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1.婚約者の交換
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私はアーモンド伯爵家の娘、ジゼル・アーモンドと申します。
アーモンド伯爵家の姉妹の姉の方でございます。
そうなると、妹の方もおりますが、本日その妹・リーファが、
「ねぇ、お姉様。お姉様の婚約者のロウ様と、わたしの婚約者のオウル様を交換しましょ!」
と、無邪気に言ってきました。
その台詞だけで目眩がしましたが、私は努めて冷静にリーファに問いました。
「いきなり何を言い出すかと思えば・・・・・・ロウ様もオウル様も物じゃないのですよ? 簡単に婚約を取り替えることなんて出来る訳がないでしょう」
当然のことを伝えると、リーファは頬を膨らませて、上目遣いで睨んできました。
「そんなことないもん! お父様もお母様も、リーファがそうしたいなら、望むようにしようって仰って下さったし、ロウ様だって可愛げのないお姉様より、可愛いわたしの方が婚約者だったら良かったのにって言ってましたもの!」
「・・・・・・まぁ、それは初耳ですわね」
どうやら、私の婚約者は私の知らないところで妹と秘密の交流関係を持っていたようです。
少し低い声が出ましたが、さて、どうしましょう?
はっきり申しますと、リーファが一度言い出すと、もうお手上げなのです。
何せ、お父様もお母様もリーファにとっても甘い方達ですから。
私とリーファは一つ違いの姉妹で、自分ではあまり自覚がありませんが、顔立ちはよく似ているそうです。ですが、性格は正反対。
昔から表情筋を動かすのが苦手な私と、いつも笑っているリーファ。愛想がいいのがどちらかと訊かれたら、十人中十人がリーファの方だと答えるでしょう。
本人が甘え上手なこともあり、両親は昔からリーファをそれはそれは可愛がり、甘やかしておりました。そして、それはもう淑女と呼ばれる年齢になった今でも変わらないのです。
「だから、ロウ様を下さい!」
「・・・・・・」
お菓子をねだるように両手を差し出して、婚約者を交換して欲しいと言ってくるリーファに、どう答えたものかと悩んでいると、私たちのいる部屋にお父様とお母様、そしてロウ様が入って来ました。まぁ、皆様、お揃いですわ。
「お父様、リーファが婚約者を交換したいと願い出たようですけれど、了承されたのですか?」
「ジゼル。そのことか。ああ、了承したぞ。可愛いリーファのためだ。お前も可愛い妹のためなら、文句はあるまい?」
「ロウ様~」
「リーファ! ああ! 今日も世界一可愛いね」
お父様にお尋ねすると、あっさりと首肯されました。
リーファはロウ様の元へ駆け寄り、その胸に飛び込みました。そんなリーファの頭をロウ様は蕩けるような笑みを浮かべて撫でております。もう少し、こう──隠そうとかなさらないのでしょうか。
「お父様。ロウ様は私の夫に迎え、アーモンド伯爵家を継いでいただくというお話だった筈ですが」
「我が家の血が入っていれば、お前だろうとリーファだろうと問題ないだろう。私としては、リーファが我が家に残ってくれるなら、これ以上の喜びはない」
「リーファちゃんがずっといてくれるなんて、何て素敵なことでしょう!」
アーモンド伯爵家には私とリーファの娘二人しかおりません。ですが、この国では爵位を継げるのは男子のみ。なので、ロウ様に婿に入っていただき、伯爵位を継いで頂くというのが、私たちの婚約の目的でございます。
ですから、お父様の仰る通り、血を繋ぐためなら妻は私でもリーファでもどちらでも良いのです。
お父様とお母様からしてみれば、可愛がっているリーファを他所の家に嫁入りさせたくないというお気持ちが強いのでしょう。婚約者の交換には乗り気のようです。そして、もう一人。
