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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

私<次兄<長男<長女<母

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 速打ちの炎姫。
 なんて、呼ばれていたらしい。

 誰がって、我々のお母様が。

「ほらほら、そこは身を翻すだけで簡単に避けられたでしょう。飛んだり跳ねたり。ウサギみたいで愛らしいけど、結界張って防御も出来ないの?」

「で、きた、ら、やって、ますよ!」

 止まない攻撃をギリギリで避けながら、アルクお兄様が言う。

「わー・・・・・・」
「相変わらず、凄いわねー」

 延々と小さな火の玉を無数に放つお母様とそれを避け続けるアルクお兄様を見て、私とユリアお姉様は感心した。

「まぁ、結界を張らないお兄様の判断は正しいわね」
「あの火の玉、痛くも熱くもないみたいですけど、触れた魔法を無効化出来ますもんね」

 事情を知らない人が見たら、何事だと言わんばかりの光景だけど、我が家では時折あることだ。
 メイアーツ家は、かつて大陸を滅ぼしかけた魔物を退治したことで公爵位を与えられたそうで、そのためか武闘派寄りの家系である。
 そのため、跡取りは当主直々に鍛えられるという訳。

 アルクお兄様は身体能力が高くて、魔法も得意だから、私くらいの歳にはお母様から全てを学び終えていたらしい。
 それからはお母様は実践志向で、こうやって不意をついてアルクお兄様を攻撃するようになった。
 勿論、怪我などはしない安全な方法で。さっき、魔法が顔に直撃していたけれど、アルクお兄様の顔には傷一つない。スピードがあるためか多少の衝撃はあるらしいが、殺傷能力のない魔法だ。

「あら、私の無効化魔法の魔力より強い魔力を込めた結界なら、防げるでしょう」
「無茶言わないでくださいよ」

 うーん、流石のアルクお兄様でも、お母様の魔力にはまだ及ばないらしい。

「いつ見ても母上は凄いね。無効化魔法を使った炎弾なんて、普通、あんなにポンポン撃てないのに」
「あ、エルクお兄様、お帰りなさい。良案は浮かびました?」
「うん。絶対に弄れない心臓部に攻撃魔法を使おうとしたら自壊する魔法式を組み込むことにしたよ。でも、その分大きくて野暮ったくなっちゃうかも。あ、ユリア姉さん、デザイン考えて貰っていい?」
「勿論。喜んで」
「私にも出来ることありますか?」
「うん。ミリアは一度これを使ってるから、改造したら、試して比較して欲しいな」
「はい!」

「おーい、お前ら、そろそろ母さん止めてー」

 ガトリングみたいになってきたお母様の攻撃に、アルクお兄様が白旗を上げる。

「まだまだ、これから! ほらほら、ちゃあんと避けなさい、アルク?」

 お母様は楽しいのか、単にハイになっているのか、絶好調で今まで右手だけで魔法陣を展開して撃っていたのに、更に左手で魔法陣をもう一つ。つまり、二丁拳銃──いや、この場合は二挺ガトリングガン? 要は攻撃が二倍になった。

「エルクお兄様、ユリアお姉様、私お腹すきました」

 正直なところ、大分疲れてて面倒だったので、お姉様たちにお母様を止めてもらうよう仕向けてみる。

「それもそうねぇ。アルクお兄様の動きは綺麗で見てて楽しいけど、そろそろ飽きてきたし。エルク、止めてきて」
「結局、僕に振るんだね」

 エルクお兄様はやれやれと、肩を竦めてからお母様に声をかける。

「母様、そろそろ切り上げたらいかがです? 食後、姉さんがミリアのドレス選びをするようですよ」
「ちょっ!? エルクお兄様!?」

 エルクお兄様の言葉に、お母様の視線がアルクお兄様から私に移った。
 あ、完全にロックオンされた。

「あらあらあら、ドレス? そうね、そうだわ。卒業パーティーのを新しく見立てないとだものねぇ。ふふっ。だったら、アルクと遊ぶのは今日はここまでにしましょうか。本当なら仕立て屋を呼んで一か作ってもらうのだけど、時間的に難しいものね」

 顔の横で手を組んで、とても楽しげに笑うお母様。
 隣のユリアお姉様もこれにはニッコリ──って、結局こうなるんかーい!
 面倒事を上に押し付けようとしたら、倍になってやり返された気分だ。
 よし、諦めよう。ユリアお姉様とお母様が結束したら勝てない。間違いなく、メイアーツ家コンビはこの二人だもん。

「エルクおにーさま・・・・・・」

 恨みがましく、エルクお兄様を見遣ると、にっこりと微笑まれた。

「うん? 僕もお腹空いたから」

 この遠慮も容赦もないところ、兄妹って感じがするなぁ。
 前世では一人っ子だったから、転生したばかりの頃はこういうのが新鮮だった。
 当時は精神年齢的には私の方が年上だったけど、すっかり甘やかされて、ミリアの年齢相応に精神年齢が退行してしまった気さえする。
 まぁ、これはこれで心地良いから全然問題ないけど。

「さぁさぁ、そうと決まれば食事にしましょう。そうそう、それからシーエンス家の庭園ってどんな風だったか訊かせてちょうだい。あそこのおうちの庭は素敵だって訊くけど、パーティーとかを開かないから目にする機会がなくて気になっていたのよね」

「うぅ・・・・・・アルクお兄様」

 最後の望みとばかりにアルクお兄様に目で助けを求める。
 アルクお兄様だって、私に話があるんですから、助けてくれますよね?
 そんな切実な眼差しを向けられたアルクお兄様は謝るように手刀の形にした掌を顔の前に掲げた。
 そんなアルクお兄様の顔には「任せとけ!」という頼りになる言葉ではなく、「善処する」という言葉が書かれていたあたり、我が家での絶対的なパワーバランスが伺えた。
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