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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

無償の探求心

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「ああ、それは多分、今朝捕縛したイクスって子が現れたからでしょうね」
「イクス?」

 初めて聞く名前に、レヴェルは聞き返した。
 イクスはランカータが囲っていた魔法使いのため、シャーロットも今回の件が起きるまでその存在をはっきりとは把握出来てはいなかった。

「闇魔法の優れた使い手よ。身元は今洗ってる」
「その闇魔法の使い手と白の魔力の使い手で揃ったからといって、何故源泉に近づこうという発想になるんだ」
「それも取り調べ中なんだけど、なかなか要領を得なくてね。これは私の推測なんだけど、闇魔法と白の魔力って源泉の魔力に近いでしょ? 同格の二つの魔力を呼応させて、源泉と共鳴反応を起こそうとしてるんじゃないかしら。テロールはレイセンの茨の魔王って言ってたし」
「レイセンの茨の魔王? 馬鹿馬鹿しい。あれは人間の咎の産物だ。純粋な魔力である源泉から魔王は生まれない」

 きっぱりと断言したレヴェルは、ばさりと手にしていた書類を机に乱雑に置いた。

「まぁね。だから、厳密には茨の魔王とは違った存在なんだろうけど・・・・・・レイセンで茨の魔王が生まれたら、それこそ魔法そのものが変質してしまうし」
「そもそも、何故奴らは源泉に近づきたがる? 明確な目的は?」
「ないでしょう。源泉の力を引っ張り出せたところで、レイセンの法ではその力を振るえない。偉業ではあっても、何も残りはしないわ。けれど、探求派はそれでいいんでしょうね。完璧に自己完結の世界で生きているから」

 ただ、そこに辿り着きたいから。
 山頂に至ろうとする登山家のように。ただ、その先にある景色と達成感を報酬に険しい山に挑むように、探求派は源泉に近づこうとする。

「自己完結だか、自己陶酔だか知らんが、道楽をいちいち咎めはしない。だが、実害をもたらすなら話は別だ。今回は他ならないミリアも巻き込まれた」
「普通に不敬罪というか、傷害罪というか──そもそも、魔法で人を攻撃しないという国の指針に反してるし──けど、ランカータ」

 ランカータの名に、レヴェルとベルクは渋い顔を示した。
 魔法管理局を支える三本の柱の一つであるランカータを潰すのは難しい。

「テロールには罪を償わせるし、ランカータにもなんらかの処罰は与えるわ。ただ、今ランカータを失脚させる訳にはいかない。分かってると思うけど、大臣一人でも欠いたらうちのシステム終わるからね? 源泉管理以外は丸投げしてるから」

 シャーロットは年中、聖室に籠って源泉の監視を行い、混ざりものの発見と排除に務めている。その作業は尋常でないほどハードであり、おちおち眠ることも出来ない。運が良くて、一月に一日眠れるかどうかという状態だ。それが聖女を就任した日からずっと続いている。そんな最優先の仕事をこなしながら別の仕事をするのはあまりにも負担が大きい。
 だからこそ、それ以外の魔法管理局の仕事は三大臣たちを中心とした構成メンバーが回しているのだ。
 魔法管理局の心臓は聖女だが、三大臣は大切な歯車。歯車が一つでも外れれば、瞬時に機能が停止して混乱が起きる。

「極端な魔法崇拝者であることを除けば、ランカータは優秀だもの。コネやはったりでなれるほど、大臣のポストは安くないでしょ」
「分かった。だが、報告はもっと話が纏まってからにしろ」
「そうしたかったけど、私が報告する前にミリアちゃんのこと貴女が知ったら、それこそ洒落にならないでしょ」

 シャーロットの言葉に、だから不明点がまだ多い中でレヴェルと話をしに来たのかとベルクは心の中で思った。
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