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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

気分は書道家

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「おーい、お待たせー」
「ミリア、マリス。大丈夫だったか?」

 シーエンス家に到着して大広間に入ると、何やら書類片手に色々指示を出していたギーシャがこちらに気づき、ててっと小走りで近寄ってきた。

「大丈夫じゃなかったけど、大丈夫」
「それはどっち何だ?」
「んー、怪我とかないから、大丈夫?」

 状況的には危険だったけど、無傷だからなぁ。あまり心配かけたくないし──大丈夫って言っておこう。

「少々、想定外のことがありましたが、ひとまず落ち着きました。ここでは何ですので、詳しいことは後ほどお話します」
「そうか・・・・・・ああ、そうだ。内装が九割方終わった。どうだ?」
「おおー!」

 改めて室内をぐるりと見渡すと、テーブルは綺麗に並べられており、雛壇もちゃんと設置されている。あ、グランドピアノも運び込んだんだ。テーブルクロスも真っ白で完璧──だけど、なんか物足りないような? あ、飾りつけか!

「飾りつけはマリスの担当だったな」
「はい。昨日運び込んだ花と後──」
「あ、ちゃんと持ってきましたよ。お姉様の薔薇! 先に運んで貰うよう頼んでたんですけど──」
「それなら昨日と花と同じ奥の小部屋へ運び込んだぞ」
「では、私は飾りつけをして来ますね。用があればお呼び下さい。では」

 マリス嬢はそれだけ言うと、いそいそと小部屋と向かった。何だか生き生きしていたなぁ。

「マリス嬢、楽しそうだったね」
「花が好きだと以前言っていた。それから、フラワーアレンジメントも好きだと」
「へー」

 飾りつけや料理担当をしてもらってるけど、恙無くこなしてる辺り、女子力高いと思う。
 お姉様が下さった薔薇、とっても綺麗だったし、昨日の花屋さんの花も素敵だったし、その花たちがマリス嬢の手によってどんな風になるのか楽しみだ。

「そうだ。ミリア、これは何だ?」
「お、こっちも届いてたんだね。よかったよかった。ふっふっふっ、ギーシャ。これはめくりって言うんだよ」
「めくり? 大きなメモ帳のように見えるが」

 ギーシャが指した先にあったのは大きな縦長の紙の束。落語とかで演目が書かれているめくりと呼ばれるものだ。

「これはねぇ。シリアスブレイカーっていうか、パーティーを盛り上げるための小道具の一つだよ」
「?」

 ギーシャはよく分かってなかったようだけど、私は届いた真っ白なめくりにテンションが上がり、めくりと一緒に置かれていた箱から新聞、硯、筆などを取り出し、床にセットした。

「ミリア?」
「真っ白な紙っていいね。まだ誰も踏んでない雪を見た時みたいな気分になる。さて、とまずは──っと、その前に一応抑えてた方がいいよねって文鎮忘れた! ギーシャ、抑えてて!」
「これでいいか?」
「うん、いい感じ。そのままでお願い」

 ギーシャが正面で屈み、両手で紙を抑えてる間に墨の用意をして、筆を墨汁の海に沈める。
 しまったな。めくりじゃなくて、大きめの紙買ってから束ねた方がよかったかも。ま、いいや。

 いざ!

 私は意気揚々と筆を真っ白な紙に滑らせた。
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