上 下
33 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

交際禁止令

しおりを挟む
「あ、ところでマリス嬢とリンス嬢。ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「ええ」
「何よ」

 私が二人をちょいちょいと手招きすると、二人はそれに従ってこちらへ来たのでそのまま部屋の角に移動する。

「ミリア?」
「二人と少し話したいから、ギーシャは気にせずお茶飲んでて!」

 一人ソファに取り残されたギーシャにそう言うと、私は二人に向き合う。

「実は、二人にはもう一つ罰があります」
「「え?」」

 急な話に二人は驚いているが、私は構わず続けた。

「今回の件でリンス嬢はギーシャと婚約保留になりましたよね」
「え、ええ。お母様に「淑女が大衆の面前で人を放り投げるなんて、言語道断!」ってお叱りを受けて、一から鍛え直すから婚約の件は事実上流れたわ」
「ふん。いい気味」
「ん?」

 しゅんとしていたリンス嬢だが、マリス嬢に鼻で笑われ、じとりと睨みつける。

「お二人共! ダメですよ!」

 私が強めに注意すると、二人は大人しくなった。

「それで、婚約の件が何か?」
「婚約の件と言いますか、お二人には奉仕活動期間中の禁止事項がありまして」
「禁止事項って何よ?」
「ギーシャとの交際禁止です」
「「え」」

 私がそう伝えると、二人は思わず固まった。

「ああ。もちろん、この交際は男女交際という意味での交際ですよ?」

 同じ部活をしていく以上、交流は避けられないから当たり前だけど、一応つけ加えておく。

「交際禁止って──」
「そもそも、お二人のギーシャの取り合いが事の発端ですから。今のところ、ギーシャの気持ちはマリス嬢に傾いているようですが、リンス嬢が事実上の婚約破棄をして、マリス嬢がハッピーエンド、じゃ不公平でしょう?」

 二人共互いに思うところがあるのか、ピクリと身じろいだ。

「奉仕活動期間中ということは、期間が明けたら」
「もちろん、お好きにしていただいて結構ですよ。ギーシャの意思は尊重していただきますけど。アプローチならご自由に──って、訊いてます?」

 わー、また火花が散ってる。背後に炎と虎と龍が見えるんですけど。
 ま、いいや。

「貴女たちには期待していますよ。頑張ってギーシャを落としてくださいね」

 小さな声で呟く。まぁ、声を潜めなくても今の二人には聞こえないだろうけど。
 三人を一緒にするこの処罰には私にも利がある。

 ──私はギーシャと一緒にいたいから。
 そのための懸念事項を潰さなくてはならない。
 その方法はギーシャが恋をすること以外ないから。

 そのために二人を利用させてもらう。
 現状、ギーシャが心を傾けているのはマリス嬢だから私としてはそれでも構わないのだけど、リンス嬢が婚約破棄でそのままマリス嬢がギーシャと交際というのは不平等だし、外聞も良くない。シュナイザー家の体面もあるし。
 だから、あくまで三年間は交際を禁止することで周囲が落ち着くのを待つ。いわゆる、ほとぼりが冷めるまで──って奴だ。

 とにかく、マリス嬢だろうが、リンス嬢だろうが、第三者だろうが、ギーシャに恋をしてもらう。

 私はギーシャと一緒にいたくて、ギーシャも同じ気持ちなら、そのためにもそれが必須だ。じゃないと、また同じことの繰り返しになってしまうかもしれない。

「ま、今度は離れないけどね」

 大人しく紅茶を啜りながらソファで待っているギーシャを見て、私は心の中で大丈夫だと呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

王命を忘れた恋

水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...