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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

誰のため

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「何でしょう?」
「貴女、今日ギーシャ王子のこと「ギーシャ」って呼んだわよね? 昨日は王子って読んでたのに。どうして?」

 おおう。これは嫉妬フラグか? え? やばい? 私ターゲットにされちゃう?
 脳内でゲームの選択しみたいなのがぽこぽこ浮かび上がってくる。
 しかし、マリス嬢の顔には怒りも嫉妬の色も見えなかった。ただ、何かを知りたがっている。そんな表情。

「えーっと、ですね。こ存じかどうかは知りませんが、私とギーシャって初等部までは仲良かったんです。けど、中等部に上がる前に疎遠になってしまったというか・・・・・・けど、今回の件で話し合うことが出来てそれで」
「仲直りしたの?」
「別に喧嘩してた訳ではないですけどね」

 当たり障りのない説明をして笑って誤魔化す。

「そう。ギーシャ王子も貴女といて楽しそうだったわね。お互い大事に思ってるんだ」
「今のギーシャの気持ちは分かりませんが、少なくとも私はそうしたいって思ってますよ」

 ギーシャは大事。それだけは確か。
 だから、今度こそ大事にしないと。
 うん。私は一人強く頷いて拳をぎゅっと握り締めた。

「じゃあ、何で奉仕活動部なんて言い出したの? ギーシャ王子のことが大事なら、私やあの女は邪魔でしょう? だったら、適当に私とあの女だけを罰すればいいだけじゃない。貴女なら一生私たちとギーシャ王子を引き離すことだって出来るでしょ?」
「ギーシャだけでなく、貴女やリンス嬢の立場を鑑みての処罰と初めに言いましたよ。それに、私が何の関係もない貴女たちのために動くことは基本的にありません。マリス嬢のそれは思い込みですよ。温情なんかじゃない、そう思ってるのはギーシャのためです」
「ギーシャ王子の?」
「はい」

 必殺! お嬢様スマーイル。なんちゃって。
 これ以上話すと、私の本心がバレかねない。いや、別にバレてもいいけど。
 ただ、ギーシャに関することでマリス嬢とだけ話すというのはフェアじゃない。うん。二人の恋路に関してはノータッチ。あくまで中立って決めてるからね!
 これ以上は喋りませんという意味でにっこにこと笑った。

「・・・・・・そう。貴女は大事なひとのために・・・・・・はぁ」
「マリス嬢!? どうかされましたか?」

 急に棚に手をついてへなへなと脱力するマリス嬢。

「何でもない。ただ、自分がどれだけ自分を見失ってたか自覚しただけ」
「は? 何の話で──」
「マリス?」

 何故かしゅんと項垂れているマリス嬢に困惑してると、ギーシャが戻ってきた。すると、マリス嬢は一転、しゅたっと起き上がり眩い笑顔をギーシャに向けた。

「ギーシャ王子。どうされたんですか?」
「花を運んでたら、店主にマリスを呼んでくるよう頼まれた。マリスこそどうしたんだ? 床にへたり込んでいるように見えたが・・・・・・」
「いえいえ。ちょっと包装用のリボンを落としてしまったので拾ってただけです」
「そうか」

 さっきまでのしおらしさはどこへやら。いつも通りのマリス嬢だった。
 さっきのは何だったんだ?
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