彼女を愛しているから婚約破棄? はい、わかりました!

夢草 蝶

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3,令嬢は怒り冷めやらぬ父公爵を宥める

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「ただいま帰りました」

 公爵邸へ帰り、侍女に手伝って貰い、着替え終わるとリビングルームへ向かう。

「あら」

 ソファに囲まれたローテーブルの上に、新聞が置かれており、手に取ってみる。

 紙面には、各国を騒がせている謎の盗賊が一面を飾っていた。王侯貴族の宝物庫から、証拠を残さずお宝を奪う手練れの集団だ。カタリの住む国はまだこの盗賊団が現れたことはないが、いつ被害に合うかと予断を許さない状況である。
 そして、三面には先日の第二王子と公爵令嬢の婚約破棄の話題が当たり障りのない文章で書かれていた。

「・・・・・・」

 無言でその記事を見つめるカタリの瞳には、捉えがたい感情が浮かんでいた。
 だが、動揺ではない。元々、カタリとソウを破局させ、新しい婚約者を据えようとして勢力はいた。その者らに不仲説などありもしない噂を流されたこともある。今さら、これくらいはどうってことはない。

 バサッ!

「あ」

 突然、手から新聞が取り上げられた。
 見上げると、怒りの形相の父がいて、新聞をくしゃくしゃに丸め、ごみ箱へ放り投げた。

「あら、はずれ」

 しかし、丸まった新聞はごみ箱の縁で跳ね返り、ぱさっと音を立てて床に落ちたため、近くにいた侍従が素知らぬ顔で拾い上げ、ごみ箱へ捨てた。
 父の顔はますます不愉快そうになり、カタリは少し困ったように笑い、父へ帰宅を告げた。

「ただいま帰りました。お父様」

「ああ。お帰り」

 父がソファに座り、カタリもまた座った。
 ソウからの婚約破棄を受けてから、父はずっと不機嫌だが、今日は一段と機嫌が悪い。
 カタリは何かあったのかと訊ねる。

「お父様、何かあったのですか?」

「王宮から人手を募る書簡が届いた。全く! よりにもよって、当家に頼むとは何を考えているのだ陛下は!!!」

 一方的に娘の婚約を破棄しておいて、頼み事とは図々しいと言わんばかりに憤慨する公爵。
 カタリは落ち着かせるように、公爵の腕を撫でる。

「お父様、落ち着いて。その王宮からの依頼、どうかお受け下さいませ」

「しかし──」

「この婚約破棄のせいで、ダマシュ家と王家との関係に亀裂が入ることをカタリは望んでおりません。きっと、陛下にも何かお考えがあるのでしょう。だから、どうかお願いします。お父様」

「むう。カタリがそこまでいうのなら──しかし、詳細な説明は後日とは──何をさせる気なんだ? もし、ふざけた用件だったら、王家だろうと国王だろうと今度こそ、しかるべき行動に出させて貰う!」

「きっと大丈夫ですよ」

 悠然と微笑み、カタリは言った。

 その日、ダマシュ公爵家は王家の依頼を受け、使用人百人を王家へ派遣することを決めた。
 派遣する人材は父に頼み、カタリが選んだ。
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