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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

秘密魔法道具

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 うん、やっぱ懐中電灯に見えるよね。私もお兄様に渡された時、同じことを思ったもん。
 今、私が手にしているのは見た目はどっからどう見てもアンティークなデザインの懐中電灯にしか見えない。

「いや、このタイミングでメイアーツ嬢が懐中電灯を出すのは不自然だろう。今は停電時でもなければ、夜でもないし、暗い箪笥の下に何かを落としたわけでもない。魔法道具と考えるのが自然だ」
「確かに。光魔法で明かり作り放題のレイセンで懐中電灯は需要ないもんねぇ」
「実用性のあるものは全て魔法化しているからな」
「呑気に話してるな。イクス」
「しょ~がないなぁ~。悪く思わないでね。ミッちゃん」

 テロール子爵にせっつかれたイクスは、魔力を蔦のように部屋中に張り巡らせた。

「具現魔法──しかも、呪文なし。なるほど、どうやら貴方は特別なようですね」
「よく分かんないけど、大人しくしててね」

 その瞬間、闇色の蔦が私目掛けて何本も飛んできた。

 ──っ、速い。
 想像以上のスピードに驚いて指が滑ってスイッチを押し損ねた。あ、不味い。

「消えなさい」

 その時、冷淡な声が背後からして、私が振り向こうとする前に、部屋中の蔦が透明な炎に焼かれたように消え去った。これは──

「見つけた! じっとしててって言ったでしょ!」
「あだっ!」
「あ、ごめん」

 あの冷静な声はなんだったのかと言いたくなるほどの怒った声で扉を開けて入って来たのはマリス嬢。勢いよくあけたものだから、扉の前にいた私の後頭部に衝撃が走った。くぉおおおっ!

「って、あ!」
「チャーンス」

 あまりの痛みに思わず踞った隙をイクスが突こうとしてくる。

「ちょっと状況が飲み込めないんだけど──光よ、闇を退けよ」

 私とマリス嬢の周囲に輝く粒子が立ち込め、それを見たイクスは急ブレーキをかけたように止まり、後ろへ引いた。

「っとと、危なかったぁ」
「てか、何で縦ロール子爵がいるの?」
「あ、やっぱマリス嬢もその認識なんですね」

 やっぱり其所に目が行くよね。

「昨日、イクスたちを仕向けてきたのは縦ロ──じゃなかった! テロール子爵なんです!」
「・・・・・・へぇ」

 私がそれを告げると、マリス嬢はとても怖い笑みを浮かべた。

「そうなの。貴方たちがギーシャ王子を。ふふふふふ」
「白の魔力の使い手さ~ん、黒いオーラ纏わないで! それ俺の十八番なんだから。ほらほら」

 イクスがぷんぷんと抗議しながら、闇色の魔力を放出する。うん、でも明らかに種類が違うよね!?

「マリス嬢」
「とりあえず、あの闇魔法使いには対抗できると思うけど、後ろにいる仮面の奴、昨日の呪術師よね? 流石に呪術師相手の訓練は受けてないわ」
「大丈夫です。これがありますから」
「懐中電灯?」
「違います。魔法道具です」
「光を浴びると大きくなったり、小さくなったりするの?」
「いえ、そういう類いではなく、てゆーか懐中電灯から離れましょうよ」

 確かに、私も懐中電灯って思って、似たようなこと考えたけど!

「一瞬でいいです。二人の気を引いて下さい。そうすれば、私が全員の動きを封じます」

 私はぎゅっと魔法道具を握り締めた。
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