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気持ち? ヴィクト視点
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「結婚させないったってなぁ」
伯父上が呆れたように溜息を吐く。けど、伯父上には呆れられたくない。
「そんなこと言って、伯父上。もし、母さんが結婚したくない相手と結婚させられそうになってたら──」
「断固として阻止したが?」
シスコンめ。
呆れつつも、父上と出会う前の母上の話を聞いたことのある身としてはよくシスコンになれたと思う。
伯父上と母上の面倒くさい関係はまぁ、置いといて。
「やりようなんていくらでもありますよ」
「具体的には? やり方は選べよ」
「わかってます。辺境伯家の名誉を傷つけるようなことはしません」
要は傑作か三文芝居かだ。
舞台で例えるなら、同じ題材でも傑作と褒め称えられる作品もあれば、駄作だと扱き下ろされる作品もある。その違いは何か?
要因は細分化すれば多々あるだろうが、大まかに言ってしまえば脚本の出来と役者の演技力だろう。
演技がよくて話が最悪なら、脚本家は避難を浴び、役者は同情を向けられる。逆も然り。
そして、今回の俺は脚本家だ。
演者は言わずもがな。
自身を登場させずに物語の幕を下ろす。伯父上が俺に望んでいることもそうだろう。俺が表立って動けば、それは辺境伯家の風評になるのだから、伯父上の立場としてそれを許す訳にはいかないというのはわかる。
何、完璧な脚本を書けばいい。整合性を取るのは得意だ。上手くいくだろう。
そして、残念でもないが、今回の役者の質は良くない。
舞台は俺の思い通りにいくだろうが、大団円にはならない。俺も書く気はないし。そこから先は役者の領分だ。クリスのことは保障するが、他は知らん。
「何にしろ、俺は上手くやりますよ。脚本はすでに出来ています。クリスをここへ連れてこれた時点で前準備は終わってます。向こうでのことは後は母さんが上手くやってくれるでしょう。役者を動かすのは母さんの方が得意ですから」
全部母さん頼みというのはどうかと思うが、俺がその場にいない以上は仕方ない。実際、ああいうのは母さんの方が向いてるし、母さんもクリスを気に入っているから協力的だ。
それに何より、俺はことが済むまでクリスを辺境伯領に留めて置かなくてはならない。
俺の説明が理解出来たのか、伯父上はしかめっ面ながらも頷く。
「・・・・・・ああ、そういうこと。お前はその回りくどい説明の仕方を止せ。わかりづらい」
「十分わかりやすいでしょう。母さんなら「脚本通りに」だけで通じますよ」
「それが出来るのはリアだけだ。ったく、ほんとそーゆーとこ、昔のリアそっくりだよな。お前は。
責任を負う覚悟はあるんだな?」
最後の確認だと言う伯父上に頷く。
「当然です。伯父上だって自分のすることに責任を負えないような者を後継者に選ばないでしょう?」
「まぁな。なら、好きにすればいい。それはそれとして、ちゃんとクリス嬢には伝えてるのか?」
「何をです?」
「何をですって──そりゃ、お前の気持ちだよ」
「はい?」
「ん?」
伯父上が訳のわからないことを言い出して、どういう意味かと問おうとしたら、聞き覚えのある声が耳朶から滑り込んできた。
「よっこいしょー!」
クリスの声だった。
声音事態はいつもより少し力が入っているだけだが、台詞がおかしい。何をしてるんだ。
確か、向こうは草むらの空き地で子供が遊べるような場所じゃない筈──
何ごとかと思い、空き地へと向かうと、そこで目にした光景に俺は目を点にした。
「よいせっ、ふー・・・・・・あ、ヴィクトだ」
しゃがんでいたクリスが俺に気づいて見上げてくる。
「・・・・・・何をしてるんだ・・・・・・?」
「草むしり」
訊ねると率直な答えが帰ってくる。
クリスは何故か、頭に麦わら帽、首にタオルを巻いて、手には軍手という農家の夫人のような格好で子供たちと草むしりをしていた。いや、本当に何でだ・・・・・・?
