161 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
リラックスアイテム
しおりを挟む
「・・・・・・? ・・・・・・?」
ギーシャはどうしたらいいのか分からず、疑問符を飛ばしながら目で助けを求めてくる。
「人を食べたらいい」という私の言葉を言い方のもんだいでカニバリズム的意味合いで捉えてしまったらしい。
うん、私が悪かったです。
「いや、そうじゃなくて! 実際に食べるわけじゃないから! 文字! 文字だから! おまじない!」
このままでは私の思考回路が猟奇的だと誤解されかねないので、慌てて説明を補足する。
「文字? 紙を食べるのか? ああ、だから山羊は穏やかなんだな」
上手く伝わらない。
「ペンならあるが」と言って、上着のポケットから万年筆を取り出したギーシャの手を押さえる。
このままじゃ、本気で紙を食べかねない。
「そうじゃなくてね。えーと、手のひらに『人』って字を三回書いて、書いたところを口に押し当ててこう飲み込むの」
私は試しにお手本を見せてみる。
「それは、空気を吸っているだけでは?」
「まぁ、まぁ、いいから。おまじないなんてそんなものよ。こうすれば上手くいくって思えればいいんだから」
「なるほど。自己暗示みたいなものか」
ギーシャはそう言って、私が見せたように手のひらに人を書いて飲み込んだ。
(人の字って・・・・・・大陸の言葉でもいいのかな?)
当然ながら、ギーシャが自分の手に書いたのは、レイセンの公用語である大陸の言葉だった。
国によって言語が違ったり、発音が違ったりするけど、大陸の言葉はいわゆる共通語であり、大陸では広く使われている。
レイセンはお国柄、他国との交流が多いので、会談や交渉をスムーズに行うために大陸の言葉を公用語に採用している。
ちなみに、古代に使われていた大地の言葉という言語体系も存在するが、近代では魔法関連でしか使用されなくなっている。そもそも、魔法的に特別な意味合いのある言語なので、もともと日常的に使うには向いていなかったとかそういう話を授業で聞いた。
この世界にも一応漢字に似た文字はあるらしいが、当然大陸では使われていない。
このおまじないでは、普通なら支え合う形と言われる人の字を使うんだけど、そこに意味はあるのだろうか。
まぁ、ギーシャの言う通りこれは呪術的な意味合いもないただの自己暗示だしなぁ。言っちゃえばプラシーボ効果に過ぎない。けど、効く人には効くって言うし、気休めにはなるだろう。
ギーシャはごくりと喉を鳴らして、人を書いた手のひらを見つめている。
「どう?」
「あまり変わらない」
どうやら、ギーシャには効果が見込めなかったようだ。
私はガックリと肩を落とした。
「そっかぁ。落ち着くのに必要なものってルーティンとか? でも時間ないし・・・・・・あ、お守りとか」
「お守り?」
「そう。お守りっていうか、安心出来るアイテム。ちっちゃい子が手放そうとしないぬいぐるみとか毛布とか。これがあれば大丈夫ってものない?」
これも自己暗示っぽいけど、形がある分、拠り所としての役目は果たせるだろう。持ち歩けるサイズなら尚良し。
「何か、今すぐ用意出来るもので、ギーシャが持っていたら安心できるようなものない? あったら言って。ダッシュで持ってくるから」
「安心できるもの・・・・・・」
ギーシャは人差し指の背で唇を押さえ思案顔だ。
思いつかなかったらどうしよう。
とりあえず、甘いものとかギーシャの好きなもの持ってくればいいかな?
そう考えていると、ギーシャが私の顔を見て「あ」と呟いた。
「なになに? 思いついた?」
「ああ」
ギーシャが頷いて、私に指を向けた。
「それ」
「え? これ?」
ギーシャが示したのは、私の頭の両サイドで揺れている、今朝ユリアお姉様に結ってもらった淡いピンクのリボンだった。
ギーシャはどうしたらいいのか分からず、疑問符を飛ばしながら目で助けを求めてくる。
「人を食べたらいい」という私の言葉を言い方のもんだいでカニバリズム的意味合いで捉えてしまったらしい。
うん、私が悪かったです。
「いや、そうじゃなくて! 実際に食べるわけじゃないから! 文字! 文字だから! おまじない!」
このままでは私の思考回路が猟奇的だと誤解されかねないので、慌てて説明を補足する。
「文字? 紙を食べるのか? ああ、だから山羊は穏やかなんだな」
上手く伝わらない。
「ペンならあるが」と言って、上着のポケットから万年筆を取り出したギーシャの手を押さえる。
このままじゃ、本気で紙を食べかねない。
「そうじゃなくてね。えーと、手のひらに『人』って字を三回書いて、書いたところを口に押し当ててこう飲み込むの」
私は試しにお手本を見せてみる。
「それは、空気を吸っているだけでは?」
「まぁ、まぁ、いいから。おまじないなんてそんなものよ。こうすれば上手くいくって思えればいいんだから」
「なるほど。自己暗示みたいなものか」
ギーシャはそう言って、私が見せたように手のひらに人を書いて飲み込んだ。
(人の字って・・・・・・大陸の言葉でもいいのかな?)
当然ながら、ギーシャが自分の手に書いたのは、レイセンの公用語である大陸の言葉だった。
国によって言語が違ったり、発音が違ったりするけど、大陸の言葉はいわゆる共通語であり、大陸では広く使われている。
レイセンはお国柄、他国との交流が多いので、会談や交渉をスムーズに行うために大陸の言葉を公用語に採用している。
ちなみに、古代に使われていた大地の言葉という言語体系も存在するが、近代では魔法関連でしか使用されなくなっている。そもそも、魔法的に特別な意味合いのある言語なので、もともと日常的に使うには向いていなかったとかそういう話を授業で聞いた。
この世界にも一応漢字に似た文字はあるらしいが、当然大陸では使われていない。
このおまじないでは、普通なら支え合う形と言われる人の字を使うんだけど、そこに意味はあるのだろうか。
まぁ、ギーシャの言う通りこれは呪術的な意味合いもないただの自己暗示だしなぁ。言っちゃえばプラシーボ効果に過ぎない。けど、効く人には効くって言うし、気休めにはなるだろう。
ギーシャはごくりと喉を鳴らして、人を書いた手のひらを見つめている。
「どう?」
「あまり変わらない」
どうやら、ギーシャには効果が見込めなかったようだ。
私はガックリと肩を落とした。
「そっかぁ。落ち着くのに必要なものってルーティンとか? でも時間ないし・・・・・・あ、お守りとか」
「お守り?」
「そう。お守りっていうか、安心出来るアイテム。ちっちゃい子が手放そうとしないぬいぐるみとか毛布とか。これがあれば大丈夫ってものない?」
これも自己暗示っぽいけど、形がある分、拠り所としての役目は果たせるだろう。持ち歩けるサイズなら尚良し。
「何か、今すぐ用意出来るもので、ギーシャが持っていたら安心できるようなものない? あったら言って。ダッシュで持ってくるから」
「安心できるもの・・・・・・」
ギーシャは人差し指の背で唇を押さえ思案顔だ。
思いつかなかったらどうしよう。
とりあえず、甘いものとかギーシャの好きなもの持ってくればいいかな?
そう考えていると、ギーシャが私の顔を見て「あ」と呟いた。
「なになに? 思いついた?」
「ああ」
ギーシャが頷いて、私に指を向けた。
「それ」
「え? これ?」
ギーシャが示したのは、私の頭の両サイドで揺れている、今朝ユリアお姉様に結ってもらった淡いピンクのリボンだった。
0
お気に入りに追加
3,268
あなたにおすすめの小説
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる