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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

カタログ

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「戻ったぞ」
「おかえり」

 ギーシャが数枚の紙の束と分厚い本を持って戻ってきた。
 それらを私の机に置く。
 紙には魔法具を取り扱う店の名前と住所、何を専門に扱っているかという簡単な備考などが書かれており、頭には赤いチェックマークがついている。分厚い本は先週更新されたばかりの魔法具のカタログだ。春はお祝い事が多く、プレゼントに魔法具を贈るというのは良くある。そのため、大体、卒業時期の少し前に最新のカタログが発売されるのだ。こちらもギーシャは既に目を通しているらしく、付箋がいくつか貼られている。

「こっちのチェックをつけた店やギルドは王都内にあるものだ。王都の外まで足を運ぶのは厳しいからな」

 時間的にもそうだけど、王都内ならともかく、王都の外だと護衛さんとかつけなきゃだもんね。別に私もギーシャにも護衛って必要ないと思うんだけど、立場上はつけとかないとまずいからね。

「それから、こっちの付箋をつけたページはあくまで事務作業などに適したものを選んだ。パーティーの催し物とかは俺はよくわからないから、ミリアも目を通してくれ」
「わかった」

 私はカタログをパラパラと斜め読みした。一先ず、全部見てみて、気になったページから読もう。カタログには商品名や使用用途、販売元や取扱店だけでなく、商品の写真もあるから便利だ。正確には写真じゃなくて魔法写っていう記録魔法なんだけどね。
 にしても、わかってはいたけど、数が多い。これは大変──ん? 

「これ!」

 一つの商品に目を引かれて、私は飛び上がった。本を抱えて、そのページをギーシャに見せる。

「それが気に入ったのか?」

 私は首をぶんぶん縦に振った。これ、絶対欲しい!
 ギーシャが私が指差した写真を見ると、リストに目を落とす。

猫の爪キャット・クロウか。先月開いたばかりの小さな店のようだな。それにしては、こんな商品を取り扱っているのは気になるが──」
「ねぇねぇ! ギーシャ! これ入手できる?」

 唇に指を当てて思案しているギーシャに訊ねる。

「ん? ああ。店は王都の東区の中部のようだな。馬車でならすぐ着くが──」
「だったら、行こう! 今すぐ! 東区ならシーエンス家に寄れるし、用意出来た備品もついでに運び込んじゃおう。それから、ついでに招待状の配達も。急いで馬車を手配して貰おう!」

 私はギーシャの手を引いて部屋を飛び出した。

「俺も行くのか?」
「性能に見合った額だから、値切り交渉は必須だし、私じゃそういう交渉無理だからギーシャも一緒に来て! その代わり、お愛想なら任せて!」

 交渉には笑顔が大事ってお父様もお母様も要ってたからね!
 初等部の頃はよく、私が笑顔で相手を懐柔して、ギーシャが話術でおねだりを通したものよ。
 まぁ、今回の相手は本物の商人さんだけど。

 とにかく、行ってみよう! 猫の爪へ!
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