上 下
77 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

落下人物

しおりを挟む
 ぱっと光が消え、辺りは静かになる。
 蝙蝠が全滅したことを確認し、私はほっと息を吐いた。
 それと同時に、脱力感が訪れ、ぐらりとしてその場にしゃがみこんだ。

「は~ぁ。疲れた・・・・・・」

 魔力を大量に使うと、疲労感に見舞われる。私は訓練は受けてるけど、そもそも膨大な魔力を使う機会なんて日常でそうそう起こる筈もない。
 安心感よりも疲労感が濃いが、ここで蹲ってる場合でもないと顔を上げた。
 ギーシャもマリス嬢も涼しい顔をしている。流石だなぁ。ギーシャは王子として戦闘訓練も受けてるし、マリス嬢も魔法管理局で白の魔力を扱うための指導を受けてるから、私よりこういう事態に対処出切るというのは納得だ。
 私は魔力は強いけど、王様からしても、両親からしても、お兄様たちからしても庇護対象として見られているからまず、戦うということを考えてなかった。でも、もうちょっと訓練した方がいいかなぁ。今度、お兄様に相談してみよう。
 密かに決意を固めてる間、ギーシャは屋上を見つめていた。

 屋上ではまだ戦闘が行われているようだ。術師はかなり身軽なようで、身に纏っているローブを翻しながらふわふわと三人の攻撃をかわしている。

「今から屋上に向かいますか?」
「いや、ここから攻撃してみる。不意を突けるかもしれない」

 ギーシャが人差し指を術者に向けるが、指先が揺れている。ターゲットを捕捉出来ないのだ。

「ギルハード様たちと連携が取れれば──でも、呼んだら気づかれちゃうし」
「いや、大丈夫だ。ギルハード」

 ギーシャがギルハード様を呼んだ。今の声では屋上にいるギルハード様に届かない──そう思ったが、ギルハード様は呼ばれたのと同時にぱっとこちらに視線を向けた。何で気づいたんだろう?
 術者を狙っているギーシャの思惑を察したのだろう。キリくんとリンス嬢に向かって何か言っている。
 ギルハード様たちは術者から後退り、それを不思議に思ったのか、術者の動きが一瞬鈍った。
 それを見逃すことなく、ギーシャは魔法を放つ。直撃は避けたようだが、バランスを崩す術者。そこへすかさずギルハード様が畳み掛ける。

「ギルハード、そのまま捕縛しろ」
「はっ!」

 ギルハード様が頷き、術者に狙いを定める。分が悪いと判断したのか、術者は逃げようと屋上の転落防止ようの柵に足をかけたようだ。

「させるか! 敵には問答無用ぅうう────!!」

 リンス嬢が槍を思い切り叩きつけ、術者は落下。

 ひゅるるる。べしゃんっ!

 うっわ! 落ちてきた! 魔法光が見えたから、防御はしたんだろうけど、音的に絶対痛そう・・・・・・。

「いってぇ・・・・・・何、あの槍お嬢。訳分かんない」

 うん。私もリンス嬢はよく分からない。
 は! 思わず同意しちゃった!

 私は術者に駆け寄り、その姿を確認した。

「──え!?」

 その姿に私は少し驚いた。

「げぇ、これちょっと不味い状況?」

 そう言い、半眼で眉間に皺を寄せてるのは、私たちとそう変わらない年頃の男の子に見えた。

 夜空に溶け込みそうな群青の髪と暗い赤い瞳の青年。
 この青年は一体、何のために私たちにこんなことをしたのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

処理中です...