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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

ミカ・ラミド

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 ・・・・・・えーと、誰?

 私が首を傾げて床に転がっているマリス嬢と彼女に抱きついている少女を眺めていると、マリス嬢が気づいたようにこちらを見た。

「ちょっと、ミカ。一先ず離れて。立てない」
「あはは。ごめーん」

 ミカと呼ばれてたから、ミカ、さんでいいのかな?
 ミカさんはぴょこんと跳ねるように立ち上がると、マリス嬢の腕を掴んで立ち上がる手助けをしていた。
 マリス嬢はスカートの裾をぽんぽんと叩きながら少しほどけてしまったエプロンのリボンを絞め直す。

「あのー」
「ん? この子だぁれ?」
「あー、えっと知り合い?」
「ですね?」
「なんで疑問系?」

 私たち三人の頭上で疑問符が乱舞している。
 んー、貴族バレしちゃってるけど、一応お忍び? で来てる訳だし、流石にメイアーツって名乗るのはなぁ。

「はじめまして。ミーアって言います」

 とりあえず、偽名を使った。

「はじめまして! 私はこの近くの手芸屋『竜の髭』の娘のミカ・ラミドって言います。よろしくね!」
「こちらこそ」

 ミカさんに差し出された手を握り返して、私たちは握手を交わした。

「てゆーか、本当に何しに来たのよ、貴女」
「あ、そーだ! 訊いたわよ、マリス! アンタ、シュナイザー家のご令嬢と殴り合いした挙げ句、メイアーツ家のご令嬢踏んづけて高笑いしたんだって? もー、アンタって昔から見掛けによらずきかないってゆーか、過激なんだから」
「高笑いしたのは私じゃないわよ」

 うん。高笑いしてたのは確か、リンス嬢だね。なんか色々混じってるっぽいね。というか、何故この子が知ってるんだろう?

「その話、どこから訊いたのよ?」
「うちを贔屓にしてくれるフレイズ学園の生徒さんがいて、さっき店にいらっしゃった時に訊いたのよ。大丈夫なの? メイアーツって国王陛下のお兄様の婿入り先でしょ? もしかして、ご令嬢怒って打ち首獄門じゃー! とか」

 いやいやいや。ないない。
 私は内心首を振った。というか、何故イメージが和風。え? 何? 私が知らないだけで、メイアーツ家ってそんなイメージなの? お母様の影響で鮮烈というか、苛烈というか、炎みたいなイメージ持たれるのは知ってたけど。和の要素ゼロなんですけど??

「まぁ、罰則は受けることになったけど、命には関わらないから貴女が気にすることじゃないわ」
「そうなの? よかったー! あ、でも、やらかしたの卒業パーティーでなんだって?」
「ええ」
「もうもう! ダメじゃん! せっかくのパーティーでそんなことしちゃ! マリスだって、楽しみたかったでしょ?」

 頬をぷくーっと膨らませて、ミカさんがマリス嬢にお説教を始める。

「今思えば、周囲に迷惑をかけた自覚はあるわ」
「そうじゃなくてー。ほらほら、初等学校でも卒業式の後に教室でパーティーしたじゃない? あれ楽しくなかった?」

 ミカさんが言っている初等学校というのは、平民階級の子が通う学校のことだろう。レイセンでは民間の学校もあるし、生徒数がそれなりにいれば国から経費も落ちるし、義務教育ではないけど、初等学校は皆出ているというのが平常だ。
 にしても、マリス嬢淡々としてるなぁ。あまりパーティーとか、お祭とかに興味のないタイプなのかな?
 マリス嬢はミカさんの話を聞き流しながら手を動かしている。あ、私もやらなきゃ。
 私が小箱の中身に手を突っ込むと、マリス嬢がぽつりと言った。

「そもそも、卒業の何がめでたいのかわからないわ。」
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