3 / 14
3,令嬢は怒り冷めやらぬ父公爵を宥める
しおりを挟む
「ただいま帰りました」
公爵邸へ帰り、侍女に手伝って貰い、着替え終わるとリビングルームへ向かう。
「あら」
ソファに囲まれたローテーブルの上に、新聞が置かれており、手に取ってみる。
紙面には、各国を騒がせている謎の盗賊が一面を飾っていた。王侯貴族の宝物庫から、証拠を残さずお宝を奪う手練れの集団だ。カタリの住む国はまだこの盗賊団が現れたことはないが、いつ被害に合うかと予断を許さない状況である。
そして、三面には先日の第二王子と公爵令嬢の婚約破棄の話題が当たり障りのない文章で書かれていた。
「・・・・・・」
無言でその記事を見つめるカタリの瞳には、捉えがたい感情が浮かんでいた。
だが、動揺ではない。元々、カタリとソウを破局させ、新しい婚約者を据えようとして勢力はいた。その者らに不仲説などありもしない噂を流されたこともある。今さら、これくらいはどうってことはない。
バサッ!
「あ」
突然、手から新聞が取り上げられた。
見上げると、怒りの形相の父がいて、新聞をくしゃくしゃに丸め、ごみ箱へ放り投げた。
「あら、はずれ」
しかし、丸まった新聞はごみ箱の縁で跳ね返り、ぱさっと音を立てて床に落ちたため、近くにいた侍従が素知らぬ顔で拾い上げ、ごみ箱へ捨てた。
父の顔はますます不愉快そうになり、カタリは少し困ったように笑い、父へ帰宅を告げた。
「ただいま帰りました。お父様」
「ああ。お帰り」
父がソファに座り、カタリもまた座った。
ソウからの婚約破棄を受けてから、父はずっと不機嫌だが、今日は一段と機嫌が悪い。
カタリは何かあったのかと訊ねる。
「お父様、何かあったのですか?」
「王宮から人手を募る書簡が届いた。全く! よりにもよって、当家に頼むとは何を考えているのだ陛下は!!!」
一方的に娘の婚約を破棄しておいて、頼み事とは図々しいと言わんばかりに憤慨する公爵。
カタリは落ち着かせるように、公爵の腕を撫でる。
「お父様、落ち着いて。その王宮からの依頼、どうかお受け下さいませ」
「しかし──」
「この婚約破棄のせいで、ダマシュ家と王家との関係に亀裂が入ることをカタリは望んでおりません。きっと、陛下にも何かお考えがあるのでしょう。だから、どうかお願いします。お父様」
「むう。カタリがそこまでいうのなら──しかし、詳細な説明は後日とは──何をさせる気なんだ? もし、ふざけた用件だったら、王家だろうと国王だろうと今度こそ、しかるべき行動に出させて貰う!」
「きっと大丈夫ですよ」
悠然と微笑み、カタリは言った。
その日、ダマシュ公爵家は王家の依頼を受け、使用人百人を王家へ派遣することを決めた。
派遣する人材は父に頼み、カタリが選んだ。
公爵邸へ帰り、侍女に手伝って貰い、着替え終わるとリビングルームへ向かう。
「あら」
ソファに囲まれたローテーブルの上に、新聞が置かれており、手に取ってみる。
紙面には、各国を騒がせている謎の盗賊が一面を飾っていた。王侯貴族の宝物庫から、証拠を残さずお宝を奪う手練れの集団だ。カタリの住む国はまだこの盗賊団が現れたことはないが、いつ被害に合うかと予断を許さない状況である。
そして、三面には先日の第二王子と公爵令嬢の婚約破棄の話題が当たり障りのない文章で書かれていた。
「・・・・・・」
無言でその記事を見つめるカタリの瞳には、捉えがたい感情が浮かんでいた。
だが、動揺ではない。元々、カタリとソウを破局させ、新しい婚約者を据えようとして勢力はいた。その者らに不仲説などありもしない噂を流されたこともある。今さら、これくらいはどうってことはない。
バサッ!
「あ」
突然、手から新聞が取り上げられた。
見上げると、怒りの形相の父がいて、新聞をくしゃくしゃに丸め、ごみ箱へ放り投げた。
「あら、はずれ」
しかし、丸まった新聞はごみ箱の縁で跳ね返り、ぱさっと音を立てて床に落ちたため、近くにいた侍従が素知らぬ顔で拾い上げ、ごみ箱へ捨てた。
父の顔はますます不愉快そうになり、カタリは少し困ったように笑い、父へ帰宅を告げた。
「ただいま帰りました。お父様」
「ああ。お帰り」
父がソファに座り、カタリもまた座った。
ソウからの婚約破棄を受けてから、父はずっと不機嫌だが、今日は一段と機嫌が悪い。
カタリは何かあったのかと訊ねる。
「お父様、何かあったのですか?」
「王宮から人手を募る書簡が届いた。全く! よりにもよって、当家に頼むとは何を考えているのだ陛下は!!!」
一方的に娘の婚約を破棄しておいて、頼み事とは図々しいと言わんばかりに憤慨する公爵。
カタリは落ち着かせるように、公爵の腕を撫でる。
「お父様、落ち着いて。その王宮からの依頼、どうかお受け下さいませ」
「しかし──」
「この婚約破棄のせいで、ダマシュ家と王家との関係に亀裂が入ることをカタリは望んでおりません。きっと、陛下にも何かお考えがあるのでしょう。だから、どうかお願いします。お父様」
「むう。カタリがそこまでいうのなら──しかし、詳細な説明は後日とは──何をさせる気なんだ? もし、ふざけた用件だったら、王家だろうと国王だろうと今度こそ、しかるべき行動に出させて貰う!」
「きっと大丈夫ですよ」
悠然と微笑み、カタリは言った。
その日、ダマシュ公爵家は王家の依頼を受け、使用人百人を王家へ派遣することを決めた。
派遣する人材は父に頼み、カタリが選んだ。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。




仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる