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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

そこは大事

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 私が世間知らずかもしれないという疑問を抱いてる間にも、マリス嬢とXは会話を続けていた。

「じゃあ、この騒動は聖魔法団に属する人間の仕業って訳ね」
「そうそう」

 Xは呑気に笑って頷いた。

「で、誰が何のために依頼してきたの~?」

 キリくんがXの脇に屈み、その顔を覗き込みながら訊ねる。

「ん? 理由はそこの白の魔力の使い手さんなら察しはついてるんじゃない?」
「マリス先輩が?」
「心当たりがあるのか?」

 キリくんとギーシャがマリス嬢に視線を向ける。
 マリス嬢は苛立ったように眉間に皺を寄せた。そして、低い声で言う。

「やるべきことはやってたわ。今回の件の非は認めるけど、ここまでされる謂れはないわよ」
「そこは同情するよ。俺も依頼を受けた時はびっくりしたし。いやはや、魔法崇拝者って怖いね。でも君が選んだ道だろう?」

 ぴりぴりした空気が流れる。しかし、何の話をしているかはマリス嬢とXの当人たちしか分からないから、私たちは口をつぐんでいた。

「ええ。条件にフレイズ学園への編入があったからね。けど、どのみち脅迫なりなんなりして、あの人たちは私を引き込んだでしょ」
「やだなぁ。そこまでしないって」
「私が断ってたらしてたわよ。絶対」

 強い声で絶対と言ったマリス嬢に何となく、察した。
 条件というのは、マリス嬢が魔法管理局に白の魔力で力を貸すことだろう。
『祝愛のマナ』では、冒頭でヒロインが白の魔力を持っていると判明し、魔法管理局から魔法犯罪の有力な対処手段としてスカウトされるというモノローグがある。フレイズ学園に通うことになるのも、勉強の一環としてだ。
 マリス嬢の場合、その時には前世を思い出していたらしく、ギーシャに会えるという理由から申し出を受け入れたのだろう。だが、ゲームでは違う。
 ゲームでのヒロインは突然の出来事の連続に、戸惑い、断ろうとするが、脅迫染みたことを言われ、渋々受け入れる、という流れだった。
 だから、マリス嬢の言ってることは恐らく真実だろう。この世界は全てではないけど、どうしようもなくゲームの内容と繋がっているから・・・・・・。

「・・・・・・この際、理由は後回しでいいです。で、依頼主は?」

 リンス嬢が更に詰め寄った。

「言ってもいいけど、その前に背後に気をつけた方がいいんじゃないかなー?」
「え?」
「皆、伏せてください!」

 ギルハード様がそう言うのと同時に腰に差していた剣を抜き、それを振るった。ギルハード様の作った魔力の暴風が暗闇から私目掛けて飛んできた何かを消し飛ばす。

「・・・・・・?」

 私は頭を抱えて、しゃがみこんでいたが、衝撃がなくなるのと同時に顔を上げた。

「あはは、口封じでもしに来たの?」

 Xが暗闇にそう呼び掛ける。

「さぁな。それはお前の発言次第だ」
「どうしよっかなー?」

 暗闇から現れたのは、X同様黒いローブに身を包んだ人。身長や体格から男性だと推測されるが、その顔は不気味な仮面に覆われ、確認出来ない。

「戻るぞ」
「はいはーい」
「え? はぁ!?」

 仮面の男に返事をしたXはいつの間にか魔法の拘束を解いていた。
 何で!? いつの間に・・・・・・。

「じゃ、ここいらで失礼しまーす。バイビー」
「させるか」

 ギルハード様が二人を捕らえようと試みるが、仮面の男が何かを投げた。

「っ!? 呪術具か」

 それをかわしたギルハード様は地面に刺さったそれを見て呟いた。
 投げられたのは、ペーパーナイフのように細い刃物。その刃には異様な雰囲気がまとわりついている。
 ギルハード様の言う通り、あれは呪術具なのだろう。魔法とは異なる理を持つ、もう一つの異能。
 根本から違うから、魔法とは相性が良くない。
 地面に刺さったナイフは、黒い霧を放つ。途端、金縛りにでもあったように体が動かなくなった。

「こ、れは──」
「身縛りの呪術か」

 ギーシャがそう言い、視線だけをXたちに向ける。どうやら、この呪術は目と声帯は動かせるようだ。

「安心してください。別に命を奪ったりしませんから。我々が立ち去る間だけ、そうしていてください」
「こ、の──」
「マリス嬢、さすがに気合いや根性では何の対策もしてない呪術を破ることは出来ません。ここは──そこのXと仮面の人!」

 私は二人に呼び掛けた。どうしても訊かなくてはならないことがあるからだ。

「は? えっくす? 何?」

 意表を突かれたように目を丸くしたX。私は彼らに去られる前に、これだけは確認しておいた。

「貴方たちの襲撃に対抗するために壊しちゃったシーエンス家の窓やら壁やらの修繕費はどこに請求すればいいですか!? 魔法管理局ですか? ランカータ家ですか? 言っときますけど、こっちではびた一文も払いませんからね。パーティー準備で資金難ですから!」

「「「・・・・・・は?」」」

 その場にいた何人かがハモって間の抜けた声を漏らした。
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