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故意か誤解か

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「貴女、一体何が目的でこんなことをしたんです?」

 彼女を守っていたハディードが先輩方に退場させられ、ようやく私たちは面と向かい合った。
 小柄な体躯。栗色の髪。子リスのような愛らしい顔立ち。
 やっぱり、特に覚えはない子だ。
 何故、彼女が私に暴行されたなどと言い出したのか本当に分からない。
 訊ねてみると、返事はすぐには返って来なくて、キャルルさんは警戒心の強い小動物のようにくるくると目を動かしていた。
 その瞳には怯えが浮かんでいたけれど、一瞬それがふっと消えたのを私は見逃さなかった。
 あの目は知っている。社交界や取引でよく見る計算高い冷静な人間の目だ。
 だとすると、私の勘が正しいなら彼女はこの状況でもそれほど焦ってないということになる。どう見たって今の状況は彼女にとって不利なのに、どういうこと?
 油断しない方がいいと気を引き締めると、とうとうキャルルさんが口を開いた。

「私は・・・・・・本当に襲われたんです・・・・・・! 信じて下さい! ただ──」

「ただ?」

「その、私はハディード様に「ルテナ様によく似た背格好の女子生徒に暴力を振るわれた」とご相談したんです」

「はぁ?」

 ハディードは私を暴行犯だと決めつけていたけれど、違うってこと?

「顔を見なかったのか?」

「はい・・・・・・急に背後から襲いかかられて──その後は目を瞑って耐えるのに必死で」

「何故、それをハディードがルテナを糾弾している時に言わなかった?」

「実際にルテナ様にお会いしたら、本当によく似ていて、本当にルテナ様なのかもって怖くなってしまって──本当にごめんなさい!」

 震えながら頭を下げてくるキャルルさんを見ても、私はその言葉の裏に何かあるんじゃないかという疑いを拭えなかった。

 ネルト会長も何かを感じ取ったのか、他には聞こえないように私に耳打ちした。

「彼女、表情は怯えているけれど、受け答えは冷静だね。それにしっかりと非の矛先がハディードに向かうようにしている。演技だとしたら大したものだ」

 そうそこ。
 本当に怯えている人間なら、話す時に言葉に詰まったり、つっかえたりする。けれど、キャルルさんは私が最初に質問した時に少し黙り込んだだけで、それ以降の受け答えはスムーズで、言っていることも要領を得ないということはない。
 真偽は疑わしいけれど、本人があくまで私に似た背格好の人間に襲われて、それを私本人だと勘違いしたハディードが私を糾弾したと言うのなら、それはハディードの勝手な暴走であり、これ以上彼女を追求は出来ない。

「先にハディードを退場させたのは失敗だったな。まさか呼び戻させる訳にもいかないし」

 ただでさえ強引に摘まみ出されて怒り心頭のハディードを懇親会馬ここへ戻せば、火に油を注ぐだけだろう。
 まぁ、発端がキャルルさんでも、衆人環視の下で私を冤罪で糾弾したのはハディード自身だ。
 自分で判断して行ったことに変わりはない。
 そのことについてはけじめはつけて貰わないといけないけど、それは私の家とハディードの家の問題であって、無関係な人を巻き込むのはよくない。

「ネルト会長、ハディードについては持ち帰って両親に相談します。これ以上、時間が押すのも申し訳ないですし、懇親会を進めちゃってください」

「分かった。ただし、今のハディードの件とキャルルの件、双方とも学内で起きたことであれば、生徒会としては見過ごせない。あとでこちらからも話を訊かせてもらうことになるだろう」

「分かりました」

「君もだ、キャルル。後日、生徒会室に来るように」

「はい。承知致しました。では、本日は歓談の場を乱した責任として失礼させていただきます。後日、必ずお伺い致します」

 そう言って、キャルルさんは呆気ないってくらいにあっさりと頷き、お辞儀をして会場から去っていった。
 私はキャルルさんの後に極自然に着いていって、この場から立ち去ろうとしたが、がしっと肩を掴まれてしまう。

「じゃあ、私もこれで~」

「何言ってるの? お前は懇親会終了後の後片付けもあるだろう。片付けまでが生徒会の手伝いで、しないと内申点に反映されないぞ」

「な、なら、終了時に戻って来ますから──!」

 参加出来ないことには残念な気持ちはあるけれど、それ以上にさっきの後で今日の懇親会には参加したくない!
 が、そんなことは我が道を行く生徒会長様には関係なかった。

「手伝わせるだけ手伝わせて、一番美味しいところは味わせないなんて、懇親会主催者である生徒会長の誇りが許さない。何がなんでも参加しろ、そして楽しめ」

「無茶苦茶な!?」

 楽しむことを強制されたのなんて、人生で初めてだよ。
 結局、ネルト会長からは逃げられず、私はその後の懇親会に参加することになった。
 そこそこの数の生徒から好奇の目を向けられたけど、準備で仲良くなった生徒会の同性の先輩たちが構ってくれたので、そこまで嫌な思いをしなくて済んだ。

「はい、ルテナ。ケーキ持ってきたからあげる。うちの会社の系列店の新作よ。食べたら感想聞かせてね」

「ありがとうございます」

「少々騒ぎがあったようだが、皆、我が校自慢の優秀な生徒たちだ。その目が曇っていないと私は信じている。さて、いつも通り親睦を深めてくれ」

 暗に不確かな話を信じるなと釘を刺すネルト会長の声を聞きながら、私は帰ったらお父さんたちに今日のことをどう伝えようかと頭を悩ませていた。
 先輩がくれたお茶の葉を使ったケーキはとっても美味しかった。
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