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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
オレンジジュースとリンゴジュース
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厨房。
「お邪魔しまーす」
「しまーす」
厨房の中では料理人の人たちが食材の確認や、道具の手入れをしていたので、その後ろを邪魔にならないように忍び足で通った。
こっちがついぺこぺこしながら歩いてるものだから、料理人さんたちもぺこぺこと頭を下げ返してくれた。
明日のパーティーに使うものは奥の調理台と冷蔵庫に纏められていた。
私は棚からグラスを取り出し、冷蔵庫を開けてキリくんに訊ねた。
「キリくん、何飲みたい?」
「うーんと」
キリくんが脇から冷蔵庫の中を覗いて思案する。
「リンゴ、ブドウ、オレンジ、モモ──いっぱいありますね。じゃあ、リンゴで」
「オーケー。私も何か飲みたいな。あ、オレンジ。オレンジにしよう」
直感的にオレンジが飲みたくなったので、リンゴジュースとオレンジジュースが入ったボトルをそれぞれ取り出してグラスに注いだ。
「ぷはぁー。働いた後の冷たい飲み物は最高ですね」
「そうだねぇ」
冷たいジュースでリフレッシュ。甘い。冷たい。染み渡る。この一杯のために生きている。
「冷や汗かいて、温泉で汗かいたから、今度はもうひと頑張りで汗かこう」
「ミリア先輩って、変ですね!」
・・・・・・んん? 今さりげなくディスられた?
キャットファイトしてたマリス嬢に似てると言われた時よりもぐさりと来たぞ。あれは結局理由違ったけど。
「キリくん? 何がどうして私が変という結論を突如として出したのかな?」
「だって、今やってるパーティー準備って王子様たちが悪いことしたのが原因なんでしょ? ミリア先輩は被害者って誰かが言ってました。被害者って、悪いことされた人のことでしょ? なのに、悪いことした人たちのために頑張るなんて、ヘンテコですよ」
「ああ、なるほど。そういうことね」
よかった! 私が自分でも気づかず奇行に走ってたわけじゃなかった。中身二歳児のキリくんに変って言わせるなんてどんな妙ちくりんなことをしたのかとどっきりしたけど、特に問題なかった。
納得した私はもう一口オレンジジュースを含んだ。この甘さ、果汁百パーセントではないな。酸っぱさとか苦味とか感じないし。
「うーん。でも、私にも打算あるからなぁ」
「ミリア先輩、悪巧み?」
「悪巧みってほどじゃないけどね。距離感を元通りに調整するために近くにいたいって感じ」
「距離感? 誰との?」
「ギーシャ」
「王子様?」
キリくんが半分に減ったグラスを調理台に置いて聞き返してきた。
「うん」
「そういえば、ミリア先輩、王子様とよく話してるね。前はあまり見なかったけど」
「キリくんが入学する前に、距離が出来たというか、作ったというか、あまり話さなくなったから」
「ふーん。でも、また近くなったんですか?」
「そんな感じかなぁ」
私とギーシャの距離が出来たのはギルハード様がギーシャの騎士になるよりも前のことだから、キリくんが知らなくても無理はない。キリくんがギルハード様に引き取られたのはその後だもんね。
「ミリア先輩、おかわりいいですか?」
「後一杯だけね」
「わーい!」
キリくんにおかわりを所望されたので、もう一杯リンゴジュースを注いだ。
「ありがとうございます」
「キリくん、ジュース好きだね」
「はい。甘いものは大好きです」
幸せそうにリンゴジュースをごくごく飲むキリくん。
「ふぁ~。あ、ミリア先輩。さっき飲んだあのしょっぱいやつ」
「ミソスープ?」
「はい。あれも美味しかったですよ。動いた後には向きませんけど」
「そっかそっか。作った甲斐あるなぁ」
「えっ。あれ、ミリア先輩が作ったんですか?」
キリくんが意外そうに声を上げた。
「そうだけど。そんなに驚く?」
「貴族のお嬢様は料理とかしないって訊きました」
「あー、まぁ、普段はしないね。今日はたまたま」
料理人の人が作った方が美味しいしね。私も時々しかしない。他にも怪我や火傷とかの心配もあるし。
「あれ、美味しかったです。ミソスープ? ごちそうさまでした」
「はい。お粗末様でした」
「えっへん! ちゃんとごちそうさま言いましたよ。兄騎士様の言いつけを守りました!」
ちゃんと両手を合わせてごちそうさまをしたキリくん。
これは──
「・・・・・・くっ、あざと可愛い!」
「ミリア先輩?」
無邪気な笑みを浮かべるキリくんを勢いで抱き締めてしまった。
あー、可愛い。可愛い。
ぎゅうぎゅうしてキリくんの頭を撫でる。
鎖骨にキリくんの髪が当たって少しくすぐったい。こうして抱き締めると本当に小柄だなー。
「よしよ~し」
「ふふっ」
テンションに任せて撫で続けていると、キリくんが甘えるように額を擦り付けてきた。
なんていうか、アニマルセラピーに近いものがある。うんうん、今、ジェットコースター乗ってるような状況だから癒しは大事。
可愛いは癒される。可愛いは正義。
「はわ~」
あ、ヤバい。今、顔が溶けてる。キリくんに見られなくてよかった。
「お邪魔しまーす」
「しまーす」
厨房の中では料理人の人たちが食材の確認や、道具の手入れをしていたので、その後ろを邪魔にならないように忍び足で通った。
こっちがついぺこぺこしながら歩いてるものだから、料理人さんたちもぺこぺこと頭を下げ返してくれた。
明日のパーティーに使うものは奥の調理台と冷蔵庫に纏められていた。
私は棚からグラスを取り出し、冷蔵庫を開けてキリくんに訊ねた。
「キリくん、何飲みたい?」
「うーんと」
キリくんが脇から冷蔵庫の中を覗いて思案する。
「リンゴ、ブドウ、オレンジ、モモ──いっぱいありますね。じゃあ、リンゴで」
「オーケー。私も何か飲みたいな。あ、オレンジ。オレンジにしよう」
直感的にオレンジが飲みたくなったので、リンゴジュースとオレンジジュースが入ったボトルをそれぞれ取り出してグラスに注いだ。
「ぷはぁー。働いた後の冷たい飲み物は最高ですね」
「そうだねぇ」
冷たいジュースでリフレッシュ。甘い。冷たい。染み渡る。この一杯のために生きている。
「冷や汗かいて、温泉で汗かいたから、今度はもうひと頑張りで汗かこう」
「ミリア先輩って、変ですね!」
・・・・・・んん? 今さりげなくディスられた?
