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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
ミカの憤怒
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マリス嬢の一言に室内がしん、とした。
何かな? この空気? ミカさんが笑顔のまま固まっちゃったんだけど。怖いんだけど。
マリス嬢はこの空気に気づいてないのか、無表情で作業を続けている。
「マリス!」
「わっ! 何よ」
再びマリス嬢に飛びつくミカさん。
その顔は頬を膨らませ、眉がつり上がっている。だが、顔の造形のせいか全く怖くない。むしろ可愛い。一方、マリス嬢は冷淡とも言える視線をミカさんに向けている。うーん、マリス嬢もミカさんも可愛い系なのに、マリス嬢はすっごく怖い。この違いはなんだろう? 表情? 精神年齢?
「マリスは初等学校の卒業式楽しくなかったわけ? ケーキ食べたり、歌ったり、踊ったり、先生の人体ぺっちゃららん体操したり! アルバムを見て思い出語り合ったり、ちょっとした告白大会したり! 何もいい思い出がないって言いたいの?」
「待って。人体ぺっちゃららん体操って何ですか?」
必死に話すミカさんに感動する場面なのかもしれないけど、人体ぺっちゃららん体操というパワーワードが気になって他が耳に入ってこない。
「人体ぺっちゃららん体操は人体ぺっちゃららん体操だよ?」
「?」
「ざっくり言うと、風船が萎む感じの人体切断マジックよ」
「なるほど。訳がわかりません」
「まぁ、それは置いといて」
あ、置いといちゃうんだ。気になるなぁ。
「マリスは本当にそれでいいの!? この際、フレイズ学園の件はどうでもいいから!」
「いいの?」
マリス嬢が半眼になる。
どうやら、ミカさんは一緒にした初等学校の卒業式にマリス嬢が何の感慨も抱いてないことが不満らしい。
「楽しくなかった?」
「・・・・・・」
マリス嬢は黙り込んでしまい、それがいけなかったのだろう。ミカさんがますますぷんぷんしだした。
「もおー! マリスのバカ! 知らない!」
「帰るの?」
「帰るよ! 店番抜けて来ちゃったもん! マリスのせいだからね! 今度帰ってきた時はそっちから来なさいよね!」
そうびしっとマリス嬢を指差したミカさんは最後にべーっと舌を見せて駆け足で去って行った。行っちゃった。
「いいんですか? 追いかけなくて」
「ほっといても機嫌直るわよ。あの子、嫌なこととか怒った記憶が翌日まで持たないタイプだから」
「へー」
それはストレスとは無縁のタイプだなぁ。私もそんな感じだけど。
「卒業にいい思い出ないんですか?」
何となく気になって、世間話程度のノリで訊いてみた。
「ないわね。前世からそう」
「前世から、ですか」
「ええ。思い起こせば、幼稚園の卒園式からロクな記憶がないわ」
「え!? そこまで遡る!?」
「ほんっと、今考えればあの頃からなのよ。幼児相手でも油断大敵。大体・・・・・・」
「あ、わかりました。ごめんなさい」
何やら変なスイッチを押してしまったようで、私は即座に謝った。負のオーラが怖い。
ぶつぶつ言っているマリス嬢から視線を逸らすと扉の外に二つの影があるのに気づいた。
「ギーシャ、ギルハード様。どうされたんですか?」
「いや」
「入るタイミングを見失ってしまいまして」
困った表情のギーシャと苦笑いしているギルハード様を見るに、大分前からいて入るタイミングを計りかねていたようだ。
「あ、ギーシャ王子」
ギーシャ王子の姿を確認すると、マリス嬢の顔がぱっと華やいだ。
「これが残りの小物だ。後はつんどく物だけだが、手伝おうか?」
「いえ、こちらは私たちだけで充分です。その代わり、飾り付け用の花を馬車に運んで頂けますか?」
「ああ。モモは店にあったが、残りの花は?」
「部屋を出て奥の右手の部屋にあります」
「わかった。ギルハード、行こう」
「はい」
ギーシャとギルハード様が退室すると、マリス嬢はさっきと打って変わって、穏やかな表情になった。
そんなマリス嬢を見て、私は一つの問いを投げかけてみた。
何かな? この空気? ミカさんが笑顔のまま固まっちゃったんだけど。怖いんだけど。
マリス嬢はこの空気に気づいてないのか、無表情で作業を続けている。
「マリス!」
「わっ! 何よ」
再びマリス嬢に飛びつくミカさん。
その顔は頬を膨らませ、眉がつり上がっている。だが、顔の造形のせいか全く怖くない。むしろ可愛い。一方、マリス嬢は冷淡とも言える視線をミカさんに向けている。うーん、マリス嬢もミカさんも可愛い系なのに、マリス嬢はすっごく怖い。この違いはなんだろう? 表情? 精神年齢?
