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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
張り詰めた糸
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ど、どうしよう・・・・・・っ!
「あわわわわ・・・・・・」
氷の中にすっぽり収まってしまったギーシャの前で、私は意味もなく左右をきょろきょろ見渡した。
当然、どうしてこんな状況になったかの答えなんて落っこちているはずもなく、私はギーシャを見た。
ギーシャ自身も自分の状況が意図したものではないようで、困り顔をして俯いている。
「ギーシャ」
「・・・・・・ん」
「えーと、これって、ギーシャがやっちゃってるんだよね?」
ギーシャがこくりと頷く。
やっぱり。氷魔法はギーシャの得意魔法だし、強力な魔力を持つ人は精神状況によっては本人が意識しないで周りに影響を与えてしまうことがある。
ギーシャは今、正にこの状態だった。
「えっと、この氷消せる?」
「ああ」
ギーシャが頷くと、氷は映像を巻き戻すようにして、音を立てながら消えていった。
「ギーシャ・・・・・・ぐはっ!」
「ミリア!」
が、私がほっとしてギーシャに一歩歩み寄った瞬間、またもや氷の柱が形成され、どんどん隆起していく氷がタイミング悪く私の顎にクリーンヒットしてしまった。
アッパーカットを食らったボクサーのように私は後ろへ倒れ込み、ダウンした。
カンカンカーン! という勝利のゴングが聞こえた気がした。いや、いったいわ!
ギーシャもまさかこうなるとは思っていなかったらしい。
氷が砕け散り、目を丸くしたギーシャが地面に膝をついて、心配そうにこちらを窺っている。
「ミリア、ミリア! すまないっ、まさかこんなことになるなんて──どうして・・・・・・」
心配になって、魔法視を使ってみるとやっぱりギーシャの魔力は安定していない。
ぐにゃぐにゃと蠢いていて、ずっと見ていると酔いそうだからすぐに魔法視を切った。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと綺麗に入りすぎたけど、まぁ大丈夫だから」
まだ、痛みに混乱しているのか、語彙力が低下している。
とりあえず、これ以上ギーシャに動揺を与えるのは不味いと思い、とにかく大丈夫だと何度も繰り返す。
「・・・・・・」
けど、ギーシャのみるみるギーシャの顔色が悪くなっていく。
少し尋常じゃない様子に何か分からないが、とても不味い気がして、私はとにかく何かしなきゃという衝動に駆り立てられる。
えっと、どうしたら──てゆーか、なんか足元寒くない? ──って!
「ぎゃ────!!! ギーシャ────!!!」
それに気づいて、私は慌ててギーシャの両手首を掴んで頭上に持ち上げた。
「あ・・・・・・」
本人も気づいていなかったらしい。
何がどうなっているかというと、ギーシャの腕が凍っている。
指先から肘にかけて厚い氷に覆われてしまい、さっきまで手をついていた地面にも氷は広がっていた。
「氷解! 氷解ー!」
私は慌てて魔法で氷を溶かした。
混乱して呪文も録に唱えずやったけど上手くいったから、メイアーツの血筋と魔力適性に感謝だ。
水滴の一つも残さず、氷を溶かしきったが、今のギーシャを何とかしないと根本的にこれは解決しないだろう。
「えーっと、ギーシャ。どうしてこうなっちゃってるのかわかる?」
ギーシャの手をぎゅっと握り直して、胸元まで下げる。
私の質問にギーシャはふるふると首を横に振った。
「分からない。本番の練習をしようとしたら、急に用意した言葉が飛んで──よく、分からなくなってぼーっとなって、体が痺れて──それで──」
どんどん声がか細くなっていく。
握った手から微弱な震動が伝わってくる。
「ギーシャ、ひょっとして緊張しているの?」
「きん、ちょ・・・・・・?」
ギーシャが瞬きをして、きょとんとする。
「そう。今、すっごくドキドキしていない?」
「どきどき──脈拍が普段より半拍ほど速い気がする」
片手を左胸に当て鼓動の速さを確認したギーシャが答える。
「手も震えているでしょう? ギーシャは今、緊張してるんだよ」
「緊張──どうしたら、緊張はなくなる? 今の状態のままだったら、パーティーに出られない・・・・・・やるべきことを果たせない」
ギーシャはあまり考えてることが顔に出ないから、わかりにくいけど、ギーシャなりに今回のことを考えているようだ。
マリス嬢とリンス嬢の恋愛的思惑と、ギーシャの性質がおかしな科学反応を起こして今回の事態を引き起こしてしまったのは間違いけど、ギーシャも自分で考えて出来る限り責任を取ろうとしているのだろう。
けど、魔力の制御も上手くいっていない今の状況では全てがおじゃんになりかねない。
正直、自業自得だとしても大勢の前で謝罪するなんて、凄まじいストレスだろう。人前に立つのが大の苦手ならギーシャなら尚のこと。
けど、ギーシャは逃げようとはしてないんだから、少しでも緊張を緩和して本番に挑めるようにしてあげなくちゃ。
緊張している時はあれだ、あれ。
私は緊張を解くための定番中の定番である方法をギーシャに教えた。
「ギーシャ、緊張している時はね、人を食べればいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
私の言葉に、ギーシャは固まった。
固まったついでに震えも止まり、代わりに今度はおろおろとし出してしまった。
「ひと? 人? 食べる? え?」
「・・・・・・」
うん──言い方が悪かった!
