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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

リリーの感想

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「レイセンの第二王妃様は芸術家として有名ですよね」
「はい。名前を出せばまず、王妃より芸術家という言葉が出てくるでしょうね」

 王様の二番目の奥方である第二夫人は一言で言えば、天才芸術家。
 寝食そっちのけで部屋に籠って作品の製作をしている方だ。
 王宮に飾られている絵画や石像、改築された時計塔のステンドグラスなど、第二夫人の作品は多くあり、国外でもすごい人気のらしい。
 第二夫人は大変気紛れな方で、依頼を受けたりはしないけど、完成した作品に執着もなく、簡単に手放すから買い取りたいという王侯貴族の使者が国内外問わず殺到し、今は専門の窓口が開設されているほどだ。
 元々は他国の穏健派だそこそこ有力な貴族のお姫様だったらしいが、その頃から作品製作に勤しんでおり、母国では昔からファンがいたという。
 そのため、表にはほとんど出てこないけど、第二夫人の作品を他国の王妃様の誕生日にプレゼントしたら、その後の外交がスムーズになったとか。表舞台に全く出ずに結果的に王様の手助けをしているのはすごいと思う。
 なんだかんだで、王妃様の中で唯一の二児の母だし。王様との関係も悪くない。芸術一筋の第二夫人と仕事優先のブラコン国王。夫婦としてどうなのと思わないこともないけど、仲が悪いよりはいいか。

「私、フローラの王立美術館に展示されている花冠の乙女の絵がすごい好きで、乙女が着ている服と同じ布を買ってしまいました」
「ああ、アイリス柄の布ですね」

 第二夫人が描いた絵の女性が来ていた服の柄は、人気が出るからなぁ。夫人オリジナルの意匠とかもあるし。

「ええ。それで自分用のスカーフとリリーのワンピースを仕立てたんです」
「わぁ、お揃いなんですね」
「リシー、お裁縫上手なの」

 リリーちゃんがててっと寄ってきて、赤地に白い花のスカートの裾を摘まんでくるりと回った。

「これもね、リシーの手作り」

 猫の爪の人たちはお風呂から出て服を変えていたけど、私は着替えなんて用意してなかったから、お風呂に入る前にアリスさんが洗濯をしてくれて、入浴中に熱と風を操る魔法道具で乾かしてくれた。

「リシーさん、刺繍もお上手なんですね」
「針仕事は好きなので」

 アリスさんは照れたみたいで、頬を少し赤くしながらはにかんだ。

「アリスは魔力を込めた刺繍糸で女性向けの品を作ってるんですよ」

 ロイドさんがいくつか積んだちいさめの木箱を抱えて言った。
 一番上の箱の中身が聖光石のネジだったから、下の箱にも魔法道具に必要な部品が入っているのだろう。

「刺繍糸ですか。意匠によって効果が変わってくるんですよね?」
「はい。魔力を込めた刺繍糸はアミュレットになりますし、流行のデザインを取り入れれば一定数売れるので、どこの国でも販売してます」
「そういえば、フレイズ学園の女生徒の間で魔力糸の使われたハンカチの収集が流行ってますよ」
「ハンカチの? どんなデザインが人気でしょうか?」
「やっぱり、季節の花とか、鳥とかですかね」

 その前は髪飾りとかだったかなー。
 学校は制服だから、女子のオシャレ欲求は持ち物に向く。中には自分で刺繍している子とかもいた。

「鳥さん、ここいっぱいいるね」
「そろそろリチーの実が実る頃だからねー。この時期は渡り鳥がたくさん来るの」

 あ、てことはお父様の情報収集の時期か。お父様が渡り鳥から訊いたお話聞くの好きなんだよねー。今年はギーシャと一緒に聞きたいな。

「鳥さんのご飯がいっぱいあって、小さな子が笑ってた。レイセンはいいところだね」

 リリーちゃんが両手をはためかせて鳥の物真似をする。

「けどね」
「うん?」

 リリーちゃんは腕を下ろすと、手を胸元できゅっと握り締めた。

「レイセンは綺麗。だけど、だから心配になるの」

 リリーちゃんは私の目を真っ直ぐ見て、そっと言った。

「綺麗なものはね、壊れやすいから」
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