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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
緊急転生者会議
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マリス嬢のいた小部屋にリンス嬢を連れて突撃した私は、鬼気迫る表情で色々捲し立てたが、これじゃあ要領を得ないと気づき、心を落ち着けた。
今は、マリス嬢が生けている途中の花が並べられたテーブルを囲むようにして三人で座っている。
私は口元で手を組み、静かに告げた。
「お二人は覚えているでしょうか? 『祝愛のマナ』中等部三年三月、ラフィンお家騒動を」
「「・・・・・・っ!?」」
二人の顔がひきつるのが分かる。ああ、二人もあれの経験者なんだなぁ、と心の中で同じ辛苦を味わった仲間に深く同情した。
「いや、ね。私もすっかり忘れてたっていうか──マリス嬢たちの婚約破棄キャットファイトやらで時系列がごちゃごちゃになってたんですけど、さっき思い出しました」
「ラフィン家・・・・・・ああ、頭痛が・・・・・・」
「鍵が・・・・・・鍵が、足りない」
「お二人とも~、気持ちは分かりますが、帰ってきて~」
二人はフラッシュバックを起こしたように頭を抱え、蒼い顔をしている。
「今、絶賛ラフィン家はお家騒動真っ只中のようなんです。そして、ここでこの問題を放置すればどうなるか。ゲーム準拠で進めば──九月に地獄を見ることになります。マジで」
「ほんっと、あれは鬼の所業だったわ」
「三月にミスった結果、九月が脱出ゲームになるとは誰も思いませんよ」
場は一気にお通夜のような暗い空気に包まれる。
何の話かと言うと、『祝愛のマナ』の三月のイベントである。
『祝愛のマナ』は、中等部三年の四月から、高等部三年の四月までの四年間が本編とされており、各月ごとに様々なイベントが起こる。そして、当然ながらヒロインは攻略対象と共にそのイベントという名のトラブルに巻き込まれていくのだ。
そんな数あるイベントの中で、鬼畜使用とユーザーに恐れられていたイベントの一つがラフィンお家騒動だ。
何が鬼畜かって言うと、このイベントをミスると高等部一年の九月が丸ごと潰れる使用になっている。
その内容が酷いのなんのって。しかも、これが他人事じゃないから始末に終えない。
「九月にあのイベントが発生したら、本当に洒落になりませんよ。巻き込まれ確定じゃないですか」
「まぁ、あのイベントって、普通にフレイズ学園の生徒全員が被害者だもんね」
「問答無用で全員軟禁コースですからね」
私もフレイズ学園の生徒である以上、笑えない事態だ。
三月の選択ミス後の九月イベント──それは、脱出ゲーム。端的に言って、生徒は学園から出られなくなり、九月丸ごと学園からの脱出に費やすことになるという。ほんと、何がどうしてそうなったと突っ込まざる負えないとんでも展開が待っている。
「あれの何が鬼って・・・・・・攻略対象がほとんど不在の上に、親愛ポイントは増えないところですよね」
「「それな」」
リンス嬢の言に私とマリス嬢は力強く頷いた。
『祝愛のマナ』には、信頼ポイント、親友ポイント、親愛ポイントの三つのポイントがあり、選択によって各ポイントが増えたり、減ったりする。そのポイントによって進むルートやエンディングが決まるから、とっても大事なポイントだった。
が、軟禁イベントではとにかく、恋愛エンドに行くために必要な親愛ポイントは増えない。全く増えない。代わりに、信頼ポイントと親友ポイントは増える。これは閉鎖された空間で共に脱出のために行動したことで勝ち得た友情と信頼と言えるが──明らかに恋愛ゲームでヒロインと交わす感情ではない。
というか、ギーシャ含め、ほとんどの学園関係者の攻略対象は学園から出られなくなる日に、仕事やら何やらで学園に来てなかったというね。あのイベに関わる攻略対象ってラウルと生徒会長ぐらいじゃなかったっけ?
「しかも、九月の別のイベントを発生させないと恋愛エンド行けないキャラがいたりするしね。セーブ機能の問題であれミスって、九月に気づいても、中等部からやり直しっていう──リメイク版で改善されてたけど──初期は地獄だった」
「私はハマったのが後からでしたけど、気になって初期のやったら、ほんと地獄を見ましたよ」
「あれ、ライター疲れてたんでしょうね。エピローグでは本体投げかけた」
「ヒロインは誰とも親愛ポイント上がらないのに、あのイベント後、やたらモブがカップル成立してるっていう追い討ちの後日談付きっていうね。なんだったのかしら、あの九月イベ」
は~。
三人ぶんの溜め息が溢れる。
どこまでがゲーム通りに進むのか、なんて私には分からない。ただ、九月の悪夢が実現したらヤバいのだけははっきりしている。
「ゲームには名前は出てきませんでしたが、あのラフィンお家騒動の渦中にいたのがグミ嬢とネノ嬢というのははっきりしています。流石に今すぐには無理ですが、これは対処せねばなりません。じゃないと、その後の十月の学園祭の準備にも響きますし、休日が補習で潰れます」
「三月中にラフィン家のあの問題を解決すれば、少なくとも九月の悪夢は回避出来る。問題は明日のパーティーね」
「私が言えたことでもないですけど、頭に血が上った人間は何をするか分かりませんから」
「説得力が半端ないですね」
とまれかくまれ、第一回転生者会議は、パーティーの時にローテーションを組んで、二人の令嬢を見張るという結論で幕を閉じた。
その後、ラフィンお家騒動解決のために第二回転生者会議を行うことを約束して。
パーティーを乗り越えれば、大団円。とはいかなくなってしまった。
むしろ、ラフィンお家騒動の内容のハードさからして、パーティー後が一番の修羅場かもしれない。
でも、ラフィン家か・・・・・・。
「そうなると、あの人と対峙することになりますね」
リンス嬢がぽつりと呟いた。
私はリンス嬢に答えるつもりではなく、ただ独り言として言った。
「──ラフィンの獣」
今は、マリス嬢が生けている途中の花が並べられたテーブルを囲むようにして三人で座っている。
私は口元で手を組み、静かに告げた。
「お二人は覚えているでしょうか? 『祝愛のマナ』中等部三年三月、ラフィンお家騒動を」
「「・・・・・・っ!?」」
二人の顔がひきつるのが分かる。ああ、二人もあれの経験者なんだなぁ、と心の中で同じ辛苦を味わった仲間に深く同情した。
「いや、ね。私もすっかり忘れてたっていうか──マリス嬢たちの婚約破棄キャットファイトやらで時系列がごちゃごちゃになってたんですけど、さっき思い出しました」
「ラフィン家・・・・・・ああ、頭痛が・・・・・・」
「鍵が・・・・・・鍵が、足りない」
「お二人とも~、気持ちは分かりますが、帰ってきて~」
二人はフラッシュバックを起こしたように頭を抱え、蒼い顔をしている。
「今、絶賛ラフィン家はお家騒動真っ只中のようなんです。そして、ここでこの問題を放置すればどうなるか。ゲーム準拠で進めば──九月に地獄を見ることになります。マジで」
「ほんっと、あれは鬼の所業だったわ」
「三月にミスった結果、九月が脱出ゲームになるとは誰も思いませんよ」
場は一気にお通夜のような暗い空気に包まれる。
何の話かと言うと、『祝愛のマナ』の三月のイベントである。
『祝愛のマナ』は、中等部三年の四月から、高等部三年の四月までの四年間が本編とされており、各月ごとに様々なイベントが起こる。そして、当然ながらヒロインは攻略対象と共にそのイベントという名のトラブルに巻き込まれていくのだ。
そんな数あるイベントの中で、鬼畜使用とユーザーに恐れられていたイベントの一つがラフィンお家騒動だ。
何が鬼畜かって言うと、このイベントをミスると高等部一年の九月が丸ごと潰れる使用になっている。