キャットファイトしてたマリス嬢に似てると言われた時よりもぐさりと来たぞ。あれは結局理由違ったけど。
「キリくん? 何がどうして私が変という結論を突如として出したのかな?」
「だって、今やってるパーティー準備って王子様たちが悪いことしたのが原因なんでしょ? ミリア先輩は被害者って誰かが言ってました。被害者って、悪いことされた人のことでしょ? なのに、悪いことした人たちのために頑張るなんて、ヘンテコですよ」
「ああ、なるほど。そういうことね」
よかった! 私が自分でも気づかず奇行に走ってたわけじゃなかった。中身二歳児のキリくんに変って言わせるなんてどんな妙ちくりんなことをしたのかとどっきりしたけど、特に問題なかった。
納得した私はもう一口オレンジジュースを含んだ。この甘さ、果汁百パーセントではないな。酸っぱさとか苦味とか感じないし。
「うーん。でも、私にも打算あるからなぁ」
「ミリア先輩、悪巧み?」
「悪巧みってほどじゃないけどね。距離感を元通りに調整するために近くにいたいって感じ」
「距離感? 誰との?」
「ギーシャ」
「王子様?」
キリくんが半分に減ったグラスを調理台に置いて聞き返してきた。
「うん」
「そういえば、ミリア先輩、王子様とよく話してるね。前はあまり見なかったけど」
「キリくんが入学する前に、距離が出来たというか、作ったというか、あまり話さなくなったから」
「ふーん。でも、また近くなったんですか?」
「そんな感じかなぁ」
私とギーシャの距離が出来たのはギルハード様がギーシャの騎士になるよりも前のことだから、キリくんが知らなくても無理はない。キリくんがギルハード様に引き取られたのはその後だもんね。
「ミリア先輩、おかわりいいですか?」
「後一杯だけね」
「わーい!」
キリくんにおかわりを所望されたので、もう一杯リンゴジュースを注いだ。
「ありがとうございます」
「キリくん、ジュース好きだね」
「はい。甘いものは大好きです」
幸せそうにリンゴジュースをごくごく飲むキリくん。
「ふぁ~。あ、ミリア先輩。さっき飲んだあのしょっぱいやつ」
「ミソスープ?」
「はい。あれも美味しかったですよ。動いた後には向きませんけど」
「そっかそっか。作った甲斐あるなぁ」
「えっ。あれ、ミリア先輩が作ったんですか?」
キリくんが意外そうに声を上げた。
「そうだけど。そんなに驚く?」
「貴族のお嬢様は料理とかしないって訊きました」
「あー、まぁ、普段はしないね。今日はたまたま」
料理人の人が作った方が美味しいしね。私も時々しかしない。他にも怪我や火傷とかの心配もあるし。
「あれ、美味しかったです。ミソスープ? ごちそうさまでした」
「はい。お粗末様でした」
「えっへん! ちゃんとごちそうさま言いましたよ。兄騎士様の言いつけを守りました!」
ちゃんと両手を合わせてごちそうさまをしたキリくん。
これは──
「・・・・・・くっ、あざと可愛い!」
「ミリア先輩?」
無邪気な笑みを浮かべるキリくんを勢いで抱き締めてしまった。
あー、可愛い。可愛い。
ぎゅうぎゅうしてキリくんの頭を撫でる。
鎖骨にキリくんの髪が当たって少しくすぐったい。こうして抱き締めると本当に小柄だなー。
「よしよ~し」
「ふふっ」
テンションに任せて撫で続けていると、キリくんが甘えるように額を擦り付けてきた。
なんていうか、アニマルセラピーに近いものがある。うんうん、今、ジェットコースター乗ってるような状況だから癒しは大事。
可愛いは癒される。可愛いは正義。
「はわ~」
あ、ヤバい。今、顔が溶けてる。キリくんに見られなくてよかった。
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