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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

王子

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「ギーシャ、平気?」
「・・・・・・」

 ギーシャは無言で掌を見つめている。じわりと血が浮き上がり、小さな赤い粒が白い肌に留まっている。

「癒しあれ」

 私はそっとギーシャの手を握り、治癒魔法の呪文を呟いた。傷は塞がり、後には血粒だけが残った。ポケットからハンカチを取り出し、私はそれを拭った。白い布に赤い点々が染みた。

「すまない。ハンカチを貸してくれ。洗って返す」
「いいよ。気にしないで」
「だが・・・・・・」
「いいの!」

 譲らないという意志を込めて強めに言うと、ギーシャは引き下がった。
 私はハンカチを開き、血がついた面が内側になるように畳み、ポケットに仕舞う。

「俺は・・・・・・」
「うん」

 ギーシャが小さな声を上げる。私はただ、相槌を打った。

「俺は、誰かに恨まれているのだろうか・・・・・・」

 ギーシャは人から向けられる憎悪に酷く弱い。あの闇魔法がギーシャを狙ったものだとすれば、ギーシャに恨みがある者という可能性だってある。そのことが、ギーシャを追い詰めているのだろう。

「誰も俺に関心はないだろうし、俺もそうあるよう努めていた。なのに、どうして・・・・・・」

 ギーシャは自分が注目を浴びないよう努めているつもりなのだろう。だが、実際は見目はいいし、優秀だし、身分もある。注目されないわけがない。ギーシャが目立たないように出来ていると思い込んでいるのは、単に高嶺の花扱いされているだけだ。後は、ギルハード様が側にいるのも大きいかなぁ。
 とはいえ、ギーシャにそれを言うのも気が咎める。自分が人に見られていると知れば、ギーシャは心の平穏を保てなくなってしまうだろうから。
 ギーシャが納得出来て、尚且つ、怯えない伝え方は──。

「ギーシャに関心がなくても、ギーシャ王子に関心のある人はいるってことだと思うよ」
「王子?」
「そう。王子様としてのギーシャを皆が見てしまうのはあり得るでしょ?」

 あくまで、ギーシャ個人ではなく、王子として。

「王子として、か」

 考え込み始めたギーシャに私は声をかけなかった。これはギーシャが自分で考えるべきことだと思うから。

 窓の外を眺めると、外の木の枝に鳩が留まっていた。
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