「ロウ様も異論はないのですか?」
「ん? 当然だろう。君のような人の仕事に口出ししてくるような、分を弁えない女よりも、にこにこ笑っていて控えめなリーファの方が伯爵夫人には相応しい。正直、君にはいい加減うんざりしてたんだ」
「そうでしたの」
仕事に口出しも何も、元々伯爵の仕事をお手伝いをしていたのは私ですし、婚約後は伯爵の仕事を覚えて貰おうと必要なことはお伝えしましたが、余程のことがない限り、ロウ様のすることに口出しをした覚えはないのですけれど。
ロウ様の記憶に一部、思い違いがある気がしますが、細かいことを気にしていてはお話が進みませんね。
「婚約者の交換のお話、私は別に構いませんけれど、オウル様はどうなのですか? 私はあまり交流はありませんでしたけれど、話した感じ、人の良い方に見えましたけれど。リーファ、本当に婚約者を交換して良いのですか?」
「構いません! わたし、オウル様のことは好きじゃありませんわ! オウル様もオウル様のお父様やお母様も意地悪ばっかりするんですもの! このままオウル様に嫁いだら、わたし、ヨメイビリをされちゃいます!」
「リーファをいじめるなんて、公爵家の人間はそんなに性根が悪い奴らなのか!?」
「リーファ、意地悪とは?」
憤慨するロウ様は放っておいて、私はリーファに話を訊くことにしました。
オウル様や公爵夫妻が意地悪を? 人は見掛けに寄らないとは言いますが、少し想像がつきませんね。
「酷いんです! オウル様ったら、公爵家に嫁いだら、ドレスや宝飾品を買うのに使うお金の上限を毎月決めるって仰るのっ。出席するパーティーやお茶会も、オウル様に一度相談するように言われたし、それに無理矢理お勉強させようとしてくるのよ!」
「・・・・・・」
返す言葉が咄嗟に見つかりませんでした。
えーと、これは、あれですね。
リーファは一度着たドレスには二度と袖を通さない程の着道楽で、毎月大量のドレスや宝飾品を買い込んでおります。その数、月に三十以上。一日一着着ても、計算上箪笥の肥やしになってしまっているドレスの数は十や二十ではないでしょう。
正直、無駄遣いにしか見えませんが、お父様たちは我が家の資金が潤沢なのをいいことに、リーファの欲しがるものを全て買い与えてしまうのです。
実家ならともかく、そんな真似を嫁ぎ先でも続けるなんて、とんでもないことです。月に使えるお金に上限を儲けるというのは、リーファの浪費癖を知っているなら当然のことでしょう。更に話を聞いたら、その上限も月にドレスが五着は作れる程の十分な額でしたし、何が不満なのか私には理解出来ません。
参加するパーティーやお茶会についてだって、公爵夫人ともなれば、お付き合いする相手は伸長に選らばなくてはいけませんし、お勉強だって必須です。
結論を申しますと、オウル様や公爵家には非はないと思うのですが。
「可愛いリーファの願いを無碍にした上、やりたくないことを押しつけるだなんて、何て酷い奴らだ!」
「うむ。いくら公爵家と言えど、可愛い娘をそのような家には嫁がせなれんな」
「リーファちゃんはずーっと、この家で楽しく過ごしているのが一番いいわ」
お父様方の中ではすっかり、公爵家はリーファをいじめる悪者のようです。
「はい! わたしもずっとここに居たいです!」
「お父様方はリーファを甘やかし過ぎです。リーファ、甘言にばかり耳を傾けていては駄目だとあれほど──」
「そうやってお姉様は難しい言葉を使ってわたしに意地悪をするのね! 今更何を言ったって、お姉様はここから出ていくんだから、お説教なんてしないで下さい!」
言い終える前に、リーファが私の声をかき消すように言いました。
嫌々とかぶりを振って、ぎゅっとロウ様に抱きついています。
──はぁ。別にいじめている訳ではないので、そんなに睨まないで頂けます?
「・・・・・・そうですか」
自分に都合の悪い流れになると、騒ぎ立てて、自分に甘い人間へ逃げる癖は結局直りませんでしたね。
お父様、お母様、リーファ、ロウ様。
目の前にいる四人を見ます。四人はすでに一つの家族のように楽しそうです。
不思議ですね? 十八年間、この屋敷で育った筈ですのに、まるで水に浮かんだ油にでもなった気分です。
幼い頃から薄々感じていたことですが、私は今日、はっきりとこの屋敷で自分が異物であることを自覚しました。
そういえば、魚は水が合わないと死んでしまうそうですね?
私は深呼吸をして、四人に対して申し上げました。
「婚約者の交換のお話、承諾致しますわ。ただし、公爵家の了承も必要でしょうから、婚約破棄と再婚約は公爵家の同意を頂いてからでよろしいですわね?」
「お姉様、ありがとう!」
リーファが嬉しそうに抱きついてきました。
三日後、アーモンド伯爵家と公爵家の間で話し合いの場が設けられました。
途中、リーファがひやりとさせられる言動をしましたが、何とか了承頂く運びと相成りました。
婚約者の交換を提案された日に、私とロウ様は婚約を破棄していたため、その日のうちにリーファとオウル様の婚約破棄。そして、私との婚約が結ばれました。
婚約に必要な書面にサインをし終えると、オウル様と目が合い、握手を求められましたので、答えました。
「申し訳ありません、オウル様。突然、このような申し出を受け入れて下さり、ありがとうございます」
「いや、こう言っては何だけれど、君の方が公爵夫人を任せるのには安心かな」
「精一杯、精進致します。何卒、よろしくお願いします申し上げます」
「うん。よろしくお願いします。僕に出来ることがあったら、何でも言ってね」
オウル様は表情も話し方も柔和なで、とても落ち着いた方でした。
優しい声音でそう言われ、私の頭には一つのお願いが浮かびました。
「では、早速なのですけれど、一つ我儘を言ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
快く頷いて頂いたことに安堵し、私はお願いをお伝えしました。
オウル様は一瞬、きょとりとしたお顔をされましたが、次ににこりと微笑まれて仰いました。
「うん。いいよ」
アーモンド伯爵家の姉妹の姉の方でございます。
そうなると、妹の方もおりますが、本日その妹・リーファが、
「ねぇ、お姉様。お姉様の婚約者のロウ様と、わたしの婚約者のオウル様を交換しましょ!」
と、無邪気に言ってきました。
その台詞だけで目眩がしましたが、私は努めて冷静にリーファに問いました。
「いきなり何を言い出すかと思えば・・・・・・ロウ様もオウル様も物じゃないのですよ? 簡単に婚約を取り替えることなんて出来る訳がないでしょう」
当然のことを伝えると、リーファは頬を膨らませて、上目遣いで睨んできました。
「そんなことないもん! お父様もお母様も、リーファがそうしたいなら、望むようにしようって仰って下さったし、ロウ様だって可愛げのないお姉様より、可愛いわたしの方が婚約者だったら良かったのにって言ってましたもの!」
「・・・・・・まぁ、それは初耳ですわね」
どうやら、私の婚約者は私の知らないところで妹と秘密の交流関係を持っていたようです。
少し低い声が出ましたが、さて、どうしましょう?
はっきり申しますと、リーファが一度言い出すと、もうお手上げなのです。
何せ、お父様もお母様もリーファにとっても甘い方達ですから。
私とリーファは一つ違いの姉妹で、自分ではあまり自覚がありませんが、顔立ちはよく似ているそうです。ですが、性格は正反対。
昔から表情筋を動かすのが苦手な私と、いつも笑っているリーファ。愛想がいいのがどちらかと訊かれたら、十人中十人がリーファの方だと答えるでしょう。
本人が甘え上手なこともあり、両親は昔からリーファをそれはそれは可愛がり、甘やかしておりました。そして、それはもう淑女と呼ばれる年齢になった今でも変わらないのです。
「だから、ロウ様を下さい!」
「・・・・・・」
お菓子をねだるように両手を差し出して、婚約者を交換して欲しいと言ってくるリーファに、どう答えたものかと悩んでいると、私たちのいる部屋にお父様とお母様、そしてロウ様が入って来ました。まぁ、皆様、お揃いですわ。
「お父様、リーファが婚約者を交換したいと願い出たようですけれど、了承されたのですか?」
「ジゼル。そのことか。ああ、了承したぞ。可愛いリーファのためだ。お前も可愛い妹のためなら、文句はあるまい?」
「ロウ様~」
「リーファ! ああ! 今日も世界一可愛いね」
お父様にお尋ねすると、あっさりと首肯されました。
リーファはロウ様の元へ駆け寄り、その胸に飛び込みました。そんなリーファの頭をロウ様は蕩けるような笑みを浮かべて撫でております。もう少し、こう──隠そうとかなさらないのでしょうか。
「お父様。ロウ様は私の夫に迎え、アーモンド伯爵家を継いでいただくというお話だった筈ですが」
「我が家の血が入っていれば、お前だろうとリーファだろうと問題ないだろう。私としては、リーファが我が家に残ってくれるなら、これ以上の喜びはない」
「リーファちゃんがずっといてくれるなんて、何て素敵なことでしょう!」
アーモンド伯爵家には私とリーファの娘二人しかおりません。ですが、この国では爵位を継げるのは男子のみ。なので、ロウ様に婿に入っていただき、伯爵位を継いで頂くというのが、私たちの婚約の目的でございます。
ですから、お父様の仰る通り、血を繋ぐためなら妻は私でもリーファでもどちらでも良いのです。
お父様とお母様からしてみれば、可愛がっているリーファを他所の家に嫁入りさせたくないというお気持ちが強いのでしょう。婚約者の交換には乗り気のようです。そして、もう一人。
「ロウ様も異論はないのですか?」
「ん? 当然だろう。君のような人の仕事に口出ししてくるような、分を弁えない女よりも、にこにこ笑っていて控えめなリーファの方が伯爵夫人には相応しい。正直、君にはいい加減うんざりしてたんだ」
「そうでしたの」
仕事に口出しも何も、元々伯爵の仕事をお手伝いをしていたのは私ですし、婚約後は伯爵の仕事を覚えて貰おうと必要なことはお伝えしましたが、余程のことがない限り、ロウ様のすることに口出しをした覚えはないのですけれど。
ロウ様の記憶に一部、思い違いがある気がしますが、細かいことを気にしていてはお話が進みませんね。
「婚約者の交換のお話、私は別に構いませんけれど、オウル様はどうなのですか? 私はあまり交流はありませんでしたけれど、話した感じ、人の良い方に見えましたけれど。リーファ、本当に婚約者を交換して良いのですか?」
「構いません! わたし、オウル様のことは好きじゃありませんわ! オウル様もオウル様のお父様やお母様も意地悪ばっかりするんですもの! このままオウル様に嫁いだら、わたし、ヨメイビリをされちゃいます!」
「リーファをいじめるなんて、公爵家の人間はそんなに性根が悪い奴らなのか!?」
「リーファ、意地悪とは?」
憤慨するロウ様は放っておいて、私はリーファに話を訊くことにしました。
オウル様や公爵夫妻が意地悪を? 人は見掛けに寄らないとは言いますが、少し想像がつきませんね。
「酷いんです! オウル様ったら、公爵家に嫁いだら、ドレスや宝飾品を買うのに使うお金の上限を毎月決めるって仰るのっ。出席するパーティーやお茶会も、オウル様に一度相談するように言われたし、それに無理矢理お勉強させようとしてくるのよ!」
「・・・・・・」
返す言葉が咄嗟に見つかりませんでした。
えーと、これは、あれですね。
リーファは一度着たドレスには二度と袖を通さない程の着道楽で、毎月大量のドレスや宝飾品を買い込んでおります。その数、月に三十以上。一日一着着ても、計算上箪笥の肥やしになってしまっているドレスの数は十や二十ではないでしょう。
正直、無駄遣いにしか見えませんが、お父様たちは我が家の資金が潤沢なのをいいことに、リーファの欲しがるものを全て買い与えてしまうのです。
実家ならともかく、そんな真似を嫁ぎ先でも続けるなんて、とんでもないことです。月に使えるお金に上限を儲けるというのは、リーファの浪費癖を知っているなら当然のことでしょう。更に話を聞いたら、その上限も月にドレスが五着は作れる程の十分な額でしたし、何が不満なのか私には理解出来ません。
参加するパーティーやお茶会についてだって、公爵夫人ともなれば、お付き合いする相手は伸長に選らばなくてはいけませんし、お勉強だって必須です。
結論を申しますと、オウル様や公爵家には非はないと思うのですが。
「可愛いリーファの願いを無碍にした上、やりたくないことを押しつけるだなんて、何て酷い奴らだ!」
「うむ。いくら公爵家と言えど、可愛い娘をそのような家には嫁がせなれんな」
「リーファちゃんはずーっと、この家で楽しく過ごしているのが一番いいわ」
お父様方の中ではすっかり、公爵家はリーファをいじめる悪者のようです。
「はい! わたしもずっとここに居たいです!」
「お父様方はリーファを甘やかし過ぎです。リーファ、甘言にばかり耳を傾けていては駄目だとあれほど──」
「そうやってお姉様は難しい言葉を使ってわたしに意地悪をするのね! 今更何を言ったって、お姉様はここから出ていくんだから、お説教なんてしないで下さい!」
言い終える前に、リーファが私の声をかき消すように言いました。
嫌々とかぶりを振って、ぎゅっとロウ様に抱きついています。
──はぁ。別にいじめている訳ではないので、そんなに睨まないで頂けます?
「・・・・・・そうですか」
自分に都合の悪い流れになると、騒ぎ立てて、自分に甘い人間へ逃げる癖は結局直りませんでしたね。
お父様、お母様、リーファ、ロウ様。
目の前にいる四人を見ます。四人はすでに一つの家族のように楽しそうです。
不思議ですね? 十八年間、この屋敷で育った筈ですのに、まるで水に浮かんだ油にでもなった気分です。
幼い頃から薄々感じていたことですが、私は今日、はっきりとこの屋敷で自分が異物であることを自覚しました。
そういえば、魚は水が合わないと死んでしまうそうですね?
私は深呼吸をして、四人に対して申し上げました。
「婚約者の交換のお話、承諾致しますわ。ただし、公爵家の了承も必要でしょうから、婚約破棄と再婚約は公爵家の同意を頂いてからでよろしいですわね?」
「お姉様、ありがとう!」
リーファが嬉しそうに抱きついてきました。
三日後、アーモンド伯爵家と公爵家の間で話し合いの場が設けられました。
途中、リーファがひやりとさせられる言動をしましたが、何とか了承頂く運びと相成りました。
婚約者の交換を提案された日に、私とロウ様は婚約を破棄していたため、その日のうちにリーファとオウル様の婚約破棄。そして、私との婚約が結ばれました。
婚約に必要な書面にサインをし終えると、オウル様と目が合い、握手を求められましたので、答えました。
「申し訳ありません、オウル様。突然、このような申し出を受け入れて下さり、ありがとうございます」
「いや、こう言っては何だけれど、君の方が公爵夫人を任せるのには安心かな」
「精一杯、精進致します。何卒、よろしくお願いします申し上げます」
「うん。よろしくお願いします。僕に出来ることがあったら、何でも言ってね」
オウル様は表情も話し方も柔和なで、とても落ち着いた方でした。
優しい声音でそう言われ、私の頭には一つのお願いが浮かびました。
「では、早速なのですけれど、一つ我儘を言ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
快く頷いて頂いたことに安堵し、私はお願いをお伝えしました。
オウル様は一瞬、きょとりとしたお顔をされましたが、次ににこりと微笑まれて仰いました。
「うん。いいよ」
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