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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
強い女の子
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・・・・・・やってしまった。
自分の失敗に本気で落ち込む。
「ミリア、魔法拡声器のテストならあそこまで大きな声を出さなくても大丈夫だぞ?」
「・・・・・・うぅ、うん」
マリス嬢とリンス嬢を派遣したというのに、さっきの騒ぎでギーシャは二人を連れてこっちに来ちゃったし。
「よしよし。大丈夫だから」
壁際で膝を抱えて蹲っている私の頭をギーシャが撫でてくれた。
「貴女、そそっかしいのよ。いつまでも落ち込んでないで立ちなさい。スカートに皺が寄るでしょ?」
マリス嬢が腕を引いて私を立たせる。ついでにスカートを整えてくれた。何だかお母さんみたいだ。
その時、剣呑な目つきのリンス嬢と目があった。無理もない。意図してのこととはいえ、大事な話を邪魔されたのだから。
「あの、リンス嬢・・・・・・」
何とか、詳細を省いてリンス嬢に納得して貰おうと声をかける。すると、リンス嬢がはっとして今まで纏っていた張り詰めた空気が解かれた。
「あ、ごめんなさい。驚いてつい臨戦態勢に・・・・・・ミリア嬢、どうかなさいました?」
「あ、あのリンス嬢、さっきギーシャとしてた話なんですけど──」
「・・・・・・?」
何て言えばいいんだろう。
ギーシャは博愛主義者しか愛せない? ギーシャにとって特別な感情は劇物?
言える訳ない。だってそれはギーシャの最も柔らかで傷つきやすい場所なんだから。でもだからってリンス嬢に何も言わないのも・・・・・・だから、えーっと!
ぐるぐるぐるぐる。頭が茹で上がりそうになっていると肩にそっと手が置かれた。リンス嬢の手だ。
見るとリンス嬢はそっと微笑み、静かに頷いた。それから、
「ギーシャ王子、申し訳ありません。私から訊ねておいて勝手なのですが、先程の質問は今は忘れて下さい」
「答えなくていいのか? すまない、正直リンスの質問の意図が分からないのだが、それでいいのか?」
ギーシャが質問の意図が分からないと心の底から申し訳なさそうな顔で言った時、リンス嬢が一瞬だけ悲しそうな顔をした。
ああ、今ので伝わったんだろうな。リンス嬢の想いは一ミリもギーシャに届いてなかったことが。
結局、私はギーシャのことしか守れなかった。
どのみち、リンス嬢はいつかぶつかる壁だったんだろうけど。でも、先伸ばしするより、早めに分かった方が──それでよくても私が言っていい台詞じゃないか。
申し訳なくて、今は明るく振る舞えない。
「はい、いいのです。それに負けるつもりもありません」
凛とした、力強い宣言があった。
「負ける? リンスは何か勝負事をしているのか?」
「ええ。絶対に負けられない──負けたくない勝負の最中なんです」
そう言ったリンス嬢の強い光の宿った瞳はマリス嬢に射抜くように向けられた。
視線だけで全てを察したのだろう。マリス嬢はただ、不敵に笑い返すだけだった。
今、二人の間に本当の意味で火蓋が切って落とされたのかもしれない。
「ミリア嬢」
「は、はい!」
リンス嬢に呼ばれて肩が跳ね上がる。何を言われるのだろうかと心臓がばくばくと高鳴った。
「ここ数日の貴女を見て、理解しました。貴女は間違いなくギーシャ王子の味方。なら、私はそれだけでいいんですよ。気にしないで下さい」
思わず、泣きそうになった。
ああ、リンス嬢は私を許している。全部知っていながら、何も明かさない私を。
脳内で一人相撲をして、身勝手な罪悪感に私が駆られているのに気づいて、その呪縛から解放しようと気遣ってくれている。