「マリスは初等学校の卒業式楽しくなかったわけ? ケーキ食べたり、歌ったり、踊ったり、先生の人体ぺっちゃららん体操したり! アルバムを見て思い出語り合ったり、ちょっとした告白大会したり! 何もいい思い出がないって言いたいの?」
「待って。人体ぺっちゃららん体操って何ですか?」
必死に話すミカさんに感動する場面なのかもしれないけど、人体ぺっちゃららん体操というパワーワードが気になって他が耳に入ってこない。
「人体ぺっちゃららん体操は人体ぺっちゃららん体操だよ?」
「?」
「ざっくり言うと、風船が萎む感じの人体切断マジックよ」
「なるほど。訳がわかりません」
「まぁ、それは置いといて」
あ、置いといちゃうんだ。気になるなぁ。
「マリスは本当にそれでいいの!? この際、フレイズ学園の件はどうでもいいから!」
「いいの?」
マリス嬢が半眼になる。
どうやら、ミカさんは一緒にした初等学校の卒業式にマリス嬢が何の感慨も抱いてないことが不満らしい。
「楽しくなかった?」
「・・・・・・」
マリス嬢は黙り込んでしまい、それがいけなかったのだろう。ミカさんがますますぷんぷんしだした。
「もおー! マリスのバカ! 知らない!」
「帰るの?」
「帰るよ! 店番抜けて来ちゃったもん! マリスのせいだからね! 今度帰ってきた時はそっちから来なさいよね!」
そうびしっとマリス嬢を指差したミカさんは最後にべーっと舌を見せて駆け足で去って行った。行っちゃった。
「いいんですか? 追いかけなくて」
「ほっといても機嫌直るわよ。あの子、嫌なこととか怒った記憶が翌日まで持たないタイプだから」
「へー」
それはストレスとは無縁のタイプだなぁ。私もそんな感じだけど。
「卒業にいい思い出ないんですか?」
何となく気になって、世間話程度のノリで訊いてみた。
「ないわね。前世からそう」
「前世から、ですか」
「ええ。思い起こせば、幼稚園の卒園式からロクな記憶がないわ」
「え!? そこまで遡る!?」
「ほんっと、今考えればあの頃からなのよ。幼児相手でも油断大敵。大体・・・・・・」
「あ、わかりました。ごめんなさい」
何やら変なスイッチを押してしまったようで、私は即座に謝った。負のオーラが怖い。
ぶつぶつ言っているマリス嬢から視線を逸らすと扉の外に二つの影があるのに気づいた。
「ギーシャ、ギルハード様。どうされたんですか?」
「いや」
「入るタイミングを見失ってしまいまして」
困った表情のギーシャと苦笑いしているギルハード様を見るに、大分前からいて入るタイミングを計りかねていたようだ。
「あ、ギーシャ王子」
ギーシャ王子の姿を確認すると、マリス嬢の顔がぱっと華やいだ。
「これが残りの小物だ。後はつんどく物だけだが、手伝おうか?」
「いえ、こちらは私たちだけで充分です。その代わり、飾り付け用の花を馬車に運んで頂けますか?」
「ああ。モモは店にあったが、残りの花は?」
「部屋を出て奥の右手の部屋にあります」
「わかった。ギルハード、行こう」
「はい」
ギーシャとギルハード様が退室すると、マリス嬢はさっきと打って変わって、穏やかな表情になった。
そんなマリス嬢を見て、私は一つの問いを投げかけてみた。
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