「あわわわわ・・・・・・」
氷の中にすっぽり収まってしまったギーシャの前で、私は意味もなく左右をきょろきょろ見渡した。
当然、どうしてこんな状況になったかの答えなんて落っこちているはずもなく、私はギーシャを見た。
ギーシャ自身も自分の状況が意図したものではないようで、困り顔をして俯いている。
「ギーシャ」
「・・・・・・ん」
「えーと、これって、ギーシャがやっちゃってるんだよね?」
ギーシャがこくりと頷く。
やっぱり。氷魔法はギーシャの得意魔法だし、強力な魔力を持つ人は精神状況によっては本人が意識しないで周りに影響を与えてしまうことがある。
ギーシャは今、正にこの状態だった。
「えっと、この氷消せる?」
「ああ」
ギーシャが頷くと、氷は映像を巻き戻すようにして、音を立てながら消えていった。
「ギーシャ・・・・・・ぐはっ!」
「ミリア!」
が、私がほっとしてギーシャに一歩歩み寄った瞬間、またもや氷の柱が形成され、どんどん隆起していく氷がタイミング悪く私の顎にクリーンヒットしてしまった。
アッパーカットを食らったボクサーのように私は後ろへ倒れ込み、ダウンした。
カンカンカーン! という勝利のゴングが聞こえた気がした。いや、いったいわ!
ギーシャもまさかこうなるとは思っていなかったらしい。
氷が砕け散り、目を丸くしたギーシャが地面に膝をついて、心配そうにこちらを窺っている。
「ミリア、ミリア! すまないっ、まさかこんなことになるなんて──どうして・・・・・・」
心配になって、魔法視を使ってみるとやっぱりギーシャの魔力は安定していない。
ぐにゃぐにゃと蠢いていて、ずっと見ていると酔いそうだからすぐに魔法視を切った。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと綺麗に入りすぎたけど、まぁ大丈夫だから」
まだ、痛みに混乱しているのか、語彙力が低下している。
とりあえず、これ以上ギーシャに動揺を与えるのは不味いと思い、とにかく大丈夫だと何度も繰り返す。
「・・・・・・」
けど、ギーシャのみるみるギーシャの顔色が悪くなっていく。
少し尋常じゃない様子に何か分からないが、とても不味い気がして、私はとにかく何かしなきゃという衝動に駆り立てられる。
えっと、どうしたら──てゆーか、なんか足元寒くない? ──って!
「ぎゃ────!!! ギーシャ────!!!」
それに気づいて、私は慌ててギーシャの両手首を掴んで頭上に持ち上げた。
「あ・・・・・・」
本人も気づいていなかったらしい。
何がどうなっているかというと、ギーシャの腕が凍っている。
指先から肘にかけて厚い氷に覆われてしまい、さっきまで手をついていた地面にも氷は広がっていた。
「氷解! 氷解ー!」
私は慌てて魔法で氷を溶かした。
混乱して呪文も録に唱えずやったけど上手くいったから、メイアーツの血筋と魔力適性に感謝だ。
水滴の一つも残さず、氷を溶かしきったが、今のギーシャを何とかしないと根本的にこれは解決しないだろう。
「えーっと、ギーシャ。どうしてこうなっちゃってるのかわかる?」
ギーシャの手をぎゅっと握り直して、胸元まで下げる。
私の質問にギーシャはふるふると首を横に振った。
「分からない。本番の練習をしようとしたら、急に用意した言葉が飛んで──よく、分からなくなってぼーっとなって、体が痺れて──それで──」
どんどん声がか細くなっていく。
握った手から微弱な震動が伝わってくる。
「ギーシャ、ひょっとして緊張しているの?」
「きん、ちょ・・・・・・?」
ギーシャが瞬きをして、きょとんとする。
「そう。今、すっごくドキドキしていない?」
「どきどき──脈拍が普段より半拍ほど速い気がする」
片手を左胸に当て鼓動の速さを確認したギーシャが答える。
「手も震えているでしょう? ギーシャは今、緊張してるんだよ」
「緊張──どうしたら、緊張はなくなる? 今の状態のままだったら、パーティーに出られない・・・・・・やるべきことを果たせない」
ギーシャはあまり考えてることが顔に出ないから、わかりにくいけど、ギーシャなりに今回のことを考えているようだ。
マリス嬢とリンス嬢の恋愛的思惑と、ギーシャの性質がおかしな科学反応を起こして今回の事態を引き起こしてしまったのは間違いけど、ギーシャも自分で考えて出来る限り責任を取ろうとしているのだろう。
けど、魔力の制御も上手くいっていない今の状況では全てがおじゃんになりかねない。
正直、自業自得だとしても大勢の前で謝罪するなんて、凄まじいストレスだろう。人前に立つのが大の苦手ならギーシャなら尚のこと。
けど、ギーシャは逃げようとはしてないんだから、少しでも緊張を緩和して本番に挑めるようにしてあげなくちゃ。
緊張している時はあれだ、あれ。
私は緊張を解くための定番中の定番である方法をギーシャに教えた。
「ギーシャ、緊張している時はね、人を食べればいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
私の言葉に、ギーシャは固まった。
固まったついでに震えも止まり、代わりに今度はおろおろとし出してしまった。
「ひと? 人? 食べる? え?」
「・・・・・・」
うん──言い方が悪かった!
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