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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
とある奇策 side:ナルク
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夜の帳が降りた頃。
寝台の上で掛布を腰まで掛けた状態で座り、僕は目を閉じていた。
それでも、瞼の裏には様々な光景が写し出され、耳にはあらゆる音が流れ込む。
この情報量を処理するのは、とても難しいって幼い頃に魔法の先生に言われたけど、体が弱く、自室に籠りがちだった僕は暇潰しに何度もしていたからか慣れてしまった。
夜になっても、街には活気がある。
酒を飲む者、帰路に着く者、これから働き始める者。
昼とでは大分印象も変わる。
そんな中で視える一つの貴族の屋敷。
貴族の家らしく、その敷地面積は広大で、街とは打って変わって、夜の湖のように暗く静かだ。
僕は鳥と猫の目を借りて、そこを視る。
が、巡回している従者がいるくらいで、特に変わった動きはない。
敷地には結界がかけられており、侵入は難しい。
「やっぱり、自分で動けないのはもどかしいなぁ」
そう呟く。
せめて、自身がそこに行けたら、気づかれずに結界をすり抜けることはやれる自信があるが、動物を媒介として、魔力の遠隔操作を行いながら相手に気づかれずに結界内に侵入するというのは難しい。
恐らく、聖魔法団関係の魔法使いも複数いるだろうし、どこかで必ず感づかれるだろう。
その貴族屋敷──ランカータ家への探りはこの方法では難しそうだ。
ならば、新しい手を──と思案に更けようと思ったその時、外の風の流れが変わった。
その理由に気づくと、ついつい口元が綻んでしまう。
「こぉら。全く、相変わらずのお転婆だねぇ。窓はドアじゃないって何度も言ってるだろう?」
「だって、こっちの方が速いから」
そう言って窓から入って来たのは、可愛い息子──アルクだった。
悪戯っ子のように笑いながら頬を掻くアルクを手招き、寝台の側の椅子に座るよう促すと、アルクはそのまま腰を下ろした。
「ミリアに話を聞いてきた」
「ありがとう。僕もミリアが魔法管理局で聴取を受けた分は聞いたんだけどね、昨夜と今朝の件で最初から場に居合わせていたのはあの子だけだから、もう一度確認しておきたくて」
「わざわざ俺に頼まなくても、直接ここに呼べばいいのに」
「パーティーの準備があるからね。こちらも早めに動きたいけど、時間は取らせたくなかったんだよ。通信だと傍受の恐れもあるから」
「ランカータ?」
「・・・・・・まぁ、色々ね」
ランカータ侯爵も既に現状を把握しているだろう。
シャーロットの話によると、今回の事はテロール子爵の独断先行との事だし、今は恐らく秘密裏に進めているであろう計画の隠蔽をしている頃だろうか?
だとすれば、こちらの動向も伺ってくるし、中の悪い他の大臣たちもランカータ侯爵を蹴落とすために情報収集に動いているだろう。
「三大臣の欠点は、あの仲の悪さと自身の思想を絶対に譲らないとこだねぇ」
「父さんも大変だな」
頭を抱えているとアルクが心配そうな顔をするので、僕は笑って見せた。
「大丈夫だよ。本当に大変なのはレヴェルとシャーロットだろうからねぇ。せめて、少しはあの二人の負担を減らしてあげないと」
レヴェルはさっき遠回しにお茶に誘ったし、近いうちにここに来るだろう。その時に多少ぐずっても寝かしつけて、休ませないと。
シャーロットは・・・・・・何か甘いものでも差し入れようかな。
脳内に聖女の職についてから直接会うことはなくなった幼馴染みの顔を浮かべる。
王太子と次期聖女という関係だったため、レヴェルとシャーロットの付き合いは長く、ある時を境によくレヴェルと一緒にいるようになった僕とも付き合いは長い。
今では天幻鳥を介した会話しか出来ないのは少し寂しいね。
「父さんも無理はしないでくれよな。あ、これ、とりあえずこれ、来る時にミリアの話を纏めてみた」
