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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

危機管理

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「大豆の話じゃないですよ! 大事な話です!」

 コクさんはむすっとした表情でこちらを見下ろしてくる。

「しゃきしゃきもやし♪ ネバネバ納豆♪」

 そして、ロイドさんはお構いなしに陽気に大豆の歌を歌い続けている。だからやめてー、

「メイアーツ家のご令嬢が護衛もなしに市井を歩くなど!」
「一応、一人って訳じゃないですよ? 外に御者さんいますし」
「今、ここで一人という時点で問題です」
「でも、後ろを着いてこられるのって苦手なんです」

 お散歩とかで後ろにぴったりとひっつかれて歩きたくはないし、何より圧を感じるんだよ。圧を。
 ドラマでSPに護衛されるお偉いさんになった気分だ。いや、一応偉いんだけど。でも、それって血筋や家柄だし、私自身が偉いことしたって訳じゃないから実感湧かない。

「苦手だからって、護衛をつけないなんて」
「これでも自衛手段はありますので。それに、身分が高くても護衛着けない人も結構いますよ」

 レイセンは王家や古参の貴族ほど魔力が強い。昔からこの地にいて、源泉の影響を受けているからだ。
 だから、爵位が高くても護衛をつけない人は結構いる。ギーシャも護衛に専任騎士のギルハード様がいらっしゃるけど、見たところ別行動もちょくちょくしているみたいだし。

「ですが、絶対に安全とは言えません。そもそも、魔力の高い人間は同じ魔力持ちよりも他の──例えば呪術師などを差し向けられるそうです。レイセンは治安の整った国ですし、王都の犯罪率は一パーセントにも満たないですが、油断はできません」
「うっ!」

 呪術師の名前を出されてはぐうの音も出ない。一昨日、呪術にかかったばかりだしね。
 そもそも、呪術師なんて滅多に見かけないし、闇魔法の使い手も同じくらい少ない。だとしたら、その二人が揃ってるってかなりのレアアースだ。呪術と闇魔法。二つを揃えるなんて、恐るべし。ランカータ。

「それに御身に何かあったら、中枢が揺らぎかねません」
「そんな大袈裟なー」
「大袈裟なものですか。小石爆発事件のようなとんでもない事態になりかねませんよ」
「う!?」

 それを想像して、真っ青になった。
 小石爆発事件とは、王様がまだ王子様だった頃に起こした事件。端的に言えば、王様がキレて、拳サイズにも満たない小石を思いっきり爆発したから。つまり、まんまな事件名。その動機は──お父様がその小石で転けたから。

「いや、でもそれは陛下が青年期の頃のお話ですし、一応、陛下も私の一人歩きは容認してますよ」

 だって、王様「ミリアは好きにしていなさい。全てはこちらで取り計らうから」って。ん? あれ? 取り計らうってなんだ? え!? まさか監視とかされてないよね!?
 あの王様ならやりかねないと、思わずキョロキョロと挙動不審になってしまった。
 でも、あの人なら普通に遠見の魔法とかで覗かれかねないしな。いや、そこまで暇じゃないか。

 と思いつつも、不安は疑惑を拭いきれない私であった。
 しかし、小石爆発事件。それを考えると、ますます一昨日の件が王様の耳に入るのがヤバい気がしてきた。

 どうか、お父様と聖女様が上手くやってくれますように。
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