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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

壁越し

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「シャンプーですか? 待って下さいね──ああ、ありました。この水色のボトルですね」
「そうそう、それー」

 アリスさんが鏡の下に置かれているいくつかのボトルを漁って、一つの水色のボトルを手に取る。ラベルにはミントの絵が描かれていた。

「投げてー」
「はーい。えい!」

 アリスさんはロイドさんに言われた通り、シャンプーのボトルを壁に向かって投げた。どうやら、この浴室はの壁は天井の方が少し開けているらしい。
 放物線を描いたボトルはそこを通って姿を消した。あー、なんか戦闘が出てくるアニメとかで見た光景だ。

「あいた!」

 ごんっという音と共に、痛みを訴えるエリックさんの声がした。その後に唸り声も聞こえた。
 アリスさんが投げたボトルは、エリックさんに激突したようだ。

「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか? エリック」
「へーき。くそっ、今日は散々だな。とりあえず、ロイド不幸になれ」
「ナチュラルに人の不幸を願わないでくれる!?」

 さらっと酷いことを言うエリックさんにロイドさんがつっこみを入れた。

「イディー、片付けは?」
「ほとんど終わったよー。お風呂の順番待つのも時間が勿体ないから、シャワールームで磯の匂いを落とそうかなって」

 隣はシャワールームなんだ。
 私は、伝声管に向かって話しかけた。

「ロイドさん、あの、お借りしている魔法道具の件ですが」
「その件なら、エリックに聞きました。大丈夫ですよ。部品がダメになっただけで機能には影響がないので。予備の部品もありますし、出たら直します」
「直すのは俺だ」
「別に部品の取り換えくらいなら僕でも出来るよ?」
「俺の作品に手を出すな」
「はいはい」

 自分の作品に自分以外の誰かの手が入るのが嫌なのか、エリックさんの声が不機嫌になる。
 何はともあれ、これで一安心だ。

「リッキー、自分の作ったの大好き」
「みたいだね」
「エリックは作る数こそ、猫の爪では一番少量ですが、彼の作品が一番値が張るんですよ。うちの一番の稼ぎ頭ですね」
「そうなんですね。アリスさんも魔法道具をつくったりするんですか?」
「そうですね。私はどちらかというと事務方なのですが、主に調合魔法で品を作ってます」

 調合魔法かぁ。前にリッカ先生がお父様用の薬を作る際に使っていたのを見たことがある。確か、カルム先生も使えた筈。
 カルム先生たちは主に薬品類に使っていたけたど、それ以外にも色々作るのに便利な魔法だ。

「もしかして、この入浴剤も?」

 片手で湯を掬って訊ねる。

「ええ、調合魔法で作ったものです。他にも色々ありますよ。温泉の効能とかも再現出来るようにしてるんです」
「効能?」
「肩こり、腰痛などの緩和や、美肌効果、疲労回復、血行や冷え性の改善など」
「ぜひ、見せて下さい」

 入浴剤の効能に思わず食いついてしまった。
 これは欲しい。
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