アルクに差し出された紙の束に目を通す。
「うん。シャーロットに教えて貰った通りだね。特にあの一件直後で記憶に混乱が生じていた訳でもなさそう。ありがとう」
「それで、このレイセン王国の『茨の魔王』なんだけど、父さんは分かる?」
「ごめんね。『茨の魔王』については資料が少なくて、考察は難しいんだ。ただ、シャーロットもアルクと似た考察をしていたから、リアルージュ嬢とイクスという子に何かあるのは間違いないね」
一つだけ、嘘をついてしまった。
『茨の魔王』。
その存在には公にされていない事実がある。
今、レイセン王国にいる『茨の魔王』本人ですら知らない真実。
それは明かすべきではないことだ。
とはいえ、それが関係するなら──魔法の神を産み出すという妄言もあながち、冗談ではないのかもしれない。
「ミリアの様子はどうだった?」
今回、我が娘は何故か事件の渦中にいる。
甥との関係の修復に喜んでいた矢先にこれだ。
今まで、ミリアを魔法管理局に関わらせたことはないというのに。
この二日で二つもの大事に巻き込まれるとは。いや、本人が自覚してないだけで、もう一つの厄介事にも足を踏み入れかけてるかもしれないけど。
「疲労はあるみたいだったけど、母さんとユリアがドレス選びするくらいには大丈夫っぽかった」
「そっか」
唯我独尊を地で行く、性格のよく似た妻と長女の顔を浮かべ、思わず苦笑いが溢れる。
あの二人は着飾るのも着飾らせるのも好きだから、僕もよく体調がよくてパーティーに出席出来る時はアリアに着せ替え人形にされている。
次はお花見だろうか? なかなか帰れないから、その時までは体調を崩さないようにしなきゃ。
「でさ、本当によかったの? あっちの件は訊かなくて」
「うん。これ以上ミリアに悩みの種を増やしたくないし、ギーシャにも頼まれちゃったからね」
先日訪れたギーシャに訊かされた話は、正直ランカータ侯爵達の件より困惑する内容だった。
ギーシャ本人の確証が薄いというのもあるけど、あの子は性質上、他人のそういった機微には鋭い子 だ。
そんなあの子がわざわざ僕に相談するってことは、調べておいた方がいいのだろう。
もし、ギーシャの推測が正しければ──。あらゆる想定をし、一番最悪の結果を辿った先の光景を想像し、背筋が震えた。
僕は内心をアルクに悟らせないように言った。
「悪いけれど、もう一つの件を優先に引き続き調査を頼めるかな? もちろん、無理しない範囲でね」
「了解。で、ランカータはどうするの?」
「それなんだよねぇ」
今回の件はテロール子爵を切れば済んでしまう。ランカータ侯爵には今のところ、上司としての監督不行き届きくらいしか攻めいる隙がない。
ランカータ侯爵には今は牽制する他、なさそうだ。
けど。
「んー。ランカータ侯爵もそれなりのリスクを冒しても目的を果たすつもりなら、こちらもそれなりの手段を取らないと。多少、リスクはあってもね」
「父さん? 何、企んでるの?」
大切なのは結果だけど、過程を省くことは出来ない。ならば──
僕はもう一度紙の束に目を通してから、それを魔法で燃やした。
そして、アルクにお願いする。
「アルク、ちょーっと会いたい人がいるんだ。僕がその人と会えるよう、手引きしてくれる?」
レヴェルやシャーロットには悪いけれど、ちょっとだけ独断先行させて貰おう。
上手くいけば、これ以上ないほどの牽制になるだろう。
「え? 誰に?」
僕は笑顔でその人物の名前を答えた。
「──」
すると、アルクは驚きに目を見開く。アリアによく似た瞳が今にも溢れ落ちそうだ。
「は? え? 何で!??」
我ながらかなりの奇抜な手だとは思うし、後でレヴェルが卒倒するかもしれないけど、可愛い子たちのためにも打てる手は打つ。
「もちろん、交渉が無理そうなら直ぐに引き返してね。その時は別の手を打つから」
「いやいやいや! 父さん!?」
アルクで無理なら、レヴェルに止められるのを覚悟で直接出向こう。
どうやら、今は水面下で眠っていた多くのものが目覚め始めているのかもしれない。
ランカータ侯爵の件は氷山の一角にすぎないのではないか?
