まぁ。以前、私の母国にソウ王子がお越しになられた時、新聞にソウ王子の姿絵が載っていたのを覚えていたので」
「そうなんですか。記憶力がよろしいのですね」
「少しばかり自信があります」
「随分と仲が良さげだな。流石はカタリ・ダマシュ。男を捕まえるのもお手の物という訳か」
花が咲きそうなくらいに楽しげに会話をするカタリとトーマを見て、ソウがちくりと棘を刺すように言う。
その言葉にカタリは珍しく、頬をひきつらせた。
「あら? 何のことでしょう? 確かに狩りの腕には自信がありますけれど、何か勘違いされていませんこと?」
カタリの返しに、ソウの瞳の奥で赤い炎がちりちりと揺らめく。それは怒りか憎悪か、或いは別のものか。
ゆらゆらと揺らめく赤は、カタリの凪いだ湖のような視線を受け、押し負けたかのように徐々に静まっていく。
「サキ、確か家はここから近いんだったよな?」
「え? あ、はい!」
「悪いが、今日は気分が悪くなった。帰ることにする」
「ええ! そんな・・・・・・」
「すまない。埋め合わせはまた今度。次は俺の部屋でゆっくり過ごそう」
「・・・・・・はい」
一方的にデートを中断され、サキは不満げだったが、次のデートの約束があったため、しぶしぶ了承した。
「そうそう。それからこれは善意の忠告だが、その女には関わらない方がいいぞ」
「──え?」
「ソウ殿下、余計なことを言わないで頂けますか? トーマさん、気にしないで下さい」
邪魔をされたカタリは、ソウにピシャリと言い返す。それも気に触ったらしく、ソウは眉間の皺を解くことなく、その場から立ち去って行った。
「あ、その──じゃあ、私もこれで──!」
サキも気まずげに別方向へと走って行った。
「あの──」
「実は、私の元婚約者はソウ殿下なんです」
「ええ!?」
カタリの突然の告白に、トーマは大袈裟なくらい驚いていた。
「ごめんなさい。私も急に気分が悪くなってしまって──お食事はまた今度でもいいでしょうか?」
「それは勿論。大丈夫ですか?」
「ええ」
トーマは婚約破棄のことが尾を引いているのだろうと、無理強いをすることはなかった。
「では、今日は失礼します──あ」
気分悪そうに胸を押さえて立ち去ろうとするカタリの手をトーマがきゅっと握って引き留める。
「次はいつ、会えるでしょうか?」
少し寂しげな表情を浮かべるトーマに、カタリは微笑み、
「──明後日、また薔薇園で」
と答えた。
すると、トーマは安堵したように笑み、カタリから手を放す。
「そうですか。では、また」
「ええ。また」
この日は二人は笑い合って、その場で別れた。
突然婚約破棄をされても微笑んでいたカタリだったが、この偶然には驚きを露にした。
だが、すぐに笑顔を取り繕い、挨拶をした。
「ソウ様、それにサキさん。ごきげんよう。二人でお出掛けですか?」
「・・・・・・ああ」
ソウは不機嫌そうに短く答えると、むすっと口を引き結び、厳しい面持ちになった。
隣のトーマを見てみると、何故か彼の瞬きの間隔が短くなっており、明らかに何かに驚いている様子だ。
「トーマさん?」
名前を呼ぶと、トーマははっとして、慌てて姿勢を正した。
「あ、あの、その、ソウ王子ですよね? 第二王子の──!」
「そうだが。お前は?」
緊張気味に確認するトーマに、ソウは肯定する。
一応、ソウは帽子と眼鏡で変装をしていたが、近くで見ればソウだと分かる程度だったため、長い付き合いのカタリが気づくのは当然だが、隣国のトーマが気づいたのは意外だった。
「あ、失礼しました! 俺──いえ、私はトーマ・スケルトンと申します! お会い出来て光栄です!」
「そうか。悪いが、今はプライベートでな。堅苦しいことはしたくないんだ」
サキとのデート中にカタリと会ったことが余程嫌だったのか、ソウはじとりとした視線をカタリへと送ってくる。
「トーマさん、よくソウ殿下のことをご存知でしたね」
「ええ、まぁ。以前、私の母国にソウ王子がお越しになられた時、新聞にソウ王子の姿絵が載っていたのを覚えていたので」
「そうなんですか。記憶力がよろしいのですね」
「少しばかり自信があります」
「随分と仲が良さげだな。流石はカタリ・ダマシュ。男を捕まえるのもお手の物という訳か」
花が咲きそうなくらいに楽しげに会話をするカタリとトーマを見て、ソウがちくりと棘を刺すように言う。
その言葉にカタリは珍しく、頬をひきつらせた。
「あら? 何のことでしょう? 確かに狩りの腕には自信がありますけれど、何か勘違いされていませんこと?」
カタリの返しに、ソウの瞳の奥で赤い炎がちりちりと揺らめく。それは怒りか憎悪か、或いは別のものか。
ゆらゆらと揺らめく赤は、カタリの凪いだ湖のような視線を受け、押し負けたかのように徐々に静まっていく。
「サキ、確か家はここから近いんだったよな?」
「え? あ、はい!」
「悪いが、今日は気分が悪くなった。帰ることにする」
「ええ! そんな・・・・・・」
「すまない。埋め合わせはまた今度。次は俺の部屋でゆっくり過ごそう」
「・・・・・・はい」
一方的にデートを中断され、サキは不満げだったが、次のデートの約束があったため、しぶしぶ了承した。
「そうそう。それからこれは善意の忠告だが、その女には関わらない方がいいぞ」
「──え?」
「ソウ殿下、余計なことを言わないで頂けますか? トーマさん、気にしないで下さい」
邪魔をされたカタリは、ソウにピシャリと言い返す。それも気に触ったらしく、ソウは眉間の皺を解くことなく、その場から立ち去って行った。
「あ、その──じゃあ、私もこれで──!」
サキも気まずげに別方向へと走って行った。
「あの──」
「実は、私の元婚約者はソウ殿下なんです」
「ええ!?」
カタリの突然の告白に、トーマは大袈裟なくらい驚いていた。
「ごめんなさい。私も急に気分が悪くなってしまって──お食事はまた今度でもいいでしょうか?」
「それは勿論。大丈夫ですか?」
「ええ」
トーマは婚約破棄のことが尾を引いているのだろうと、無理強いをすることはなかった。
「では、今日は失礼します──あ」
気分悪そうに胸を押さえて立ち去ろうとするカタリの手をトーマがきゅっと握って引き留める。
「次はいつ、会えるでしょうか?」
少し寂しげな表情を浮かべるトーマに、カタリは微笑み、
「──明後日、また薔薇園で」
と答えた。
すると、トーマは安堵したように笑み、カタリから手を放す。
「そうですか。では、また」
「ええ。また」
この日は二人は笑い合って、その場で別れた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。




あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

愛していたのは昨日まで
豆狸
恋愛
婚約破棄された侯爵令嬢は聖術師に頼んで魅了の可能性を確認したのだが──
「彼らは魅了されていませんでした」
「嘘でしょう?」
「本当です。魅了されていたのは……」
「嘘でしょう?」
なろう様でも公開中です。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる