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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

真面目と天然は共存する

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「学園生活の中で、俺とマリス・リアルージュに個人的なやり取りがあり、その結果リンス・シュナイザーやシュナイザー家に対して今回の不義理を働いてしまった。冷静に考えれば有り得ないことだ。
 王家とシュナイザー侯爵家の取り決めを反故にしてしまったこともだが、皆の三年間の大切な総決算の場であのような発言をしてしまったこと、本当に申し訳なく思っている」

 飽くまで詳細を明かすことなく、簡潔に自身の行いを説明し、その非を認めてギーシャは再び頭を下げた。
 あの場にいて、ギーシャの発言からマリス嬢とリンス嬢の互いに向けた罵詈雑言を聞いていればよっぽど鈍くなければおおよその察しはつくだろう。
 その上で、生徒たちの直接的被害である卒業パーティーで和を乱してしまったことへ重きを置いた謝罪の言葉。

 当初は深い事情を伏せた上で、謝罪をしつつ、王家とシュナイザー侯爵家、魔法管理局に今回の件で亀裂が入った訳ではないと言うことを強く押し出した謝罪文を用意したけど、会場を見たギーシャは皆の楽しみを奪ってしまったことへの反省の気持ちを伝えることに重点を変えたようだ。

「さっき、開始を待つ皆の様子を窺っていたのだが、とても楽しげで、きっと先日もそのような表情で友人や後輩たちと語らっていたのだと思う。愚鈍な俺はその時になってようやく自身の浅はかさや身勝手さを自覚した。遅すぎると呆れられるとは思うが。
 それに、俺が言っていいことではないだろうが──それでも良いものだと思った」

 ギーシャが微笑む。
 その声は柔らかく、けれど自身に向けた嘲りが滲んだような声音だ。

「先日、ある人物の言葉をきっかけに、自身の立場について考えてみた。
 俺はレイセン王国の第三王子として、本来であれば皆の手本となるような正しい振る舞いをすべきだったのだろう」

 その言葉にドキリとした。
 ギーシャが言っているのは、イクスが蝙蝠を差し向けてきた時に私がギーシャに言った言葉だろうか。
 そっか、あの後もギーシャはずっと考えていたんだ。

「だが、皆に迷惑をかけてしまった俺にそうする資格はない。ただ、皆の笑顔を見て、それがとても良いものだと思ったのは事実だ。ならばせめて、皆が今後の学園生活を笑って過ごせる一助となることを許してほしい。奉仕活動部として」

 聞き慣れない言葉にそれまで沈黙を守り、ギーシャの言葉を聞き入っていた生徒たちがどよめく。
 ここで奉仕活動部の話を食い込ませてきたかぁ。

「はいはーい! 皆さん、お静かにお願いしまーす! まだギーシャ王子のお話の途中ですよー!」

 私は結構通る声質をしているため、魔法拡声器なしでも声を張り上げればそこそこ遠くまで声を届けることが出来る。魔法拡声器をギーシャに渡してしまったので、会場を静めるために大声で皆に閉口を求めた。

 元々お行儀の良い貴族の子女が大半のため、十数秒で会場は再び静けさを取り戻した。

「聞き慣れない言葉に驚いたことだろう。その説明を今からする。奉仕活動部とは、この件で俺たち三人に課された処罰だ。
 俺たちが高等部へ進学するのと同時に設立される奉仕活動部。活動内容は追々学園掲示板の部活欄に掲示する予定なので詳細はそちらを見てほしい。
 この場では奉仕活動部の主な目的について説明する。奉仕活動部は学園の生徒が学園生活をより快適に過ごすための手助けをするための部だ。校内の清掃や雑用の他に、生徒からの直接の依頼も募集している。学園生活で何か困った時や、人手がいる時は是非声をかけてほしい。
 皆への償いとして課された処罰ではあるが、俺自身もこの活動を通して自分を改めて見直し、皆に尽くすことで王子としての正しい在り方を見つけたいと思っている」

 話したいことは一通り吐き出せたのか、ギーシャが一礼をした。

 ギーシャが想像よりも奉仕活動部に前向きなのが意外だった。
 人との交流に苦手意識のあるギーシャに依頼者を通して少しは馴れてくれたらいいなーっていう思惑がちょっとあったんだけど、これなら大丈夫そうかな?

 ほっと胸を撫で下ろした時。ギーシャがひらめいた! 的な顔をした。
 どうしたんだろう? と思いつつも、私は安堵で体の力が抜けており、すぐには動けなかった。

 ──そう、油断してはいけない。

 ギーシャは確かに、コミュニケーション面以外ではとても優秀な人で、人が苦手でもこうやって人前に立つことも出来る自身を理解した範囲で制御出来る人だ。

 が、自覚がない面はどうやったって補えない。

 つまり。

「ああ、そうだ。今はとりあえず除草剤のようなものだと思ってくれ」


 自覚ない天然に天然発言しないでって言っても意味ないってことだよね──────!!!!
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