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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

朝食

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 ガタン、ゴトン。

「「・・・・・・」」

 馬車の中で沈黙が続く。
 あの後、部屋に入ってきた灰色の髪の男性──名前を訊きそびれてしまったけど、恐らくバラットさんがイクスたち四名を拘束具に繋げ、どこかに連行して行った。
 私たちはあの後、必要な取り調べ? を受けたり、天幻鳥越しに聖女様からお叱りを受けたりしたけど、無事魔法管理局から出ることが出来た。
 何だか、結局よく分からないままだったなぁ。
 いや、襲撃を指示した人も、その目的も分かったけど、この件はもっと根深い気がする。ランカータ侯爵のことも分からなかったし。
 とはいえ、私が聖女様に訊いても教えてもらえないだろうし、大人に任せるべきことなんだろうとは思う。お父様に訊けば、教えてもらえるかもだけど。こういう時、子供なのが少し歯痒く感じる。
 ともあれ、今はあの襲撃がギーシャ個人を狙ったものじゃないことを喜ぶべきか。でも、マリス嬢もなんか大変そうだなぁ。
 ちらりと横目にマリス嬢を見ると、壁に頭を預けてぼんやりと窓の外を眺めていた。

「あの、マリスじょ──」

 きゅるぅ~。

「「・・・・・・」」

 馬車の中に可愛らしい腹の虫の鳴き声が木霊した。
 私はつい、呼び掛ける言葉を途切れさせた。今のは私じゃない。てことは?
 よく見ると、マリス嬢の耳がほんのり赤く鳴っている。

「あ、お腹すい──」

 ぐぅうう。

「「・・・・・・」」

 更に大きなお腹の音が響いた。私の顔が思わず熱くなる。うん、今のは私のお腹の音だ。
 いや、フォローしようと思ったけど、何も私の腹の虫が先にフォローに入ることないじゃない!
 って、マリス嬢がめっちゃこっち見てる!

「あー! お腹空きましたね! 私、危うく寝坊仕掛けて朝ごはん全然食べられてないんですよー」
「・・・・・・私も。朝はあまり食欲出ない方だから」
「あ、そうだ」

 私は前に乗り出し、手前の座席を開いた。座席の中は空洞になっていて、物を仕舞ったり出来るのだ。私はその中から大きめのバスケットを取り出し、膝の上に乗せた。

「何それ?」
「お母様が出掛けに持たせてくれた朝ごはんです。作ったのはメイアーツの料理人さんですけど」

 朝、お母様は私がギリギリまで起きないことを予想していたようで、朝ごはんを食べている時間がないと支度しながら騒いでいた私にこれを渡してくれたのだ。ちなみに、お母様はギリギリまで起こしてくれなかったのは曰く、「貴女、起こしたってギリギリまで起きないから、ギリギリに起こせばいいかなって」とのこと。私の寝起きの悪さは既にお母様に諦められているということか。一度起きれば意識ははっきりするんだけどね。
 今日は流石にいつもよりかなり早く起きて、なかなか食欲が湧かなかったから来る時は食べられなかったんだよね。

「よかったらいかがですか?」

 バスケットの蓋を開けて、マリス嬢に中身を見せる。具沢山のサンドイッチや、色とりどりのおかずが美味しそう。料理人さんの作ったものって、揚げ物とかでも冷めても美味しいから不思議。どんな工夫してるんだろう。

「いいの?」
「どうぞどうぞ」
「じゃあ、遠慮なく。いただきます」

 そう言ってマリス嬢はレタスサラダのサンドイッチを一切れ取り、ちょこっとかじりついた。

「あ、美味しい」
「でしょでしょっ。私も食べよっと。いただきまーす」

 私は初手からガツンとお肉系。ローストビーフを挟んだサンドイッチを食べた。うん、美味しい。

「うん。昨日のホットサンドも美味しかったけど、サンドイッチも最高!」
「ホットサンド?」
「はい。昨日、シーエンス家に向かう最中に昼食として食べたんですよ。東区の露天で!」
「ふぅん。ホットサンドね」

 マリス嬢が思案顔でサンドイッチを眺めている。
 どうしたんだろ? 食べないのかな?

「マリス嬢、考え事ですか?」
「ええ。パーティーの料理についてなんだけど、片手で食べられるものがあった方がいいと思って」
「ああ。立食式だとちょっと不便ですものね」

 パーティーの食事はは基本、バイキング形式で、自分でお皿に食べたいものをよそう様になっている。
 立食式だと両手が塞がって不便なんだよねぇ。

「ホットサンドみたいに立ちながらでも食べやすいメニューってないかしら?」
「んー。アイスとかチュロスとか、あ、回転焼きとか?」
「悪くないけど、参加者はほとんど貴族でしょ。場にそぐわない物を出せば不況を買うわ」

 確かに。片手で食べられるものって買い食い出来るものって感じだから庶民感があるんだよね。あ、でも買い食いいいよねぇ。肉まん、たい焼き、たこ焼き、ホットスナック。学校の帰りとか、コンビニとか屋台見かけるとついつい買っちゃってたなぁ。
 でも、貴族か。う~ん。

「見た目を工夫すれば、なんとかなるかも?」
「見た目?」
「はい。見た目を可愛くすれば、女生徒に喜んでもらえると思いますよ」

 何せ、貴族のお嬢様というのは、可愛いものや華やかなもの、珍しいものが大好きだからね。目新しいものや流行りのものならもっとポイント高い。
 可愛くて美味しいものが人気なのはどの世界も共通のことだろう。

「可愛い、ね。だったらスイーツ系かしら? でも、それだと甘いのが苦手な人が──あ、あれなら」

 マリス嬢は考えを纏めているようでぶつぶつ呟いている。何を思いついたんだろう? 私は邪魔しないように、バスケットと一緒に取り出した水筒からコップにお茶を注ぎながらマリス嬢を観察していた。
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