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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

そりゃ増えるものだけど

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 いや、早合点はよくない。
 エリックさんが帝国にいた可能性があるからって、ロイドさんが嘘をついたとは限らない。
 もしかしたら、エリックさんは帝国出身か、或いは帝国に身を置いていたかもしれないけど、その後帝国を出て猫の爪に所属したとも考えられる。
 もう少し話を掘り下げて探ってみよう。

「エリックさんはいつから猫の爪にいるんですか?」
「気になる?」
「えっと・・・・・・はい」
「今の間が気になるけど、いいや。俺が猫の爪に入ったのは十年くらい前だな」

 こちらの意図を感づかれたかとどきっとしたけど、エリックさんは答えてくれた。
 危ない危ない。
 もっと遠回しに探るべきだった。慎重にいこう。

「エリックさんって見た目、私と年変わらなそうですけど、何歳なんですか?」
「もうすぐ二十歳」
「嘘っ!?」

 え!? 二十歳!?
 私は隣に座っているエリックさんを思わずガン見してしまった。
 いや、もうすぐってことはまだ十九歳か。でも、とても二十歳近くには見えないなぁ。
 エリックさんはつり目がちのぱっちりとした大きな瞳をしているからか、顔立ちが幼く見える。
 私より四つも年上なのかぁ。

「いやー、てっきり同い年かと」
「よく学生に間違えられるんだよなー」

 エリックさんは実年齢より若く見られるのが不満なのか、ぶーと唇を尖らせていた。
 女の人は若く見られたがるけど、男の人は大人っぽく見られたがるよね。

「そうですね。学校の制服着ても違和感ないと思います」
「嬉しくねーから。あ、着いたみたいだぞ」

 ぎっと馬車が停車し、私たちは降りた。
 御者さんに声をかけて、私たちは入り口へ行く。

「ん? なんか今、音がしませんでしたか?」

 ぎぎっていう木材が軋むような音がしたような?
 心なしか、嫌な予感がするような?

「そうか? あ、ひょっとして中でロイドがろくでもないことしてるんじゃ──ただいま! ロイド、なんか悪だく──み!?」
「ぶふぉおおお!」

 エリックさんが扉を開けるのと同時に私の視界は真っ暗になった。

 何事!?

 というか、なんかぬるぬるするし、息がしにくい。てゆーか、塩臭い!? え? え? 何これ!? どういう状況!?

「もがっ!? もがもがー! ぷっはぁっ、けほけほ!」
「おい、平気か!?」

 もがけばもがくほど、謎のぬるぬる物体が絡みついて動きにくくなっていたところをエリックさんが手を引っ張って引き出してくれた。

「だ、大丈夫です! てゆうか──これって・・・・・・」
「あー、ワカメだな」

 私たちを飲み込んだのは大量のそれはもう信じられない量のワカメだった。
 いやいや、そりゃワカメは増えるものだけど、増えすぎでしょ!?

「一体どれだけのワカメ投入したんですか!? 戻す時の量考えないと大変ですよ!」
「それ、間違っちゃないけど、何かが違うぞ──よし、おーい! ロイド! なんで店からワカメが吹き出してんだ!? 説明しろ!」

 エリックさんがワカメに向かって怒鳴る。
 そっか、ロイドさんや猫の爪の人もこのワカメの中に!
 ほっといたら窒息しない!?

「ロイドさーん! 返事してください! ぶっ!」
「足元気をつけ──うおっ」
「ワカメが、ワカメが!」

 ワカメに足を取られて上手く立ち上がれない。
 このワカメ、どうすりゃいいの!?

「いたたたっ! おかえりー、エリック。いらっしゃい、ミリア嬢。助けてー。あたたっ」
「ロイド、てめー」
「ロイドさん!」

 ワカメに悪戦苦闘していると、ロイドさんがひょっこりともぐらみたいに出てきた。
 そして、ロイドさんと一緒に二人の女の子も出てきたけど・・・・・・何故か、女の子たちはそれぞれ、ロイドさんの肩と腕に鬼の剣幕で噛みついている。

「おい、説明しやが──」
「うぎゃあ!」

 ワカメが波打ち、私たちは流される。もし、海がワカメに侵略されたらこんな感じなのかな。
 じゃなくて、どういう状況──てゆーか、ひょっとしてこのワカメ、まだ増殖してる!?
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