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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

誓約、故障、ドロップキック

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「──と、いうわけでこちらの魔力測定器で貴方に魔力測定をしていただきたいのです!」
「話は理解した。しかし、ギーシャ殿下が断ったのなら受けることは出来ない」

 半ば無理矢理店内に案内されたギルハード様はロイドさんからの話を聞いて、首を横に振った。
 ギルハード様はロイドさんの近い距離感に慣れないのか肩を竦ませている。

「そこをなんとか! それに、この測定器の解析機能を使えば、『茨の魔王』の異常魔力についても新しい発見があるやもしれませんよ!」

 粘るロイドさんが発した言葉に、ギルハード様、ギーシャ、そして私が反応した。
 ギルハード様にとって、他者を傷つける恐れのある自身の体質は最大のコンプレックスだ。ギーシャだって知っているだろう。だから二人が反応を示すのはわかる。
 私も、ギルハード様の体質には思うところがある。私は『祝愛のマナ』で体質による悩みから解放されたギルハード様を知っている。
 ハッピーエンドで起こった奇跡。どうしようもない悲劇もどんでん返しで大団円にしてしまえるレイセン王国の秘密。
 けれど、どうしてギルハード様が解放されるかはわかっても、どうすればギルハード様を解放出来るかはわからない。
 可能性とも呼べないそれを告げることは出来ない。
 ギーシャほどではないけど、ギルハード様にも私は一雫ほどの罪悪感を抱えている。だからだろうか。

「俺は──」

 戸惑っているギルハード様の代わりに、私はロイドさんに言った。

「ロイドさん、紙とペンを貸していただけますか?」
「はい。構いませんよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ところで、一体何を──誓約書?」

 私は紙にペンを走らせ、誓約書という文字の下にその内容を書いた。

 一つ、ギルハード・レイヴァーンが猫の爪の魔力測定器を使用するに当たって、測定器に故障を来しても、ギルハード・レイヴァーンおよび、その関係者は責任を負わない。
 一つ、魔力測定器で測定したギルハード・レイヴァーンの魔力は解析のみをし、その情報、測定器の残存魔力を他の目的に使わない。

「この二つの条件を飲んで貰えるなら、受けてもいいんじゃない? もちろん、判断はお二人に任せますけど」

 私は書いた誓約書をギーシャに渡した。
 ギーシャはそれに目を通し、ギルハード様にも見せた。

「何故、誓約書を?」
「何事も保険をかけておきなさいというのが両親の教えですので」

 ロイドさんの質問に答えてる間、ギーシャはギルハード様と話し合っていた。

「この条件なら特に問題はないが──ギルハードはどう思う? 嫌なら──」
「お心遣い感謝します。殿下。ミリア嬢も。考え方は違うようですが、お二人とも私を気遣ってくださっているのは伝わりました。ロイド殿。この誓約書にサインをして貰えれば、協力しよう」

 優しい声音でそうギーシャに言ったギルハード様はロイドさんに向き合い、協力の旨を告げる。

「本当ですか! するする! します! はい、しました!」

 ロイドさんは上機嫌に誓約書にさらさら~っとサインをした。
 誓約書さえあれば、万一の際にも対処できる。ロイドさんだってレイセン王国で魔法に関する誓約をするという意味は理解しているだろう。

「サインしました! では、早速」
「ああ。これを腕につければいいんだな?」
「はい。レバーを引いたら魔力を込めてください」

 ギルハード様がレバーを引くと、さっきと同じように測定器は稼働し始めた。
 が、硝子菅を通る魔法光が異常に強い光を放ち、歯車が黒板を引っ掻いたみたいな不快な音を立てている。しかも、測定器はガタガタと大きく震えている。

「こ、これ、不味いんじゃ──」
「いえいえ! 行けますって!」
「いや、無理だろう。ギルハード、危険と思ったらやめて──」

 ギーシャが言い終える前に、測定器が音を上げた。ぼんっという大きな音と共に、煙をあげている。中の硝子菅はひび割れ、歯車は外れ、部品がぽろりと落ちて床に転がった。完全な魔力によるオーバーヒート。
 火花と電光を放ちながら、レンズは中にエラーを示す大陸共通語を表示している。その上には100000の数値。恐らく、それがこの測定器の限界値なのだろう。

「・・・・・・あちゃー」

 最初に口を開いたのはロイドさん。少し呆気に取られた顔をしている。

「行けると思ったんですが、ダメでしたねぇ」
「すまない」

 壊す可能性があるのはわかっていたが、それでも実際に壊してしまったことを申し訳なく思ったのだろう。ギルハード様が静かに謝辞を述べる。

「いえいえ、お気になさらず。なるほど、100000ですか。現在測れる最高値が50000ですから、上出来ですね。これだけでも収穫はありました。ありがとうございます」

 ロイドさんが床に散らばった欠けた部品を拾い始めたので、私たちも手伝った。黙々と拾い上げる作業をしていると、突如、店内に大きな声が響き渡る。

「ああ────!!! ロイドっ! おまっ、何して!」

 恐らく店の奥にいたであろう青年が目をくり向いてわなわなと震えている。
 瑞々しいオレンジみたいな色合いの跳ねた髪に、髪の色に少し赤を足したような濃い色の活発そうな瞳。額にゴーグルをした青年にロイドさんが小さく手を振る。

「あ、エリック。ごめーん。これ、壊しちゃ──うごぅ!?」

 軽い感じで謝るロイドさんにエリックと呼ばれた青年は見事なドロップキックを噛ました。
 あまりにも俊敏な動きに、ギルハード様は感心し、ギーシャは気にせず、部品拾いを続け、私は一旦思考が停止した。
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