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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

壁に耳あて

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「見つけた! 修繕費!」
「ブレないねぇ、ミッちゃん」

 イクスが曲がった角の廊下の奥から二番目の部屋に入ったので、私も飛び込んだ。
 クスクスと花を愛でるちっちゃい子みたいな邪気のない表情でイクスは笑う。

「でもね、お金の話を俺にされても困るよ?」
「じゃあ話の分かる人を教えて。出来れば、昨日のことを仕組んだ人がいいです」

 私はイクスと話ながら、そっとスカートの裾を握った。今日は動きやすいように学園の制服のような膝丈のスカートを履いている。ちなみにタイツも。素足NGだからね。そして、これはこの下に忍ばせたあれ・・を取り出しやすくするためでもある。

「そう怖い顔しないでよ。言ったじゃん、ヒントをあげるって」
「なんなの? ヒントって──うぎゃっ!」

 イクスは何故か私の後ろに回り込み、私の両肩を掴んで壁に押しつけた。私は体半分が壁に密着した状態になる。

「ちょっ!」
「しー、お静かに。耳を澄まして」

 そう言って、イクスは自分の唇の前に立てていた人差し指で壁をつつくと、雫を落とした墨汁のような小さな波紋が広がり、壁についた耳に声が流れ込んできた。

「ふむ。では、蝙蝠は全滅か?」
「はい。その場にいた者たちの協力もありましたが、全てマリス・リアルージュが浄化しました」
「白の魔力の使い手ならば、それくらいは当然であろう。わざわざ持ち出した甲斐なしだな。あの数を、という点は評価に値するが」
「しかし、良いのですか? あの場には第三王子や王兄の──」
「構わん。そも、あれはギーシャ殿下に懸想しているのだろう? 殿下に闇魔法を仕掛ければ、何か新しい発見があるやも、と期待したが無駄足か。まぁ、リアルージュとてこれで己の立場を理解しただろう」

「──! むぅっ」

 会話の内容に思わず開きそうになった口を手で覆われ、塞がれる。イクスが小声で言った。

「はい、しー。静かにね。今、特別に防音障壁に穴を開けて盗み聞きできるようにしてあげてるんだから。大声出したら、こっちの声も筒抜けになるよ?」
「・・・・・・」
「はい、おりこうさん」

 忠告を訊き、黙り込んだ私の頭をイクスが撫でる。何がしたいの・・・・・・。

「えー。せっかくヒントあげてるのに、そんな目で見ないでよ。傷つくなぁ」

 私が訝しむ目で見てたからか、イクスがこれ見よがしに肩を落とす仕草をして見せた。眉を下げて、傷つきました、な顔をされても困る。
 何でイクスが私に協力するかがまず分からないし、そもそもこの人、敵だよね?
 昨夜のあれやこれが頭を駆け巡る。うん、敵だ。

 それにしても、隣の部屋の人たち。
 会話からしてイクスたちを差し向けてきた首謀者に違いないが、目的の全貌はまだよく見えない。何か、マリス嬢を試していたって感じ? ギーシャを利用して? あ、なんか沸々と怒りが──いや、感情的になるのは後回し!
 マリス嬢を試したのは、彼女を鍛えるのも仕事の一環だろうから不思議じゃないけど、あそこまでする必要はあった?
 どうしても彼らの目的と王子襲撃が結びつかずに頭を抱えてる後ろでイクスがぼそりと呟いた。

「ほんと、発想が予想の斜め上をいって制御不能になるのが怖いよね、魔法崇拝者ってやつはさ」
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