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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
馬車の中の三人
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がたがたと車輪が回る音を聞きながら、馬車の中から町の外を眺める。
中部くらいに来ると、露店とかもちらほらあるから見てて楽しい。
「ミリア嬢、その体勢では危ないですよ」
「あ、はーい」
ギルハード様に注意されて、座席で膝立ちをしていた私は足を下ろして靴を履いた。馬車はシートベルトとかないからね。てゆーか、ちょっと子供っぽかったな。反省。
「昔もよくそうやってアルクたちに叱られてたな」
隣に座っているギーシャが懐かしそうに言った。
そんなこともあったねぇ。ギーシャと遊ぶのは大抵王宮だったけど、時折お兄様に連れ出されて外で遊んだこともあったと思い出す。
今、私とギーシャ、そしてギルハード様は『猫の爪』という魔法具専門店に向かっている途中だ。私とギーシャが並んで座って、向かいの席にギルハード様が座っているという席順。
「ギルハード様、手伝っていただけるのは有難いの ですが、キリくんを置いてきてよかったんですか?」
馬車の手配をしている時に偶然、キリくんに稽古をつけていたギルハード様と会い、ギーシャの処罰について気にしていたギルハード様に事の成り行きを説明責任したら、手伝いを申し出てくれた。
その際、キリくんが拗ねてギルハード様を引き留めようとしたけど、持っていた木製剣がこれまたどっかに旅立って、それを拾いに行ったのを見計らって馬車に乗り込んで出てきてしまったため、今頃キリくんは地団駄を踏んで怒っているかもしれない。
「ギーシャ殿下が処罰を受けるのなら、どこまでも着いていくと決めてましたし、どのようなことでも手伝うつもりでしたから。荷運びなどの力仕事なら役に立てると思います。キリはまだ非力ですので、今は鍛練をさせるのが一番でしょうし、町に連れていくとはしゃいで落ち着きがないので置いてくるのが最善と判断しました」
「今頃、ぷんぷんだと思いますよ?」
「後で機嫌を取って置きます」
苦笑するギルハード様につられて思わず私も笑ってしまった。
「でも、時間も人手も足りなかったので本当に助かります」
「明後日とはまた思い切りましたね」
今日明日で準備というのも無謀な気がするが、そうせざるを得ない事情がある。
「卒業式後は数日経てば地方や国外に旅行に行かれる方もいますから。卒業生が全員集まれるのが明後日までなんです。次に全員集まれるのは高等部の入学式直前ですし、そうすると卒業感が薄れてただのパーティーになってしまいますし」
今回のパーティーの趣旨は卒業だからね。これ大事。
「よく皆の予定がわかったな」
「そこはラウル様々ね」
私が他の生徒たちの春休み中の予定を知っていることにギーシャが驚いているが、それはラウルのおかげだ。昨日、シーエンス家に今回の計画を相談した際にラウルから色々と情報を提供して貰えた。
「シーエンス家は最近旅船業も始めたみたいで、ラウルは卒業前に生徒たちの春休みの予定をリサーチしてたみたいなの。それで全員分の予定を把握してるんだから、商魂逞しいわよね。おかげで助かっちゃった」
「・・・・・・」
私がギーシャに話しかけていると、ギルハード様が珍しいものを見るようにこちらを見てたので私は不思議に思った。
「ギルハード様? どうかされましたか?」
「失礼しました。ただ、ミリア嬢とギーシャ殿下の雰囲気が変わったような気がしましたので」
「ああ」
「変わったというか、戻っただな」
私が納得していると、隣でギーシャが嬉しそうに言った。
「ギルハード様がギーシャの騎士になったのはギーシャが中等部一年の時でしたものね。初等部の頃は私たち、こんな感じだったんです」
「そうだったんですか。ギーシャ殿下が嬉しそうでなりよりです。ミリア嬢、処罰の件ですが、寛容なご判断感謝致します」
「頭を上げてください。そこまで感謝されることはしてませんから」
頭を下げるギルハード様に私は慌てて言った。
「ギルハード、すまない。心配をかけたようだな」
ギルハード様の様子を見てギーシャは眉を下げながら言った。言い方からしてギーシャ、ひょっとしてギルハード様がずっと心配してたの気づいてなかった? やっぱり、ギーシャの今後の課題は周囲の人に対する共感能力の向上かなぁ。
「いえ。私に謝罪は不要です。ギーシャ殿下は今は目の前のことに集中なさって下さい。私も出来る限り協力しますから、何でもご命令下さい」
「いつもお前には助けられているな。ありがとう」
少しぎこちないけど、確かな信頼のある主従関係を目にしてなんだかほっとした。
ギーシャにギルハード様がいたことが私にとっての救いだ。
