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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

パニクるミリア

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 手元の謝罪文を眺める。
 これ、どうしよ。処分ってゴミ箱に捨てればいいの?

 何が何やらで困っていると、背後から視線を感じた。

 じーっ。じーっ。

「うぎゃあ!」

 感情の読み取れない四つの瞳に捕らえられ、私は短い悲鳴を上げて肩を跳ね上げた。

 視線の正体はマリス嬢とリンス嬢。

 そこで気づく。もしや、今の見られてた?

 え? ひょっとして私、やられる?

 もちろん、私が二人の恋の対抗馬になるなんて天と地がひっくり返ってもあり得ないけど、この恋する暴走列車たちがさっきのをどう解釈するか。

 特にマリス嬢は私とギーシャが疎遠になっていた中等部からの編入生だし、さっき男女の友情は幻想って言ってたし。
 いや、従姉弟だから、家族愛なら信じてもらえるよね? 従姉弟は家族の範囲だよね??

 ていうか、パーティー準備やら、襲撃のゴタゴタで有耶無耶になってたけど、この二人のセーフラインとアウトラインがわからん!

「ねぇ」

 マリス嬢が口を開く。

「ギーシャ王子、いつもと様子が違ったけど具合でも悪いの?」

「ひー! って? あ? ああ、ギーシャ! ギーシャですか!」

 もう、私ったら早とちり。
 特にピンチだった訳ではないと分かってほっとする。
 頭を小突きたい気分だが、流石にそれはキャラじゃないなと痒くもない後頭部を掻く仕草だけで留めた。もちろん、仕草だけなのでマリス嬢の咲かせた薔薇は無事だ。

「ぶっちゃけ、よく分かりません! 助けて!」

「「ぶっ!!」」

「あ、ごめんなさい・・・・・・」

 ギーシャの言動の意図が分からないまま、パニクった頭で二人に飛びついたら、ちょうど伸ばした手が並んでいた二人の顔にモロに当たってしまった。
 身長差のためか、右手はリンス嬢の顎に掌底打ち、マリス嬢に至ってはアイアンクローをかました絵面になっており、互いに意図しない不意打ちの結果、二人は顔を押さえて俯いてぷるぷる震えている。

「あ、なたねぇ、本当に十五年公爵令嬢やってきたの? 何で、令嬢らしい落ち着きがないのよ」

「す、すみません、すみません!」

「狙いは悪くないけど、威力が弱い・・・・・・顎よりも鼻を狙った方が」

 ぶつぶつと呟きながら、リンス嬢が空に向かって掌底を打ち出す。
 ひゅんっという空気を切る音がした。

「こっちはこっちで十五年侯爵令嬢やって来たとは思えない奴がいた」

「あ、あはは・・・・・・」

 リンス嬢に変な方向のアドバイスを貰ってしまい、もはや空笑いしか出なかった。

「で? 何があったの?」

「それが──」

 一瞬、話そうかどうか迷ったが、よくよく考えれば、ここ三年のギーシャについてならこの二人の方が知っているだろうと思い、おずおずとギーシャに不要と処分を頼まれた謝罪文を見せ、私は事のいきさつを話した。
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