46 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
誓約、故障、ドロップキック
しおりを挟む
「──と、いうわけでこちらの魔力測定器で貴方に魔力測定をしていただきたいのです!」
「話は理解した。しかし、ギーシャ殿下が断ったのなら受けることは出来ない」
半ば無理矢理店内に案内されたギルハード様はロイドさんからの話を聞いて、首を横に振った。
ギルハード様はロイドさんの近い距離感に慣れないのか肩を竦ませている。
「そこをなんとか! それに、この測定器の解析機能を使えば、『茨の魔王』の異常魔力についても新しい発見があるやもしれませんよ!」
粘るロイドさんが発した言葉に、ギルハード様、ギーシャ、そして私が反応した。
ギルハード様にとって、他者を傷つける恐れのある自身の体質は最大のコンプレックスだ。ギーシャだって知っているだろう。だから二人が反応を示すのはわかる。
私も、ギルハード様の体質には思うところがある。私は『祝愛のマナ』で体質による悩みから解放されたギルハード様を知っている。
ハッピーエンドで起こった奇跡。どうしようもない悲劇もどんでん返しで大団円にしてしまえるレイセン王国の秘密。
けれど、どうしてギルハード様が解放されるかはわかっても、どうすればギルハード様を解放出来るかはわからない。
可能性とも呼べないそれを告げることは出来ない。
ギーシャほどではないけど、ギルハード様にも私は一雫ほどの罪悪感を抱えている。だからだろうか。
「俺は──」
戸惑っているギルハード様の代わりに、私はロイドさんに言った。
「ロイドさん、紙とペンを貸していただけますか?」
「はい。構いませんよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ところで、一体何を──誓約書?」
私は紙にペンを走らせ、誓約書という文字の下にその内容を書いた。
一つ、ギルハード・レイヴァーンが猫の爪の魔力測定器を使用するに当たって、測定器に故障を来しても、ギルハード・レイヴァーンおよび、その関係者は責任を負わない。
一つ、魔力測定器で測定したギルハード・レイヴァーンの魔力は解析のみをし、その情報、測定器の残存魔力を他の目的に使わない。
「この二つの条件を飲んで貰えるなら、受けてもいいんじゃない? もちろん、判断はお二人に任せますけど」
私は書いた誓約書をギーシャに渡した。
ギーシャはそれに目を通し、ギルハード様にも見せた。
「何故、誓約書を?」
「何事も保険をかけておきなさいというのが両親の教えですので」
ロイドさんの質問に答えてる間、ギーシャはギルハード様と話し合っていた。
「この条件なら特に問題はないが──ギルハードはどう思う? 嫌なら──」
「お心遣い感謝します。殿下。ミリア嬢も。考え方は違うようですが、お二人とも私を気遣ってくださっているのは伝わりました。ロイド殿。この誓約書にサインをして貰えれば、協力しよう」
優しい声音でそうギーシャに言ったギルハード様はロイドさんに向き合い、協力の旨を告げる。
「本当ですか! するする! します! はい、しました!」
ロイドさんは上機嫌に誓約書にさらさら~っとサインをした。
誓約書さえあれば、万一の際にも対処できる。ロイドさんだってレイセン王国で魔法に関する誓約をするという意味は理解しているだろう。
「サインしました! では、早速」
「ああ。これを腕につければいいんだな?」
「はい。レバーを引いたら魔力を込めてください」
ギルハード様がレバーを引くと、さっきと同じように測定器は稼働し始めた。
が、硝子菅を通る魔法光が異常に強い光を放ち、歯車が黒板を引っ掻いたみたいな不快な音を立てている。しかも、測定器はガタガタと大きく震えている。
「こ、これ、不味いんじゃ──」
「いえいえ! 行けますって!」
「いや、無理だろう。ギルハード、危険と思ったらやめて──」
ギーシャが言い終える前に、測定器が音を上げた。ぼんっという大きな音と共に、煙をあげている。中の硝子菅はひび割れ、歯車は外れ、部品がぽろりと落ちて床に転がった。完全な魔力によるオーバーヒート。
火花と電光を放ちながら、レンズは中にエラーを示す大陸共通語を表示している。その上には100000の数値。恐らく、それがこの測定器の限界値なのだろう。
「・・・・・・あちゃー」
最初に口を開いたのはロイドさん。少し呆気に取られた顔をしている。
「行けると思ったんですが、ダメでしたねぇ」
「すまない」
壊す可能性があるのはわかっていたが、それでも実際に壊してしまったことを申し訳なく思ったのだろう。ギルハード様が静かに謝辞を述べる。
「いえいえ、お気になさらず。なるほど、100000ですか。現在測れる最高値が50000ですから、上出来ですね。これだけでも収穫はありました。ありがとうございます」
ロイドさんが床に散らばった欠けた部品を拾い始めたので、私たちも手伝った。黙々と拾い上げる作業をしていると、突如、店内に大きな声が響き渡る。
「ああ────!!! ロイドっ! おまっ、何して!」
恐らく店の奥にいたであろう青年が目をくり向いてわなわなと震えている。
瑞々しいオレンジみたいな色合いの跳ねた髪に、髪の色に少し赤を足したような濃い色の活発そうな瞳。額にゴーグルをした青年にロイドさんが小さく手を振る。
「あ、エリック。ごめーん。これ、壊しちゃ──うごぅ!?」
軽い感じで謝るロイドさんにエリックと呼ばれた青年は見事なドロップキックを噛ました。
あまりにも俊敏な動きに、ギルハード様は感心し、ギーシャは気にせず、部品拾いを続け、私は一旦思考が停止した。
