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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

とあるヤバい御仁

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 エリックさんの方からエーデルグランの話を振ってくるなんて、なんて都合のいい。
 いや、待て待て私。
 どうしてエリックさんはそんな話を?

「レイセンと帝国の関係が気になるのですか?」
「まあな。ロイドの話だとレイセンには結構長く滞在する予定みたいだから、色々調べとこうと思って。公爵令嬢ならそういうのも耳に入ってるんじゃないか?」
「ああ、そうだったんですね」

 来たばかりの土地で情報収集するのは普通だもんね。
 特に、エリックさんたちみたいな旅をしている人たちにとってはいざこざとかに巻き込まれるのは避けたいだろうし。帝国のちょっとアレな国風を知っているのなら、帝国の動きを気にして当然だろう。

「レイセンと帝国の関係は今のところ、何もないですね」
「何も?」
「はい。帝国の王女であった第一夫人も大分前に病没されましたし。式典で帝国の方を招待するとかはありますけど、これと言った繋がりはないですね。強いて挙げるなら、テルファ様と王女様の婚約くらいでしょうか?」

 第一夫人は帝国王女。この不文律により、王太子であるテルファ様の婚約者はテルファ様が次期国王として決定した時に決まった。
 とはいえ、王女様は帝国にいるから、普段の交流は文通くらいってお兄様が言ってたけど。ま、婚約者と結婚するまでほとんど顔を合わせないっていうのは貴族社会では珍しいことでもない。
 私は婚約者とかいないからわかんないけど。

「ふーん。じゃ、今のところ安全?」
「はい。今の皇帝はエーデルグランの歴代の中では穏健な方だと窺ってますし」
「みたいだな。今の皇帝になってから近隣の国との争いも減ってるし」
「ただ──次の皇帝の代はどうなるか分かりませんね」
「次のって──帝国の王太子のことか? ヤバいの?」
「ヤバいですね」
「どれくらい?」
「えっと・・・・・・」

 あの王太子のヤバさを訊かれて、どう表現したらいいか言葉に詰まった。
 えぇ。あれを説明するの?
 なんだろ?
 アルクお兄様のヤバいところと、テルファ様の腹の底が見えないところと、怒り狂った王様の暴走っぷりを煮詰めて凝縮したような──じゃ、伝わんないよなぁ。

「えーと、壺があるじゃないですか」
「うん」
「その壺にサソリを入れます」
「うんうん」
「それから毒蛇とオオムカデも入れて蓋をします」
「ほうほう」
「あの、何の話ですか?」

 アリスさんが私の説明に困惑の表情を浮かべる。エリックさんは理解できているのか、うんうんと真面目に頷いている。
 すごいなー、エリックさん。私も自分で何言ってるか分かんないのに。

「で、それを嫌いな人にその人が大好きな人の名前で送ります」
「うわ、ひっどい」
「で、開けたら壺が爆発します」
「サソリや毒蛇の行はなんだったんですか!?」

 アリスさんの鋭い指摘をいただくが、私も何言ってるか分かんないからね。でも、こんな感じの人だ。

「そりゃ、ヤバいな。わかった」
「説明した私が言うのもなんですけど、よく分かりましたね」
「つまり、危険生物を入れた壺を相手が油断する人物の名前で贈る。開けたら爆発。もし不発に終わっても、中の危険生物による攻撃。 もし、生き物が死んでてもそれはそれで精神的なダメージを与えられる。更に爆発の威力が足りなかった場合も入れ物を壺にすることで、破片でさらに追加攻撃・・・・・・恐ろしいな。あ、もしかして、蠱毒とかいうやつも入ってるのか!?」
「すみません、そこまで考えてませんでした。けど、大体合ってます」
「合ってるんですか・・・・・・」

 私のめちゃくちゃな説明をエリックさんは真面目に解説してくれたようで、ごくりを神妙な面立ちで唾を飲み込んだ。
 でも、あの質の悪さと、周到さと、執念深さには当てはまると思う。

「ここにプラスでヤバい情報が」
「まだあるのか」
「ええ。実は──私、帝国の王太子とは三回しか会ったことがありません」

 にも関わらず、こんな印象である。

「「それは、ヤバいな(ですね)」」

 この一言に、エリックさんとアリスさんは口を揃えて言った。
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