二人のやり取りを眺めていると、ギルハード様が思い出したように言った。
「そういえば、奉仕活動部というのは具体的にはどのような活動をされるのでしょうか?」
中部くらいに来ると、露店とかもちらほらあるから見てて楽しい。
「ミリア嬢、その体勢では危ないですよ」
「あ、はーい」
ギルハード様に注意されて、座席で膝立ちをしていた私は足を下ろして靴を履いた。馬車はシートベルトとかないからね。てゆーか、ちょっと子供っぽかったな。反省。
「昔もよくそうやってアルクたちに叱られてたな」
隣に座っているギーシャが懐かしそうに言った。
そんなこともあったねぇ。ギーシャと遊ぶのは大抵王宮だったけど、時折お兄様に連れ出されて外で遊んだこともあったと思い出す。
今、私とギーシャ、そしてギルハード様は『猫の爪』という魔法具専門店に向かっている途中だ。私とギーシャが並んで座って、向かいの席にギルハード様が座っているという席順。
「ギルハード様、手伝っていただけるのは有難いの ですが、キリくんを置いてきてよかったんですか?」
馬車の手配をしている時に偶然、キリくんに稽古をつけていたギルハード様と会い、ギーシャの処罰について気にしていたギルハード様に事の成り行きを説明責任したら、手伝いを申し出てくれた。
その際、キリくんが拗ねてギルハード様を引き留めようとしたけど、持っていた木製剣がこれまたどっかに旅立って、それを拾いに行ったのを見計らって馬車に乗り込んで出てきてしまったため、今頃キリくんは地団駄を踏んで怒っているかもしれない。
「ギーシャ殿下が処罰を受けるのなら、どこまでも着いていくと決めてましたし、どのようなことでも手伝うつもりでしたから。荷運びなどの力仕事なら役に立てると思います。キリはまだ非力ですので、今は鍛練をさせるのが一番でしょうし、町に連れていくとはしゃいで落ち着きがないので置いてくるのが最善と判断しました」
「今頃、ぷんぷんだと思いますよ?」
「後で機嫌を取って置きます」
苦笑するギルハード様につられて思わず私も笑ってしまった。
「でも、時間も人手も足りなかったので本当に助かります」
「明後日とはまた思い切りましたね」
今日明日で準備というのも無謀な気がするが、そうせざるを得ない事情がある。
「卒業式後は数日経てば地方や国外に旅行に行かれる方もいますから。卒業生が全員集まれるのが明後日までなんです。次に全員集まれるのは高等部の入学式直前ですし、そうすると卒業感が薄れてただのパーティーになってしまいますし」
今回のパーティーの趣旨は卒業だからね。これ大事。
「よく皆の予定がわかったな」
「そこはラウル様々ね」
私が他の生徒たちの春休み中の予定を知っていることにギーシャが驚いているが、それはラウルのおかげだ。昨日、シーエンス家に今回の計画を相談した際にラウルから色々と情報を提供して貰えた。
「シーエンス家は最近旅船業も始めたみたいで、ラウルは卒業前に生徒たちの春休みの予定をリサーチしてたみたいなの。それで全員分の予定を把握してるんだから、商魂逞しいわよね。おかげで助かっちゃった」
「・・・・・・」
私がギーシャに話しかけていると、ギルハード様が珍しいものを見るようにこちらを見てたので私は不思議に思った。
「ギルハード様? どうかされましたか?」
「失礼しました。ただ、ミリア嬢とギーシャ殿下の雰囲気が変わったような気がしましたので」
「ああ」
「変わったというか、戻っただな」
私が納得していると、隣でギーシャが嬉しそうに言った。
「ギルハード様がギーシャの騎士になったのはギーシャが中等部一年の時でしたものね。初等部の頃は私たち、こんな感じだったんです」
「そうだったんですか。ギーシャ殿下が嬉しそうでなりよりです。ミリア嬢、処罰の件ですが、寛容なご判断感謝致します」
「頭を上げてください。そこまで感謝されることはしてませんから」
頭を下げるギルハード様に私は慌てて言った。
「ギルハード、すまない。心配をかけたようだな」
ギルハード様の様子を見てギーシャは眉を下げながら言った。言い方からしてギーシャ、ひょっとしてギルハード様がずっと心配してたの気づいてなかった? やっぱり、ギーシャの今後の課題は周囲の人に対する共感能力の向上かなぁ。
「いえ。私に謝罪は不要です。ギーシャ殿下は今は目の前のことに集中なさって下さい。私も出来る限り協力しますから、何でもご命令下さい」
「いつもお前には助けられているな。ありがとう」
少しぎこちないけど、確かな信頼のある主従関係を目にしてなんだかほっとした。
ギーシャにギルハード様がいたことが私にとっての救いだ。
二人のやり取りを眺めていると、ギルハード様が思い出したように言った。
「そういえば、奉仕活動部というのは具体的にはどのような活動をされるのでしょうか?」
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