「話は理解した。しかし、ギーシャ殿下が断ったのなら受けることは出来ない」
半ば無理矢理店内に案内されたギルハード様はロイドさんからの話を聞いて、首を横に振った。
ギルハード様はロイドさんの近い距離感に慣れないのか肩を竦ませている。
「そこをなんとか! それに、この測定器の解析機能を使えば、『茨の魔王』の異常魔力についても新しい発見があるやもしれませんよ!」
粘るロイドさんが発した言葉に、ギルハード様、ギーシャ、そして私が反応した。
ギルハード様にとって、他者を傷つける恐れのある自身の体質は最大のコンプレックスだ。ギーシャだって知っているだろう。だから二人が反応を示すのはわかる。
私も、ギルハード様の体質には思うところがある。私は『祝愛のマナ』で体質による悩みから解放されたギルハード様を知っている。
ハッピーエンドで起こった奇跡。どうしようもない悲劇もどんでん返しで大団円にしてしまえるレイセン王国の秘密。
けれど、どうしてギルハード様が解放されるかはわかっても、どうすればギルハード様を解放出来るかはわからない。
可能性とも呼べないそれを告げることは出来ない。
ギーシャほどではないけど、ギルハード様にも私は一雫ほどの罪悪感を抱えている。だからだろうか。
「俺は──」
戸惑っているギルハード様の代わりに、私はロイドさんに言った。
「ロイドさん、紙とペンを貸していただけますか?」
「はい。構いませんよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ところで、一体何を──誓約書?」
私は紙にペンを走らせ、誓約書という文字の下にその内容を書いた。
一つ、ギルハード・レイヴァーンが猫の爪の魔力測定器を使用するに当たって、測定器に故障を来しても、ギルハード・レイヴァーンおよび、その関係者は責任を負わない。
一つ、魔力測定器で測定したギルハード・レイヴァーンの魔力は解析のみをし、その情報、測定器の残存魔力を他の目的に使わない。
「この二つの条件を飲んで貰えるなら、受けてもいいんじゃない? もちろん、判断はお二人に任せますけど」
私は書いた誓約書をギーシャに渡した。
ギーシャはそれに目を通し、ギルハード様にも見せた。
「何故、誓約書を?」
「何事も保険をかけておきなさいというのが両親の教えですので」
ロイドさんの質問に答えてる間、ギーシャはギルハード様と話し合っていた。
「この条件なら特に問題はないが──ギルハードはどう思う? 嫌なら──」
「お心遣い感謝します。殿下。ミリア嬢も。考え方は違うようですが、お二人とも私を気遣ってくださっているのは伝わりました。ロイド殿。この誓約書にサインをして貰えれば、協力しよう」
優しい声音でそうギーシャに言ったギルハード様はロイドさんに向き合い、協力の旨を告げる。
「本当ですか! するする! します! はい、しました!」
ロイドさんは上機嫌に誓約書にさらさら~っとサインをした。
誓約書さえあれば、万一の際にも対処できる。ロイドさんだってレイセン王国で魔法に関する誓約をするという意味は理解しているだろう。
「サインしました! では、早速」
「ああ。これを腕につければいいんだな?」
「はい。レバーを引いたら魔力を込めてください」
ギルハード様がレバーを引くと、さっきと同じように測定器は稼働し始めた。
が、硝子菅を通る魔法光が異常に強い光を放ち、歯車が黒板を引っ掻いたみたいな不快な音を立てている。しかも、測定器はガタガタと大きく震えている。
「こ、これ、不味いんじゃ──」
「いえいえ! 行けますって!」
「いや、無理だろう。ギルハード、危険と思ったらやめて──」
ギーシャが言い終える前に、測定器が音を上げた。ぼんっという大きな音と共に、煙をあげている。中の硝子菅はひび割れ、歯車は外れ、部品がぽろりと落ちて床に転がった。完全な魔力によるオーバーヒート。
火花と電光を放ちながら、レンズは中にエラーを示す大陸共通語を表示している。その上には100000の数値。恐らく、それがこの測定器の限界値なのだろう。
「・・・・・・あちゃー」
最初に口を開いたのはロイドさん。少し呆気に取られた顔をしている。
「行けると思ったんですが、ダメでしたねぇ」
「すまない」
壊す可能性があるのはわかっていたが、それでも実際に壊してしまったことを申し訳なく思ったのだろう。ギルハード様が静かに謝辞を述べる。
「いえいえ、お気になさらず。なるほど、100000ですか。現在測れる最高値が50000ですから、上出来ですね。これだけでも収穫はありました。ありがとうございます」
ロイドさんが床に散らばった欠けた部品を拾い始めたので、私たちも手伝った。黙々と拾い上げる作業をしていると、突如、店内に大きな声が響き渡る。
「ああ────!!! ロイドっ! おまっ、何して!」
恐らく店の奥にいたであろう青年が目をくり向いてわなわなと震えている。
瑞々しいオレンジみたいな色合いの跳ねた髪に、髪の色に少し赤を足したような濃い色の活発そうな瞳。額にゴーグルをした青年にロイドさんが小さく手を振る。
「あ、エリック。ごめーん。これ、壊しちゃ──うごぅ!?」
軽い感じで謝るロイドさんにエリックと呼ばれた青年は見事なドロップキックを噛ました。
あまりにも俊敏な動きに、ギルハード様は感心し、ギーシャは気にせず、部品拾いを続け、私は一旦思考が停止した。
0
お気に入りに追加
3,268
あなたにおすすめの小説
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる