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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

盲信者の命令

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「魔法の神聖を守るため? たったそれだけのためにギーシャを害そうとしたのですか?」

 信じられない。貴族が王子に刃を向けるなんてあってはならないことだし、何よりギーシャというのがあり得ない。下手をすれば帝国との国際問題になりかねないって言うのに。

「たったそれだけ? いいえ、「たった」なんかではありません。魔法の神聖の守護こそ、レイセンの民の責務! そして、白の魔力こそがそのための最大の剣になり得るのです。ならば、どのような手を使ってもその刃を研ぎ澄ませることこそが我々、聖魔法団に与えられた天命なのです」
「えー・・・・・・いや、その、何て言ったらいいか」

 どうしよう。この人と話せる気がしない。根本的なものが違う気がする。

「わー、また始まった。何で、聖魔法団の人って魔法の話になると別世界に行っちゃうんだろう」
「彼らにとっては魔法は神そのものだからな」

 テロール子爵の言い分に興味のなさそうなイクスたちが待機するように私の隣で話してる。この二人は魔法崇拝者という訳ではないようだ。

「テロール子爵、分かりました。いや、貴方の言ってることは理解出来ませんが、貴方がギーシャやマリス嬢にしたことは許されることではありません。然るべき処分を受けて頂きます」
「ええ。構いませんとも。今回の件は私の独断。イシュアン卿は何も知りません。ですが──ここまでして何の成果も得られないというのも虚しい。ああ、そうだ。イクス」
「はぁい?」
「私からの最後の命令だ。そこの──ミリア・メイアーツ嬢の魔力を喰らえ」
「──はい?」

 今、この人何つった?

「お前はようやく見つけた、源泉に到達し得る使い手だ。ライゼンベルトの魔力を喰らえば、より力を得られる筈」
「何の話ですか・・・・・・?」
「そこのイクスは白の魔力に拮抗できる程の闇魔法の使い手なのです。白と闇。純正魔力に最も近しい二属性の魔力。聖魔法団の悲願の一つであるレイセン王国の『茨の魔王』の誕生のため、メイアーツ嬢、その贄となって下さい」
「レイセン王国では『茨の魔王』は誕生しませんよ」
「ええ。そうですね。正確には、茨の魔王を凌ぐ、魔法界の神の誕生でしょうか」
「ほうほう」

 私は何も分かってなかったけど、とりあえず頷いた。隣ではイクスが何やらウォーミングアップを始めている。

「そうですか、そうですか」

 私はゆったりと、優雅な所作を心掛けて部屋の中を歩く。これはお母様に習ったこと。洗練された美しい所作は見る者の時間を緩やかにする。
 加えて、向こうは随分余裕のようだから、私の動きを特に問題にしてなかった。
 私はにこりと微笑んだ次に、

「何て、了承するわけないでしょーが!」

 スカートを翻し、その中に忍ばせていたとあるアイテムを取り出し、彼らに向けた。下のお兄様に今朝持たされた魔法道具。それは──

「懐中電灯?」

 イクスが見た感想を率直に言った。
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