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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

忍者がやるアレ

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「白紙だねぇ」
「香水でも振りかけているのか? 柑橘類の香りがする」

 お父様とギーシャが白紙を眺めていると、私は封筒の端っこに何かが描かれているのに気づいた。
 何だろう? とんがりが一個足りない星と人参? いや、見覚えあるな。

「あ! クナイと手裏剣!」
「びっくりした。どうしたの? ミリア」

 合点がいった私が大声で描かれているものの名前を言ったから、お父様がびっくりしている。

「くない? しゅりけん?」

 ギーシャが横から復唱して、封筒を覗き込んでくる。
 クナイと手裏剣というのはあれだ。忍者が使う武器。前世の世界では時代劇とかで見た。そうだ、クナイと手裏剣だ。何かが分かって改めてみると、かなり上手な絵だった。
 でも、何で?

「東方の隠密が使う投擲武器だっけ? ミリア、よくそんなの知ってたね」
「あー、海外の本でたまたま読んでて」

 以前は東の島国にいたので。
 とは言えないから、適当に誤魔化した。

「東方の本はまだそんなに流通してないのに、どうやって入手したんだ?」
「あー、ラウルに貰って・・・・・・?」
「なるほど」

 なんとか納得してもらい、ほっとした。
 まぁ、ギーシャが疑問に思うのも無理はない。私たちの住んでいる大陸は海流の影響で海の向こうにある島とはなかなか接触出来ないから。大陸内でも経済は回るし、食料とかにも困らないけど。基本、大陸内ってどこも地産地消だし。
 ずっと大陸は海向こうの国と縁がなかったけど、ここ数十年で新しい海路が見つかったから最近は貿易も盛んになってきているらしい。その筆頭がラウルの実家のシーエンス家だったから、ギーシャも納得したのだろう。

「マリスもよく知ってたな。ところで、ミリア。この手紙の意図は分かるか?」
「ちょっと考えさせて」

 マリス嬢がクナイや手裏剣を知っているのは転生者だからとして、問題はこの手紙だ。

 白紙にクナイ、手裏剣、忍者──忍者?
 白紙と忍者?

 ──は!

 これはひょっとしてあれじゃない?
 時代劇とかで見るあの忍者がやるやつ。
 私は思い当たることがあり、魔法で人差し指の先にライターみないた小さな火を灯した。
 その上に、紙を翳す。火が燃え移らないように慎重に。

「これは──」
「やっぱり、あぶり出しだ!」

 予想的中! しっかり蜜柑の汁とかで書いてそれを炙ると書いたものが浮かび上がってくるやつ。小学校の理科の実験でやったなぁ。原理は知らんけど。

「へぇ。酸化反応を利用しているのかな? レイセンは魔法があるから化学は普及してないけど、だからこそ意表をつけるのかもね。ところでミリアは手紙の正体がわかったってことはどうして文字が浮かび上がるのか知ってるの? 教えてほしいな」

 お父様の無邪気な質問に私は危うく、火の出力を誤りそうになった。

 父よ、貴女の娘は折り紙つきの化学音痴です。それはもう、前世から。

 理数系で何度寿命の縮む思いをしたことか。
 私はひっそりと前世の苦手科目を思い出し、人知れず遠くを眺めた。
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