そんな考えが頭に浮かぶが、今は集められる情報を集めることと、直面している問題を片付けることしか出来ない。
だから──
「明日のパーティー、上手くいくといいねぇ」
娘たちが楽しめますように。
そう、月に願った。
寝台の上で掛布を腰まで掛けた状態で座り、僕は目を閉じていた。
それでも、瞼の裏には様々な光景が写し出され、耳にはあらゆる音が流れ込む。
この情報量を処理するのは、とても難しいって幼い頃に魔法の先生に言われたけど、体が弱く、自室に籠りがちだった僕は暇潰しに何度もしていたからか慣れてしまった。
夜になっても、街には活気がある。
酒を飲む者、帰路に着く者、これから働き始める者。
昼とでは大分印象も変わる。
そんな中で視える一つの貴族の屋敷。
貴族の家らしく、その敷地面積は広大で、街とは打って変わって、夜の湖のように暗く静かだ。
僕は鳥と猫の目を借りて、そこを視る。
が、巡回している従者がいるくらいで、特に変わった動きはない。
敷地には結界がかけられており、侵入は難しい。
「やっぱり、自分で動けないのはもどかしいなぁ」
そう呟く。
せめて、自身がそこに行けたら、気づかれずに結界をすり抜けることはやれる自信があるが、動物を媒介として、魔力の遠隔操作を行いながら相手に気づかれずに結界内に侵入するというのは難しい。
恐らく、聖魔法団関係の魔法使いも複数いるだろうし、どこかで必ず感づかれるだろう。
その貴族屋敷──ランカータ家への探りはこの方法では難しそうだ。
ならば、新しい手を──と思案に更けようと思ったその時、外の風の流れが変わった。
その理由に気づくと、ついつい口元が綻んでしまう。
「こぉら。全く、相変わらずのお転婆だねぇ。窓はドアじゃないって何度も言ってるだろう?」
「だって、こっちの方が速いから」
そう言って窓から入って来たのは、可愛い息子──アルクだった。
悪戯っ子のように笑いながら頬を掻くアルクを手招き、寝台の側の椅子に座るよう促すと、アルクはそのまま腰を下ろした。
「ミリアに話を聞いてきた」
「ありがとう。僕もミリアが魔法管理局で聴取を受けた分は聞いたんだけどね、昨夜と今朝の件で最初から場に居合わせていたのはあの子だけだから、もう一度確認しておきたくて」
「わざわざ俺に頼まなくても、直接ここに呼べばいいのに」
「パーティーの準備があるからね。こちらも早めに動きたいけど、時間は取らせたくなかったんだよ。通信だと傍受の恐れもあるから」
「ランカータ?」
「・・・・・・まぁ、色々ね」
ランカータ侯爵も既に現状を把握しているだろう。
シャーロットの話によると、今回の事はテロール子爵の独断先行との事だし、今は恐らく秘密裏に進めているであろう計画の隠蔽をしている頃だろうか?
だとすれば、こちらの動向も伺ってくるし、中の悪い他の大臣たちもランカータ侯爵を蹴落とすために情報収集に動いているだろう。
「三大臣の欠点は、あの仲の悪さと自身の思想を絶対に譲らないとこだねぇ」
「父さんも大変だな」
頭を抱えているとアルクが心配そうな顔をするので、僕は笑って見せた。
「大丈夫だよ。本当に大変なのはレヴェルとシャーロットだろうからねぇ。せめて、少しはあの二人の負担を減らしてあげないと」
レヴェルはさっき遠回しにお茶に誘ったし、近いうちにここに来るだろう。その時に多少ぐずっても寝かしつけて、休ませないと。
シャーロットは・・・・・・何か甘いものでも差し入れようかな。
脳内に聖女の職についてから直接会うことはなくなった幼馴染みの顔を浮かべる。
王太子と次期聖女という関係だったため、レヴェルとシャーロットの付き合いは長く、ある時を境によくレヴェルと一緒にいるようになった僕とも付き合いは長い。
今では天幻鳥を介した会話しか出来ないのは少し寂しいね。
「父さんも無理はしないでくれよな。あ、これ、とりあえずこれ、来る時にミリアの話を纏めてみた」
アルクに差し出された紙の束に目を通す。
「うん。シャーロットに教えて貰った通りだね。特にあの一件直後で記憶に混乱が生じていた訳でもなさそう。ありがとう」
「それで、このレイセン王国の『茨の魔王』なんだけど、父さんは分かる?」