その内容が酷いのなんのって。しかも、これが他人事じゃないから始末に終えない。
「九月にあのイベントが発生したら、本当に洒落になりませんよ。巻き込まれ確定じゃないですか」
「まぁ、あのイベントって、普通にフレイズ学園の生徒全員が被害者だもんね」
「問答無用で全員軟禁コースですからね」
私もフレイズ学園の生徒である以上、笑えない事態だ。
三月の選択ミス後の九月イベント──それは、脱出ゲーム。端的に言って、生徒は学園から出られなくなり、九月丸ごと学園からの脱出に費やすことになるという。ほんと、何がどうしてそうなったと突っ込まざる負えないとんでも展開が待っている。
「あれの何が鬼って・・・・・・攻略対象がほとんど不在の上に、親愛ポイントは増えないところですよね」
「「それな」」
リンス嬢の言に私とマリス嬢は力強く頷いた。
『祝愛のマナ』には、信頼ポイント、親友ポイント、親愛ポイントの三つのポイントがあり、選択によって各ポイントが増えたり、減ったりする。そのポイントによって進むルートやエンディングが決まるから、とっても大事なポイントだった。
が、軟禁イベントではとにかく、恋愛エンドに行くために必要な親愛ポイントは増えない。全く増えない。代わりに、信頼ポイントと親友ポイントは増える。これは閉鎖された空間で共に脱出のために行動したことで勝ち得た友情と信頼と言えるが──明らかに恋愛ゲームでヒロインと交わす感情ではない。
というか、ギーシャ含め、ほとんどの学園関係者の攻略対象は学園から出られなくなる日に、仕事やら何やらで学園に来てなかったというね。あのイベに関わる攻略対象ってラウルと生徒会長ぐらいじゃなかったっけ?
「しかも、九月の別のイベントを発生させないと恋愛エンド行けないキャラがいたりするしね。セーブ機能の問題であれミスって、九月に気づいても、中等部からやり直しっていう──リメイク版で改善されてたけど──初期は地獄だった」
「私はハマったのが後からでしたけど、気になって初期のやったら、ほんと地獄を見ましたよ」
「あれ、ライター疲れてたんでしょうね。エピローグでは本体投げかけた」
「ヒロインは誰とも親愛ポイント上がらないのに、あのイベント後、やたらモブがカップル成立してるっていう追い討ちの後日談付きっていうね。なんだったのかしら、あの九月イベ」
は~。
三人ぶんの溜め息が溢れる。
どこまでがゲーム通りに進むのか、なんて私には分からない。ただ、九月の悪夢が実現したらヤバいのだけははっきりしている。
「ゲームには名前は出てきませんでしたが、あのラフィンお家騒動の渦中にいたのがグミ嬢とネノ嬢というのははっきりしています。流石に今すぐには無理ですが、これは対処せねばなりません。じゃないと、その後の十月の学園祭の準備にも響きますし、休日が補習で潰れます」
「三月中にラフィン家のあの問題を解決すれば、少なくとも九月の悪夢は回避出来る。問題は明日のパーティーね」
「私が言えたことでもないですけど、頭に血が上った人間は何をするか分かりませんから」
「説得力が半端ないですね」
とまれかくまれ、第一回転生者会議は、パーティーの時にローテーションを組んで、二人の令嬢を見張るという結論で幕を閉じた。
その後、ラフィンお家騒動解決のために第二回転生者会議を行うことを約束して。
パーティーを乗り越えれば、大団円。とはいかなくなってしまった。
むしろ、ラフィンお家騒動の内容のハードさからして、パーティー後が一番の修羅場かもしれない。
でも、ラフィン家か・・・・・・。
「そうなると、あの人と対峙することになりますね」
リンス嬢がぽつりと呟いた。
私はリンス嬢に答えるつもりではなく、ただ独り言として言った。
「──ラフィンの獣」
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