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クリスを探しに ヴィクト視点
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「クリスは?」
いつもここに来ると宛がわれる部屋で自習を終え、広間に顔を出して侍女に訊ねた。
「まだお戻りになってません」
「まだ戻ってない? 子供たちと遊びに行って大分経つっていうのに、どこまで行ってるんだ」
「何だ、ヴィクト。寂しいのか?」
「別に、そんなんじゃありません」
奥のソファで新聞を読んでいた伯父上がニヤニヤとした顔で訊ねてくる。何だかその顔が気に食わなくて、そっぽを向いて返答すると、何がおかしいのか伯父上はますますケラケラと笑い出した。
「まぁまぁ、そう拗ねるな。子供たちを使ってあの子を引き留めようとしたのはお前だろ」
「クリスが聞き分けないからです」
「いや、そりゃお前だろ・・・・・・強引に連れてきといて、何言ってんだ」
「どこかに行きたいと言ったのはクリスです」
婚約者と妹の不貞とそれに対する家族の対応に嫌気が差して、どこか行きたいと言ったのはクリスだ。
俺はその願いを聞いただけなのだから、責められる謂れはない。辺境伯領なら安全だし、自然も多いから精神を癒すのにはうってつけだと思った。元々、次期辺境伯として定期的に勉強に来なくてはならないため、俺としても好都合だったしな。
もう連れてきてしまったし、過ぎたことをクリスも伯父上もいちいち気にしすぎだ。
まぁ、それはいい。今はクリスだ。どこまで行ったんだ、あいつ。
クリスの性格からして、子供たちと一緒の時に危険な場所や迷いそうな場所には行かないだろうし、クリスには土地勘がない。いるとしたら子供たちの行動範囲内だろう。
脳内でクリスがいそうな場所を絞ると、俺は踵を返して広間から出ようとした。すると、また伯父上が声を掛けてくる。
「どこへ行くんだ?」
「クリスを探してきます」
「小さい子供じゃないんだ。真面目な子のようだし、日が暮れる頃には戻って来るだろう。あまり構い過ぎると、お嬢さんも息抜き出来ないと思うぞ」
「──もうじき、夕食の時間ですので」
伯父上の言うことにも一理ある気はするが、それでは納得出来なくて、一拍遅れてからそれらしい理由を口にする。
伯父上は聞き分けのない子供の相手をするように肩を竦めると立ち上がった。
「まったく。なら、俺も行こうかな」
「は? 別に伯父上が来る必要性はないでしょう」
むしろ領主である伯父上が一緒だと目立つから邪魔。けど、伯父上はノリノリだ。
「休憩時間だし、息抜きに散歩も悪くない。あと、お前にクリス嬢の件で訊きたいことがある」
「・・・・・・わかりました」
後半は有無を言わせない声音で、俺は致し方なく伯父上と共にクリスを探しに行くことになった。
それにしても、クリスは一体何をしてるんだ?
「ここにもいない・・・・・・次は住宅地の方へ行きましょう」
辺境伯邸に近い場所から虱潰しに回っているが、まだクリスには会えていない。
俺が溜息を吐くと、伯父上が言った。
「随分とご執心だな。で、本題だけど、ヴィクト、お前あの子をどうする気だ?」
「どう、とは?」
「とぼけるな。あの子には婚約者がいるんだろう──まぁ、良からぬことになっているようだが。婚約者のある令嬢を自分が将来継ぐ家に無断で連れてくる。それがどういうことかわからない奴じゃないだろ。お前は」
伯父上の言いたいことはわかる。
世間の一般常識に当てはめたら、俺がしたことは常軌を逸した行動として見られるだろう。
けれど、それが何だ。
そんなものが理由で、俺がクリスの現状を放置する理由にはならないだろう。
伯父上もおおよそ、察しはついている。必要であれば、そういう手も俺が使うということを。
だから、俺は答えた。
「わかっていますよ。けれど、クリスは結婚したくないと望んだ。なら、俺はクリスをあの男とは結婚させない。絶対に」
いつもここに来ると宛がわれる部屋で自習を終え、広間に顔を出して侍女に訊ねた。
「まだお戻りになってません」
「まだ戻ってない? 子供たちと遊びに行って大分経つっていうのに、どこまで行ってるんだ」
「何だ、ヴィクト。寂しいのか?」
「別に、そんなんじゃありません」
奥のソファで新聞を読んでいた伯父上がニヤニヤとした顔で訊ねてくる。何だかその顔が気に食わなくて、そっぽを向いて返答すると、何がおかしいのか伯父上はますますケラケラと笑い出した。
「まぁまぁ、そう拗ねるな。子供たちを使ってあの子を引き留めようとしたのはお前だろ」
「クリスが聞き分けないからです」
「いや、そりゃお前だろ・・・・・・強引に連れてきといて、何言ってんだ」
「どこかに行きたいと言ったのはクリスです」
婚約者と妹の不貞とそれに対する家族の対応に嫌気が差して、どこか行きたいと言ったのはクリスだ。
俺はその願いを聞いただけなのだから、責められる謂れはない。辺境伯領なら安全だし、自然も多いから精神を癒すのにはうってつけだと思った。元々、次期辺境伯として定期的に勉強に来なくてはならないため、俺としても好都合だったしな。
もう連れてきてしまったし、過ぎたことをクリスも伯父上もいちいち気にしすぎだ。
まぁ、それはいい。今はクリスだ。どこまで行ったんだ、あいつ。
クリスの性格からして、子供たちと一緒の時に危険な場所や迷いそうな場所には行かないだろうし、クリスには土地勘がない。いるとしたら子供たちの行動範囲内だろう。
脳内でクリスがいそうな場所を絞ると、俺は踵を返して広間から出ようとした。すると、また伯父上が声を掛けてくる。
「どこへ行くんだ?」
「クリスを探してきます」
「小さい子供じゃないんだ。真面目な子のようだし、日が暮れる頃には戻って来るだろう。あまり構い過ぎると、お嬢さんも息抜き出来ないと思うぞ」
「──もうじき、夕食の時間ですので」
伯父上の言うことにも一理ある気はするが、それでは納得出来なくて、一拍遅れてからそれらしい理由を口にする。
伯父上は聞き分けのない子供の相手をするように肩を竦めると立ち上がった。
「まったく。なら、俺も行こうかな」
「は? 別に伯父上が来る必要性はないでしょう」
むしろ領主である伯父上が一緒だと目立つから邪魔。けど、伯父上はノリノリだ。
「休憩時間だし、息抜きに散歩も悪くない。あと、お前にクリス嬢の件で訊きたいことがある」
「・・・・・・わかりました」
後半は有無を言わせない声音で、俺は致し方なく伯父上と共にクリスを探しに行くことになった。
それにしても、クリスは一体何をしてるんだ?
「ここにもいない・・・・・・次は住宅地の方へ行きましょう」
辺境伯邸に近い場所から虱潰しに回っているが、まだクリスには会えていない。
俺が溜息を吐くと、伯父上が言った。
「随分とご執心だな。で、本題だけど、ヴィクト、お前あの子をどうする気だ?」
「どう、とは?」
「とぼけるな。あの子には婚約者がいるんだろう──まぁ、良からぬことになっているようだが。婚約者のある令嬢を自分が将来継ぐ家に無断で連れてくる。それがどういうことかわからない奴じゃないだろ。お前は」
伯父上の言いたいことはわかる。
世間の一般常識に当てはめたら、俺がしたことは常軌を逸した行動として見られるだろう。
けれど、それが何だ。
そんなものが理由で、俺がクリスの現状を放置する理由にはならないだろう。
伯父上もおおよそ、察しはついている。必要であれば、そういう手も俺が使うということを。
だから、俺は答えた。
「わかっていますよ。けれど、クリスは結婚したくないと望んだ。なら、俺はクリスをあの男とは結婚させない。絶対に」
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