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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

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 ──もう一度近くにいていい?

 そう訊ねられたギーシャ王子はぽかんとした顔で首を傾げた。

「えっとね、私、中等部に上がる少し前からギーシャ王子に距離を置いてたでしょ」
「ああ」
「けど、もう一度一緒にいたいって思ったの」

 ・・・・・・・・・・・・。

 痛いくらいの沈黙が降りる。
 もっと詳しく言うべきかな? でも、それはそれで前世のボロが出そうで怖いんだよな。

「ミリアは・・・・・・」

 ようやく、ギーシャ王子が口を開いた。

「うん」
「ミリアは俺と一緒にいてくれるのか?」

 じっと、どこか怯えたようにこちらを窺ってくるギーシャ王子。

「うん」

 私は力強く頷いた。

「そ、れは──嬉しい、と思う」

 つっかえながらも、ギーシャ王子が安堵したような微笑みを浮かべて言った。

「ほんとに?」
「ああ」
「よかった」

 幼子のように短い言葉を交わしあいながら、私たちはほっとしながら、けれど少し居心地の悪そうに見つめあった。
 一度開いてしまった距離を戻すのは難しい。以前の私たちはどれくらい近くにいたんだっけ?

「ギーシャ王子、あのね」
「なんだ?」
「私がどうしてギーシャ王子と距離を置いたのかは話せない。けれど、今度はちゃんと傍にいるから」

 ギーシャ王子の手をぎゅっと握りしめて言う。
 今度こそ、この手を離さないようにしよう。
 まだ不安は残るけど、それでも一緒にいよう。少なくとも、ギーシャ王子が欠けたものを取り戻すまでは。

「話さなくていい。俺も、ミリアに話していないことがあるから」
「・・・・・・」
「できれば、ミリアには知ってほしくない」
「わかった。訊かない」

 どこか影を落としてしまったギーシャ王子の要望を私は受け入れる。きっと、これは暗黙の了解。私たちが元通りになるために必要な契約だ。

「じゃあ、これで私たちは元通りだね」
「・・・・・・」
「ギーシャ王子?」

 私の言葉に拗ねたような顔をするギーシャ王子。
 どうしたんだろ?
 私が首を捻っていると、ギーシャ王子が不満げに言った。

「まだ、全部元通りじゃない」
「え?」
「喋り方は昔に戻ったけど、昔のミリアは俺を王子とは呼ばなかった」
「ああ」

 納得した。そして少しだけ笑ってしまった。
 拗ねたギーシャ王子が可愛かったから。
 私は一度深呼吸をしてから、出来る限りの微笑みをギーシャ王子に向けた。

「改めて、よろしくね。ギーシャ」
「ああ、ミリア」

 昔遊んだこの狭い物置部屋で、私たちは笑いあいながら切れてしまった糸をひっそりと結び直した──。
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