伯父上が呆れたように溜息を吐く。けど、伯父上には呆れられたくない。
「そんなこと言って、伯父上。もし、母さんが結婚したくない相手と結婚させられそうになってたら──」
「断固として阻止したが?」
シスコンめ。
呆れつつも、父上と出会う前の母上の話を聞いたことのある身としてはよくシスコンになれたと思う。
伯父上と母上の面倒くさい関係はまぁ、置いといて。
「やりようなんていくらでもありますよ」
「具体的には? やり方は選べよ」
「わかってます。辺境伯家の名誉を傷つけるようなことはしません」
要は傑作か三文芝居かだ。
舞台で例えるなら、同じ題材でも傑作と褒め称えられる作品もあれば、駄作だと扱き下ろされる作品もある。その違いは何か?
要因は細分化すれば多々あるだろうが、大まかに言ってしまえば脚本の出来と役者の演技力だろう。
演技がよくて話が最悪なら、脚本家は避難を浴び、役者は同情を向けられる。逆も然り。
そして、今回の俺は脚本家だ。
演者は言わずもがな。
自身を登場させずに物語の幕を下ろす。伯父上が俺に望んでいることもそうだろう。俺が表立って動けば、それは辺境伯家の風評になるのだから、伯父上の立場としてそれを許す訳にはいかないというのはわかる。
何、完璧な脚本を書けばいい。整合性を取るのは得意だ。上手くいくだろう。
そして、残念でもないが、今回の役者の質は良くない。
舞台は俺の思い通りにいくだろうが、大団円にはならない。俺も書く気はないし。そこから先は役者の領分だ。クリスのことは保障するが、他は知らん。
「何にしろ、俺は上手くやりますよ。脚本はすでに出来ています。クリスをここへ連れてこれた時点で前準備は終わってます。向こうでのことは後は母さんが上手くやってくれるでしょう。役者を動かすのは母さんの方が得意ですから」
全部母さん頼みというのはどうかと思うが、俺がその場にいない以上は仕方ない。実際、ああいうのは母さんの方が向いてるし、母さんもクリスを気に入っているから協力的だ。
それに何より、俺はことが済むまでクリスを辺境伯領に留めて置かなくてはならない。
俺の説明が理解出来たのか、伯父上はしかめっ面ながらも頷く。
「・・・・・・ああ、そういうこと。お前はその回りくどい説明の仕方を止せ。わかりづらい」
「十分わかりやすいでしょう。母さんなら「脚本通りに」だけで通じますよ」
「それが出来るのはリアだけだ。ったく、ほんとそーゆーとこ、昔のリアそっくりだよな。お前は。
責任を負う覚悟はあるんだな?」
最後の確認だと言う伯父上に頷く。
「当然です。伯父上だって自分のすることに責任を負えないような者を後継者に選ばないでしょう?」
「まぁな。なら、好きにすればいい。それはそれとして、ちゃんとクリス嬢には伝えてるのか?」
「何をです?」
「何をですって──そりゃ、お前の気持ちだよ」
「はい?」
「ん?」
伯父上が訳のわからないことを言い出して、どういう意味かと問おうとしたら、聞き覚えのある声が耳朶から滑り込んできた。
「よっこいしょー!」
クリスの声だった。
声音事態はいつもより少し力が入っているだけだが、台詞がおかしい。何をしてるんだ。
確か、向こうは草むらの空き地で子供が遊べるような場所じゃない筈──
何ごとかと思い、空き地へと向かうと、そこで目にした光景に俺は目を点にした。
「よいせっ、ふー・・・・・・あ、ヴィクトだ」
しゃがんでいたクリスが俺に気づいて見上げてくる。
「・・・・・・何をしてるんだ・・・・・・?」
「草むしり」
訊ねると率直な答えが帰ってくる。
クリスは何故か、頭に麦わら帽、首にタオルを巻いて、手には軍手という農家の夫人のような格好で子供たちと草むしりをしていた。いや、本当に何でだ・・・・・・?
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