私がギーシャの味方というだけで。これが、恋する女の子なのか。
そうだとしたら、恋する女の子とはなんて強いのだろう。
自分の失敗に本気で落ち込む。
「ミリア、魔法拡声器のテストならあそこまで大きな声を出さなくても大丈夫だぞ?」
「・・・・・・うぅ、うん」
マリス嬢とリンス嬢を派遣したというのに、さっきの騒ぎでギーシャは二人を連れてこっちに来ちゃったし。
「よしよし。大丈夫だから」
壁際で膝を抱えて蹲っている私の頭をギーシャが撫でてくれた。
「貴女、そそっかしいのよ。いつまでも落ち込んでないで立ちなさい。スカートに皺が寄るでしょ?」
マリス嬢が腕を引いて私を立たせる。ついでにスカートを整えてくれた。何だかお母さんみたいだ。
その時、剣呑な目つきのリンス嬢と目があった。無理もない。意図してのこととはいえ、大事な話を邪魔されたのだから。
「あの、リンス嬢・・・・・・」
何とか、詳細を省いてリンス嬢に納得して貰おうと声をかける。すると、リンス嬢がはっとして今まで纏っていた張り詰めた空気が解かれた。
「あ、ごめんなさい。驚いてつい臨戦態勢に・・・・・・ミリア嬢、どうかなさいました?」
「あ、あのリンス嬢、さっきギーシャとしてた話なんですけど──」
「・・・・・・?」
何て言えばいいんだろう。
ギーシャは博愛主義者しか愛せない? ギーシャにとって特別な感情は劇物?
言える訳ない。だってそれはギーシャの最も柔らかで傷つきやすい場所なんだから。でもだからってリンス嬢に何も言わないのも・・・・・・だから、えーっと!
ぐるぐるぐるぐる。頭が茹で上がりそうになっていると肩にそっと手が置かれた。リンス嬢の手だ。
見るとリンス嬢はそっと微笑み、静かに頷いた。それから、
「ギーシャ王子、申し訳ありません。私から訊ねておいて勝手なのですが、先程の質問は今は忘れて下さい」
「答えなくていいのか? すまない、正直リンスの質問の意図が分からないのだが、それでいいのか?」
ギーシャが質問の意図が分からないと心の底から申し訳なさそうな顔で言った時、リンス嬢が一瞬だけ悲しそうな顔をした。
ああ、今ので伝わったんだろうな。リンス嬢の想いは一ミリもギーシャに届いてなかったことが。
結局、私はギーシャのことしか守れなかった。
どのみち、リンス嬢はいつかぶつかる壁だったんだろうけど。でも、先伸ばしするより、早めに分かった方が──それでよくても私が言っていい台詞じゃないか。
申し訳なくて、今は明るく振る舞えない。
「はい、いいのです。それに負けるつもりもありません」
凛とした、力強い宣言があった。
「負ける? リンスは何か勝負事をしているのか?」
「ええ。絶対に負けられない──負けたくない勝負の最中なんです」
そう言ったリンス嬢の強い光の宿った瞳はマリス嬢に射抜くように向けられた。
視線だけで全てを察したのだろう。マリス嬢はただ、不敵に笑い返すだけだった。
今、二人の間に本当の意味で火蓋が切って落とされたのかもしれない。
「ミリア嬢」
「は、はい!」
リンス嬢に呼ばれて肩が跳ね上がる。何を言われるのだろうかと心臓がばくばくと高鳴った。
「ここ数日の貴女を見て、理解しました。貴女は間違いなくギーシャ王子の味方。なら、私はそれだけでいいんですよ。気にしないで下さい」
思わず、泣きそうになった。
ああ、リンス嬢は私を許している。全部知っていながら、何も明かさない私を。
脳内で一人相撲をして、身勝手な罪悪感に私が駆られているのに気づいて、その呪縛から解放しようと気遣ってくれている。
私がギーシャの味方というだけで。これが、恋する女の子なのか。
そうだとしたら、恋する女の子とはなんて強いのだろう。
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