上 下
52 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

in 花屋

しおりを挟む
「マリス嬢」
「ミリア嬢にギルハード様まで・・・・・・どうしてここに」
「卒業パーティーに使う魔法道具を借りに魔法道具店によって、少しここらの店を見て回っていた。マリスこそ、どうしてここに」
「えーっと・・・・・・」

 マリス嬢は何やら恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてそわそわと瞳孔が忙しなく動いている。

「おや、あんたらマリスの知り合いなのかい?」
「あ、はい。同じ学校で」
「フレイズ学園の? どうりで立派な身なりをしているわけだ」
「へ?」

 私は思わず自分の格好を見た。一応浮かない程度の服装を心掛けているんだけど。ギーシャとギルハード様も出掛ける際に着替えたし。

「いい布使ってるからねぇ。見れば分かるよ。時々お貴族様はお忍びでいらっしゃるけど、もうバレバレなのを気づかないフリするのが大変さぁ!」

 おばさんは陽気にけらけらと笑っている。
 うん。うちの国は平和だなぁ!
 でも、次に町に行く時はもっと気をつけよう。
 レイセン王国は魔法犯罪に厳しく、日夜、魔法を使った捜査は進化している。そのため、普通の犯罪なんて即座に犯人は捕まってしまうから、レイセン王国は大陸の中でも犯罪率が低く、逮捕率は高い。
 国によっては王侯貴族と平民の軋轢が生じてる所もあるから、それに比べたらレイセン王国の貴族と平民の中は良好だろう。特に、お花見シーズンとか、身分差気にせず無礼講ではしゃいだりしてるし。

「そうなんですか。でも、どうしてマリス嬢が中部に?」
「別に不思議じゃないでしょ。地元なんだから」
「地元? ああ、そういえば東区中部の喫茶店の一人娘って設定でしたね」
「設定? ミリア、マリスの実家を知っていたのか?」
「えっ! ああ、うん。まぁ」

 ギーシャに言われて、思わず言い淀む。危ない危ない。転生者相手だと口を滑らせやすいや。
『祝愛のマナ』で主人公の実家は東区の喫茶店とされていたから、そこら辺はゲーム通りなのだろう。

「地元なのは分かりましたけど、何故花屋に? 見たところ、お手伝いをしているみたいですが」
「ああ、パーティー用の花をここで用立ててもらおうと思ったのよ。マダムのところは見栄えするもの多いし、センスもいいから。それに質に比べて安いもの」
「あ、ほんとだ」

 屈んで近くにあった花の値札をみると、相場より安い。うーん。ここら辺は質のいい店が多いなぁ。
 王都の店だって値段以上のものがたくさんあるけど、貴族の客層を予想してるからやっぱ高い。

「そうそう。そのモモもその子が取り置きしてるんだよ。店を手伝ってくれるっていうし、出血大サービス。特別価格さ」
「わぁ、ありがとうございます。マリス嬢はそれでお手伝いしてたんですね」
「正確にはこの春期休暇と夏期休暇に手伝うって条件。今日はさっきまで混んでたから人手足りないだろうしって手伝ってたの。もう落ち着いたからさっき来た雑貨の在庫を裏倉庫にしまったら仕事に戻るわ」

 マリス嬢はそう言って持っていた小箱を棚の脇に置いた。

「マリス、棚の補充はこっちでやっておくから、後は在庫を運ぶの頼むよ。結構な量だけど平気かい?」
「繁盛期だからしょうがないんでしょうけど、随分発注したわね。まぁ、一人でも平気でしょ」
「あの、よかったら手伝いましょうか?」
「え?」
「って、ギーシャが言ってます」
「ミリア」

 ギーシャが働いているマリス嬢を見て少しそわっとしたから言ってみた。肩入れするわけじゃないけど、男手があった方が良さそうだし、時間短縮も出来るだろう。

「いや、ギーシャ王子に手伝わせるわけには・・・・・・」
「役に立てるなら俺は構わない」
「それに、私たちこれからシーエンス家に向かうんです。マリス嬢も会場を見ておいた方がいいでしょうから、早めに着くためにもお手伝いさせてください。店主さんも構いませんか?」
「そりゃあ、手伝ってくれるなら大助かりだよ!」
「・・・・・・そういうことなら」

 エプロンの裾を揉むように弄っていたマリス嬢は快くとはいかないまでも、ぎこちなく申し出を受け入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

処理中です...