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ヴィネの恋人
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「とまれかくまれ、あれが私の元婚約者ですよ」
ソールの隣で膝を抱えて座るカナは区切りをつけて達観した眼差しへヴィネが去って行った方角を見つめ言う。
「あれがそうか。随分とカナを悪し様に言っていた。別れて正解だ」
「え?」
少し憤ったように聞こえるソールの声に、カナは目を瞬かせた。
確か、さっきソールはイヤホンで音楽を聞いていて、ヴィネがカナを悪く言っているところは聞いていない筈なのに、これは一体──。
カナが結論を導き出す前に、それを阻止するようにソールが話題を切り出す。
「カナ、次の休みはクラシックを聞きにいこう。ここの音楽団はオリジナル曲もたくさん出していて、演出も凝っているから。この曲とかカナ、好きそう」
イヤホンの片方をカナの耳に差し込み、ソールが再生ボタンを押す。
するとカナの脳内に上品な曲調ながらもポップなリズムの音楽が響き渡った。
ヴィネがくる前に話していたデートのスケジュールの話をしたいらしい。
「あー、これ好き。明るくてわくわくする感じがいいねぇ。席取れるとこ?」
「うん、今予約した」
すいすいと端末の画面を弄り、予約完了画面を見せる。時間は午後からだった。
「よぉし、じゃあ午前は美術館とかどお? 芸術繋がりで」
「いいな。会場近くの美術館は、と。お? 今何か展示やってるみたいだぞ」
「わぁ。切り絵だぁ」
◆
「あ、いたいた。カナ、婚約者と仲睦まじいところ申し訳ないけれど、ちょっと今いいかい?」
「会長! はい、何でしょう」
楽しそうな二人の元へやって来たのは、生徒会長のレオンだった。
流石のソールも生徒会長の顔は知っており、敬意を持っているのか無言のまま軽い会釈をした。
レオンの用件というのは、生徒会役員であるカナに渡しておく資料があったそうだ。
「これ、各委員が提出する資料だ。記入して来週までに提出してくれ」
「わかりました」
「そう言えば何かあったのかい?」
「え?」
「いや、いましがた走りながら「悪魔がっ、悪魔がが地獄から這い出てくるぅううう!」って叫んでいるヴィネとすれ違ったから」
「ぷっ、くく・・・・・・」
「カナ?」
「あはははははははは!」
「ど、どうしたの?」
突然、堰を切ったように笑い出したカナに、レオンは目をぱちくりさせる。
カナは愉快だった。自分を理不尽な理由で婚約破棄したヴィネが恐怖に震えて走っている姿を思い浮かべるだけで痛快だ。
婚約破棄してから、思うところがなかった訳ではない。多感な時期に身近な人間から受けた裏切りは、カナの心に相応の負荷を強いた。それが今ではどうだろう。ヴィネのことなんて全く気にならない。心が、羽のように軽かった。
それもこれも、偶然ソールがデスメタルにハマってくれていたおかげだ。
「いやぁ、因果応報ってあるんですねぇ」
「そこそこいい気味だな」
「うん、そこそこ!」
奇しくもヴィネにひと泡吹かせてやることに成功したカナとソールは満足げだが、経緯を知らないレオンには何があったのか推察することすら出来ない。
◆
「ま、ヴィネも今頃いとし~のハニーにのところにでも駆け込んで慰めてもらってるかもね」
「というか、婚約者いる相手に手を出す女って何者?」
世間を見れば浮気不倫など五万と溢れているが、学生のうちにそんな真似に走るのは珍しい。というか将来が心配になる素行だった。
「えー? んっと、確かミラ? とかいう子だった気がする。ヴィネが惚気る時に自慢気に呼んでた」
聞きたくもない恋人の話を延々と続けるヴィネを思い出しながら、ヴィネの恋人の名前を口にすると、レオンがぎょっとした。
「え!? ヴィネの恋人ってあのミラなの?」
「会長、ご存知なんですか?」
「有名人だよ。悪い意味でのね。確か彼女、常に恋人が三人いる女っていうキャッチフレーズがついている人だよ」
「「うーわ」」
そのことをヴィネは知っているのか知らないのか。
まぁ、どのみちカナたちには関係のない話だが。
ソールの隣で膝を抱えて座るカナは区切りをつけて達観した眼差しへヴィネが去って行った方角を見つめ言う。
「あれがそうか。随分とカナを悪し様に言っていた。別れて正解だ」
「え?」
少し憤ったように聞こえるソールの声に、カナは目を瞬かせた。
確か、さっきソールはイヤホンで音楽を聞いていて、ヴィネがカナを悪く言っているところは聞いていない筈なのに、これは一体──。
カナが結論を導き出す前に、それを阻止するようにソールが話題を切り出す。
「カナ、次の休みはクラシックを聞きにいこう。ここの音楽団はオリジナル曲もたくさん出していて、演出も凝っているから。この曲とかカナ、好きそう」
イヤホンの片方をカナの耳に差し込み、ソールが再生ボタンを押す。
するとカナの脳内に上品な曲調ながらもポップなリズムの音楽が響き渡った。
ヴィネがくる前に話していたデートのスケジュールの話をしたいらしい。
「あー、これ好き。明るくてわくわくする感じがいいねぇ。席取れるとこ?」
「うん、今予約した」
すいすいと端末の画面を弄り、予約完了画面を見せる。時間は午後からだった。
「よぉし、じゃあ午前は美術館とかどお? 芸術繋がりで」
「いいな。会場近くの美術館は、と。お? 今何か展示やってるみたいだぞ」
「わぁ。切り絵だぁ」
◆
「あ、いたいた。カナ、婚約者と仲睦まじいところ申し訳ないけれど、ちょっと今いいかい?」
「会長! はい、何でしょう」
楽しそうな二人の元へやって来たのは、生徒会長のレオンだった。
流石のソールも生徒会長の顔は知っており、敬意を持っているのか無言のまま軽い会釈をした。
レオンの用件というのは、生徒会役員であるカナに渡しておく資料があったそうだ。
「これ、各委員が提出する資料だ。記入して来週までに提出してくれ」
「わかりました」
「そう言えば何かあったのかい?」
「え?」
「いや、いましがた走りながら「悪魔がっ、悪魔がが地獄から這い出てくるぅううう!」って叫んでいるヴィネとすれ違ったから」
「ぷっ、くく・・・・・・」
「カナ?」
「あはははははははは!」
「ど、どうしたの?」
突然、堰を切ったように笑い出したカナに、レオンは目をぱちくりさせる。
カナは愉快だった。自分を理不尽な理由で婚約破棄したヴィネが恐怖に震えて走っている姿を思い浮かべるだけで痛快だ。
婚約破棄してから、思うところがなかった訳ではない。多感な時期に身近な人間から受けた裏切りは、カナの心に相応の負荷を強いた。それが今ではどうだろう。ヴィネのことなんて全く気にならない。心が、羽のように軽かった。
それもこれも、偶然ソールがデスメタルにハマってくれていたおかげだ。
「いやぁ、因果応報ってあるんですねぇ」
「そこそこいい気味だな」
「うん、そこそこ!」
奇しくもヴィネにひと泡吹かせてやることに成功したカナとソールは満足げだが、経緯を知らないレオンには何があったのか推察することすら出来ない。
◆
「ま、ヴィネも今頃いとし~のハニーにのところにでも駆け込んで慰めてもらってるかもね」
「というか、婚約者いる相手に手を出す女って何者?」
世間を見れば浮気不倫など五万と溢れているが、学生のうちにそんな真似に走るのは珍しい。というか将来が心配になる素行だった。
「えー? んっと、確かミラ? とかいう子だった気がする。ヴィネが惚気る時に自慢気に呼んでた」
聞きたくもない恋人の話を延々と続けるヴィネを思い出しながら、ヴィネの恋人の名前を口にすると、レオンがぎょっとした。
「え!? ヴィネの恋人ってあのミラなの?」
「会長、ご存知なんですか?」
「有名人だよ。悪い意味でのね。確か彼女、常に恋人が三人いる女っていうキャッチフレーズがついている人だよ」
「「うーわ」」
そのことをヴィネは知っているのか知らないのか。
まぁ、どのみちカナたちには関係のない話だが。
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