「ごめんね。『茨の魔王』については資料が少なくて、考察は難しいんだ。ただ、シャーロットもアルクと似た考察をしていたから、リアルージュ嬢とイクスという子に何かあるのは間違いないね」
一つだけ、嘘をついてしまった。
『茨の魔王』。
その存在には公にされていない事実がある。
今、レイセン王国にいる『茨の魔王』本人ですら知らない真実。
それは明かすべきではないことだ。
とはいえ、それが関係するなら──魔法の神を産み出すという妄言もあながち、冗談ではないのかもしれない。
「ミリアの様子はどうだった?」
今回、我が娘は何故か事件の渦中にいる。
甥との関係の修復に喜んでいた矢先にこれだ。
今まで、ミリアを魔法管理局に関わらせたことはないというのに。
この二日で二つもの大事に巻き込まれるとは。いや、本人が自覚してないだけで、もう一つの厄介事にも足を踏み入れかけてるかもしれないけど。
「疲労はあるみたいだったけど、母さんとユリアがドレス選びするくらいには大丈夫っぽかった」
「そっか」
唯我独尊を地で行く、性格のよく似た妻と長女の顔を浮かべ、思わず苦笑いが溢れる。
あの二人は着飾るのも着飾らせるのも好きだから、僕もよく体調がよくてパーティーに出席出来る時はアリアに着せ替え人形にされている。
次はお花見だろうか? なかなか帰れないから、その時までは体調を崩さないようにしなきゃ。
「でさ、本当によかったの? あっちの件は訊かなくて」
「うん。これ以上ミリアに悩みの種を増やしたくないし、ギーシャにも頼まれちゃったからね」
先日訪れたギーシャに訊かされた話は、正直ランカータ侯爵達の件より困惑する内容だった。
ギーシャ本人の確証が薄いというのもあるけど、あの子は性質上、他人のそういった機微には鋭い子 だ。
そんなあの子がわざわざ僕に相談するってことは、調べておいた方がいいのだろう。
もし、ギーシャの推測が正しければ──。あらゆる想定をし、一番最悪の結果を辿った先の光景を想像し、背筋が震えた。
僕は内心をアルクに悟らせないように言った。
「悪いけれど、もう一つの件を優先に引き続き調査を頼めるかな? もちろん、無理しない範囲でね」
「了解。で、ランカータはどうするの?」
「それなんだよねぇ」
今回の件はテロール子爵を切れば済んでしまう。ランカータ侯爵には今のところ、上司としての監督不行き届きくらいしか攻めいる隙がない。
ランカータ侯爵には今は牽制する他、なさそうだ。
けど。
「んー。ランカータ侯爵もそれなりのリスクを冒しても目的を果たすつもりなら、こちらもそれなりの手段を取らないと。多少、リスクはあってもね」
「父さん? 何、企んでるの?」
大切なのは結果だけど、過程を省くことは出来ない。ならば──
僕はもう一度紙の束に目を通してから、それを魔法で燃やした。
そして、アルクにお願いする。
「アルク、ちょーっと会いたい人がいるんだ。僕がその人と会えるよう、手引きしてくれる?」
レヴェルやシャーロットには悪いけれど、ちょっとだけ独断先行させて貰おう。
上手くいけば、これ以上ないほどの牽制になるだろう。
「え? 誰に?」
僕は笑顔でその人物の名前を答えた。
「──」
すると、アルクは驚きに目を見開く。アリアによく似た瞳が今にも溢れ落ちそうだ。
「は? え? 何で!??」
我ながらかなりの奇抜な手だとは思うし、後でレヴェルが卒倒するかもしれないけど、可愛い子たちのためにも打てる手は打つ。
「もちろん、交渉が無理そうなら直ぐに引き返してね。その時は別の手を打つから」
「いやいやいや! 父さん!?」
アルクで無理なら、レヴェルに止められるのを覚悟で直接出向こう。
どうやら、今は水面下で眠っていた多くのものが目覚め始めているのかもしれない。
ランカータ侯爵の件は氷山の一角にすぎないのではないか?
そんな考えが頭に浮かぶが、今は集められる情報を集めることと、直面している問題を片付けることしか出来ない。
だから──
「明日のパーティー、上手くいくといいねぇ」
娘たちが楽しめますように。
そう、月に願った。
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