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第一章 紫炎のグリモワール
7.学園長
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「学園長! 折り入って相談があるのですが、お時間は大丈夫ですか?」
しっかり三回ノックをして、部長が学園長室のドアを開ける。
その頃にはレムガさんは手を引かれるどころか脇に抱えられ、宙ぶらりん状態だった。部長、見た目華奢なのに腕力あるんだ。
部長は足が速いため、学園長室の手前まで結局追いつけなかった私達はもう息も絶え絶えだった。
というか、抱えられてたレムガさん以外、「廊下を走ってはいけない」というどこの学校にもあるルールを破ってしまっている。
「廊下は走らない」
学園長にも嗜められてしまった。
「これは……大変失礼しました。僕とした事が、興奮のあまり周りが見えていなかったようです」
「まぁ、いい。用件を言え」
氷みたいに冷たい声。時々、集会などで壇上に立って一言でも発すると寝ていた生徒が皆起きると言われている声だった。
外見もとても色素が薄くて、雪みたい。部長が麗人と評するのもよく分かる。
学園長は私達を見ると、少し身動ぎをした。
特に、レムガさんを見て表情こそは変わらなかったけれど、驚いているようだった。
続いて、ともにぃに視線をやる。
「智明。どういう状況だこれは」
ん? 智明?
智明ってともにぃのことだよね?
なんで学園長がともにぃのこと下の名前でよんでるんだろう。
疑問に思いながらともにぃを見ると、頭が痛いのか額を押さえていた。
「あー、いや。俺もあんま分かってなくてですね……」
「彼を文芸部に入れたいので、彼をこの梅星学園高等部に編入させて下さい!」
ともにぃを遮って、部長が早口で言った。
「いや、だから無理だって……」
「いいだろう。手続きはこちらでしてやる」
「おぉーい! ちょっと待て、十牙里!」
「やったー!」
ともにぃが叫ぶ。部長は歓喜の声を上げ、くるくるとおどっている。
十牙里って確か学園長の名前だよね。フルネームは黒峰十牙里だったかな。
いや、じゃなくて!
「いいんですか!?」
私も学園長に訊いた。
「問題ない。レムガもそれでいいな?」
あれ? 誰かレムガさんの名前言ったっけ。
なぜ学園長がレムガさんの名前を知っているのか不思議に思っていると、レムガさんが学園長の顔を見つめ、何かを思い出したように「あ」と小さく呟いた。
ちなみに、レムガさんは未だに宙ぶらりん状態だ。
「トガリ?」
「ああ、久しぶりだな」
「え、お知り合いですか?」
意外な展開になってきた。どうして学園長と悪魔のレムガさんが知り合いなんだろう? どういう接点があるのかな。
「少しな。ところでレムガ、お前何をしに来たんだ?」
「鈴乃に会いにだよ」
にぱーっと笑って答えるレムガさんに私の心がまた重しでも乗せられたかのように重くなる。
レムガさんはおばあちゃんに会いたくて会いたくて堪らないと表情で訴えている。背後に後光まで見えてきた。
「……そうか」
学園長は何かを察したように俯いた。
少し湿った空気になっていたところを部長が風を通すように変えた。
「よぉし、これで何の障害も無くなった! さぁ、レムガ君、この入部届けにサインをしたまえ!」
「にゅーぶって何?」
レムガさんは部長にではなく、私に訊いてきた。多分、私がおばあちゃんの孫だから訊きやすいのだろう。
「それに名前を書くと文芸部に所属しますってことになるんです。もちろん、サインするかしないかはレムガさんが決めることですよ」
「ぶんげーぶ……あ、鈴乃がいたとこ!」
「え、おばあちゃん文芸部だったんですか」
それは初耳だった。確かに梅星学園は百年近いの歴史を誇り、文芸部は創立した十年後くらいに創られたみたいだし、おばあちゃんはここの卒業生だから有り得ないことではない。
おばあちゃんから文芸部に所属していたなんて、話は訊いたことがない。おばあちゃんの性格なら、私が文芸部に入部した時に教えてくれそうなのに。
「ここ、書けばいい?」
「はい。入部するんですか?」
「うん! だって鈴乃がいるところだもん!」
嬉々としてサインをするレムガさんを見て、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
しっかり三回ノックをして、部長が学園長室のドアを開ける。
その頃にはレムガさんは手を引かれるどころか脇に抱えられ、宙ぶらりん状態だった。部長、見た目華奢なのに腕力あるんだ。
部長は足が速いため、学園長室の手前まで結局追いつけなかった私達はもう息も絶え絶えだった。
というか、抱えられてたレムガさん以外、「廊下を走ってはいけない」というどこの学校にもあるルールを破ってしまっている。
「廊下は走らない」
学園長にも嗜められてしまった。
「これは……大変失礼しました。僕とした事が、興奮のあまり周りが見えていなかったようです」
「まぁ、いい。用件を言え」
氷みたいに冷たい声。時々、集会などで壇上に立って一言でも発すると寝ていた生徒が皆起きると言われている声だった。
外見もとても色素が薄くて、雪みたい。部長が麗人と評するのもよく分かる。
学園長は私達を見ると、少し身動ぎをした。
特に、レムガさんを見て表情こそは変わらなかったけれど、驚いているようだった。
続いて、ともにぃに視線をやる。
「智明。どういう状況だこれは」
ん? 智明?
智明ってともにぃのことだよね?
なんで学園長がともにぃのこと下の名前でよんでるんだろう。
疑問に思いながらともにぃを見ると、頭が痛いのか額を押さえていた。
「あー、いや。俺もあんま分かってなくてですね……」
「彼を文芸部に入れたいので、彼をこの梅星学園高等部に編入させて下さい!」
ともにぃを遮って、部長が早口で言った。
「いや、だから無理だって……」
「いいだろう。手続きはこちらでしてやる」
「おぉーい! ちょっと待て、十牙里!」
「やったー!」
ともにぃが叫ぶ。部長は歓喜の声を上げ、くるくるとおどっている。
十牙里って確か学園長の名前だよね。フルネームは黒峰十牙里だったかな。
いや、じゃなくて!
「いいんですか!?」
私も学園長に訊いた。
「問題ない。レムガもそれでいいな?」
あれ? 誰かレムガさんの名前言ったっけ。
なぜ学園長がレムガさんの名前を知っているのか不思議に思っていると、レムガさんが学園長の顔を見つめ、何かを思い出したように「あ」と小さく呟いた。
ちなみに、レムガさんは未だに宙ぶらりん状態だ。
「トガリ?」
「ああ、久しぶりだな」
「え、お知り合いですか?」
意外な展開になってきた。どうして学園長と悪魔のレムガさんが知り合いなんだろう? どういう接点があるのかな。
「少しな。ところでレムガ、お前何をしに来たんだ?」
「鈴乃に会いにだよ」
にぱーっと笑って答えるレムガさんに私の心がまた重しでも乗せられたかのように重くなる。
レムガさんはおばあちゃんに会いたくて会いたくて堪らないと表情で訴えている。背後に後光まで見えてきた。
「……そうか」
学園長は何かを察したように俯いた。
少し湿った空気になっていたところを部長が風を通すように変えた。
「よぉし、これで何の障害も無くなった! さぁ、レムガ君、この入部届けにサインをしたまえ!」
「にゅーぶって何?」
レムガさんは部長にではなく、私に訊いてきた。多分、私がおばあちゃんの孫だから訊きやすいのだろう。
「それに名前を書くと文芸部に所属しますってことになるんです。もちろん、サインするかしないかはレムガさんが決めることですよ」
「ぶんげーぶ……あ、鈴乃がいたとこ!」
「え、おばあちゃん文芸部だったんですか」
それは初耳だった。確かに梅星学園は百年近いの歴史を誇り、文芸部は創立した十年後くらいに創られたみたいだし、おばあちゃんはここの卒業生だから有り得ないことではない。
おばあちゃんから文芸部に所属していたなんて、話は訊いたことがない。おばあちゃんの性格なら、私が文芸部に入部した時に教えてくれそうなのに。
「ここ、書けばいい?」
「はい。入部するんですか?」
「うん! だって鈴乃がいるところだもん!」
嬉々としてサインをするレムガさんを見て、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
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