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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

魔力炎上

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 ──キィィィン、という鉄の音が夜闇に響く。

 シーエンス家の離れの屋上で、二つの人影がぶつかり合っていた。
 時折、月光を反射して煌めくのはリンス嬢の持っていた槍の刃だろう。
 まるでチアリーダーがバトンを扱うように、無駄のない動きで槍を振るっている。
 対する正体不明の人影──恐らく、さっきの手形魔法の術者だろう──もリンス嬢に引けを取ることなく応戦している。この甲高い音から察するに、向こうも何らかの獲物を持っていると考えられる。

「わー、あの人、リンス先輩でしたっけ? お嬢様なのに凄いですねー」

 キリくんが屋上を仰ぎ見て、楽しそうな声を上げる。

「言ってる場合か。俺たちも上がるぞ、キリ」
「はーい!」

 ギルハード様とキリくんも魔法で屋上まで一気にひとっ飛びし、リンス嬢に加勢する。
 これなら安心──

「ミリア!」
「え? わぁっ!」

 ギーシャの声と同時に冷風に煽られた。いきなりのことに目を白黒させていると、こつんと足が何かに当たる。

「蝙蝠!」

 ギーシャが魔法で凍らせたと思われる蝙蝠が一匹、二匹、三匹──いっぱい! まだ他にもいるし!

「また!? ああ、もう! うじゃうじゃと──Gか!」
「わかります。一匹見たら三十匹はいると思え感が・・・・・・」

 マリス嬢の言葉に力強く頷いた。

「じー・・・・・・?」

 そういや、ギーシャはあれ見たことなかったっけ。私も転生してからは見てないなぁ。この世界にも存在はしてるらしいけどね。まぁ、王宮や公爵家に出たらそれはそれで問題か。

 マリス嬢が片っ端から浄化しているけど、全然終わりが見えない。

「あー、せめて核が表面に出てれば・・・・・・」
「核が出てると何か変わるんですか?」
「そりゃ、わざわざ探す必要も、魔力を注入する必要もないから、そのまま私の魔力当てれば簡単に浄化出来るわ」

 体内にある核を──。でも、核がどこにあるかは分からないし──。

「ミリア、幸い、ここは外だ。魔力炎上をやるぞ」
「ギーシャ!?」

 ギーシャの提案に私は驚いた。

「いや、魔力炎上って魔力の消費量半端ないやつだよね!?」
「俺とミリアの魔力量なら出来るだろう。俺が蔓延させるから、ミリアが燃やしてくれ」
「えぇ・・・・・・」
「何とか出切るなら、やってください。核が見えたら一網打尽にできるので!」
「わ、わかりましたよ! 失敗しても怒らないで下さいね!」
「じゃあ、始めるぞ」

 目を瞑り、自身の魔力を高め、体内に放つ。ギーシャの魔力は蝙蝠たちを包み込むように広まっていった。
 魔力炎上とはその名の通り、魔力を燃やして、対象物を消し炭にする魔法。魔力を充満させて、その魔力に炎魔法で着火する。要は充満魔力はガソリンで、炎魔法がライターってことだ。
 やり方自体は簡単だけど、強い魔力が必要になる。充満させる魔力ももちろんだけど、炎魔法も充満魔力より弱ければ、押し負けて火がつかない。
 ギーシャの魔力に合わせるなら、半端な魔法じゃダメ。思いっきりやらなきゃ。炎魔法はメイアーツの十八番。大丈夫。

「ミリア、炎を」

 私はゆっくり深呼吸をして呪文を唱える。

「この手にあるのは篝火に非ず、夜明けを告げる太陽の炎なり!」

 ギーシャの合図と同時に炎を放つ。まるでお酒をかけたように炎は凄い勢いで燃え上がり、蝙蝠たちは一瞬で紅炎に包まれた。白の魔力以外は効きにくい闇魔法でも、この火力なら何とかなるだろう。
 やがて、その中でキラリと黒い光が見えた。燃えた蝙蝠も体から現れた黒いひし形の小さな結晶。あれが核なのだろう。
 それを視認すると同時にマリス嬢が魔力を放った。

「闇より生まれし者よ、白光に消え去れ──!」

 眩い光に思わず目を瞑る。細くなる視界の中で、黒い結晶が砕け散るのが見えた。
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