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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

開始前の少女たち

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「ヒート! ヒ────トォォオオッ!!」

 現在、霜にまみれた私は大至急で、魔力の安定に努めていた。これが、ほんとの霜降りか。

 意味もなく腕を上げたり下げたりして、周囲の霜を溶かす。
 ホットな空気を頑張って生成して、しゅううぅと音を立てて全て溶けきったのを確認して私はようやく肩の力を抜けた。

「はー、はー、あー! びっくりした!」
「ほんとに何やってるの? 貴女」
「いえ、今日はちょっぴり暑いから、クールダウンしよーかなーって・・・・・・あは、あはは!」
「クールダウンどころか、汗だくになってるけど」
「うっ!」

 精錬された無駄な動きをしてしまったから、私の体温は上昇したらしい。うん、暑い。

「脳味噌爆発しそう」
「大丈夫?」

 挙動不審な私をマリス嬢が可哀想なものを見る目で見てくる。
 その視線は純粋に傷つくから止めていただけませんかね?

「大丈夫です。元気です。今日も快晴で無問題モウマンタイ。絶好のパーティー日和でウッキウキですよ!」
「テンション上がってパリピ状態ってこと?」
「それでいいです! で? デザートの順番でしたっけ?」

 何故かパーティーピープルになった私はそのまま華麗に話題をチェンジ☆ ひらひらり。
 ・・・・・・うん、やっぱテンションおかしーわ。自覚はあるので、まだ大丈夫だと思いたい。

「そうそう。進行で一度、中庭に出るでしょう? そっちにも料理とデザートは用意することになってるけど、冷たいものも外でいいか相談しようと思って」

 あー、そっか。
 シーエンス家の敷地を貸して貰う上で、ラウルに提示された条件だ。
 一度、庭を見せたいって。

「冷たいものってアイスとかですか?」
「そうよ」
「屋外だと溶けません? 春ですし」
「冷凍機能付きのクロッシュがあるから問題ないわ。デザートは常温のものと冷たいもの、暖かいものって用意したから、どういう順番がいいかしらって」
「私はアイスは炬燵で食べる派ですね」
「春よ?」
「そうですねぇ。ちなみに、どんなアイスなんですか?」
「果物中心のフレーバーで、薔薇の形にしてみたわ」
「じゃあ、外がいいかもです」

 シーエンス家の庭の目玉は薔薇だし、暖かな春の日差しの中で食べるアイスというのもなかなか乙ではないですか。
 中庭に出るのは、色々出し物をやって場が温まってきた頃だから、そこに冷たいアイスというのはいいアイディアだと思う。

「私的には最初に室内で常温デザートやケーキ類、外で冷たい系、で最後に室内でホットなデザートが理想的ですねぇ」

 最後の演出はちょっと視覚的に体感温度が下がる感じなので、そこで温かいデザートをお供にするのが一番いい感じだと思う。

「分かったわ。厨房にもそう伝えておく。あ、後キャンリーチとクジカラについてだけど、貴女が探りを入れて、私とあの女はローテーション通りに見張っているだけでいいのよね?」
「はい。状況的に、それが一番でしょうから~」

 ラフィン絡みで絶賛修羅場中だというグミ嬢とネモ嬢。
 まぁ、ド派手キャットファイトで仕切り直しになったパーティーで修羅場を演じたりはしないだろうし、せめて二人からラフィン家の情報を引き出せたら御の字なんだけど。

「他に確認したいことはありますか?」
「いえ、問題ないわ。あら、貴女、リボン片方どうしたの?」
「貸し出し中です」

 貸したのがギーシャというのは言わない。
 リボンという単語に反応されても困るから。
 失くした訳ではないというのは伝わった筈なので、マリス嬢はリボンについては言及しなくなったけど、私の頭をじろじろ見てくる。

「せっかくのドレスにリボン一つじゃ少し寂しいわね。いっそ、編み込み入れてアップにしてみたら?」
「生憎、そんな高等テクニックは持っておりません」

 下手すりゃ三つ編みも失敗するくらいには、ヘアアレンジの経験値がない私にそのようなアドバイスをされても困ります。

「貴女には一番迷惑かけたし、それくらいやってあげるわよ。どうせなら、一番可愛い格好でパーティーに出たいでしょ。ドレスが普段着の貴族だって、そういうメルヘン系着れるのは若いうちだけでしょうし」
「メルヘン言わないで下さい。言っときますけど、私の趣味じゃありませんから! 母と姉の趣味ですから!」

 文化的にはおかしくないけど、こういうドレスは慣れないコスプレ感があるのでちょいと恥ずかしい。
 私が着てるのは、そこそこフリルやレースの多い桃色のドレスだ。ロリータ、とまでは言わないけど、大分ファンシーでメルヘンチックに仕上げられました。
 何か、瞳の色的にピンクが似合うらしくこの色らしい。
 お母様とお姉様はこれと白いドレスで迷ってたけど、マリス嬢が桃の花を用意してくれた話をしたらそれに合わせてこの色になった。
 ピンクとか前世では小学生の時くらいしか着なかったなぁ。

「一応、コームやヘアピンは用意してあるのよ。化粧室に行きましょ」
「あ、はい」

 特に断る理由もなかったし、善意は受け取って置こうと素直にマリス嬢についていく。

 その道中──

「ていやあ!」

 無惨な姿になった大量の瓦に囲まれたリンス嬢と遭遇した。
 一体何枚割ったのか・・・・・・。
 というか、熱中しすぎて、せっかくのヘアセットがほどけかけちゃってる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。いいわ、もののついでよ。アンタも来なさい」

 長い沈黙の後、マリス嬢はリンス嬢の首根っこを掴んで引きずって行く。

「何?」
「そんな格好でギーシャ王子の隣に立つ気? これから謝罪だっていうのに、そんな身形でどうするのよ」

 瓦割りの邪魔をされ、不機嫌そうにマリス嬢を睨んだリンス嬢だが、マリス嬢の返しに黙りこんで大人しくしている。
 相変わらずドライな空気だけど、ちゃんと譲歩出来る範囲で協力は出来てるようだ。

「マリス嬢、軍神みたいですねぇ」
「別に塩を贈る訳じゃないわよ。あくまで最・低・限のことしかしないから」
「む、軍神? 私を差し置いて?」
「「何に張り合ってん(のよ)ですか」」
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